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The Gucci Post [国際政治・経済・金融 × プロフェッショナル]

2021/03/17 07:00  | 選挙 |  コメント(1)

泡沫候補の変遷


先週末からグッチーポストで本ブログを始めました。ツイッターとコメント欄で大変暖かいお言葉をたくさん頂戴し、本当にありがたく思います。これから秋の衆院任期満了までいろいろと動きがありそうなので、よく観察してお伝えしていこうと思います。

さて、2回目の今日は、最近大手メディアにもよく取り上げられるようになった「泡沫候補」についてです。

●泡沫候補とは

一般的に、泡沫候補とは、「当選する見込みが非常に低いのに、選挙に出る人」と認識されているかと思います。「インディーズ候補」というおしゃれな言い方もする人もいるようです。

近年、泡沫候補は、東京都知事選を契機に認知度を上げて来た感がありますが、3/21投開票の千葉県知事選では、かなり型破りな泡沫候補が複数エントリーし、SNSや大手メディアでの露出が目立っています。圧倒的なリードを誇る大本命である元千葉市長の熊谷俊人氏や、自民党が推薦する元千葉県議の関政幸氏がすっかり埋没してしまっていると感じるくらいです。

私は長年、ダメな議員や首長などを発掘し、モニターすることを趣味の一つとしてきましたが、泡沫候補は、ネタとしては面白いものの、政治に与える影響は少ないので、正直なところ、そこまでの情熱を持って見てきませんでした。そのため、個々の候補について、特にディープな情報は持ちあわせていません。

しかし、そんな私でも、最近、目が離せなくなっているところがあります。それは、明らかに方向性が変わって来たと感じるからです。

どう方向性が変わって来たかを論じる前に、まずは、過去に名を馳せた泡沫候補たちをおさらいしてみましょう。

●有名泡沫候補列伝

泡沫候補は、大きく4つのタイプに分けられると思います。

(1) 選挙は「ライフワーク」、とにかく出続ける

(2) 政治理念・政策を訴えたい「社会活動家」

(3) 高学歴ながらぶっとんだ主張をアピール

(4) 過去に国政などで活動した経験があるが、政党や選挙区を替え続けて漂流

(1)のライフワークタイプの代表格と言えば、誰あろう羽柴誠三秀吉氏ではないでしょうか。

青森で建設会社やホテルを営む資産家で、自宅が天守閣だったり、国会議事堂だったりして、度肝を抜かれました。東京都知事選、大阪府知事選、長野県知事選などの他、市長選など17もの選挙に挑み、戦国武将姿で派手なパフォーマンスを披露しました。

しかし、これだけ出馬しているにもかかわらず、どんな政策を訴えていたのかはさっぱり思い出せません。政治的な主義主張がはっきりあったような記憶もありません。ただ当選したい、権力の座につきたい、という執念だけが強かったように思います。

(2)の社会活動家タイプの代表格は、「唯一神」を名乗る又吉イエス氏、「フリーウェイクラブ」を結成して首都高無料化を主張する和合秀典氏、「伝説のおかま」こと東郷健氏、「ファシスト党・我々団」を率いる外山恒一氏などです。

このタイプは、政党を作るなど、選挙のとき以外も精力的に考えを訴え、活動しているという特徴があります。皆さんも、都知事選や国政選挙で、一度はその姿を目にされたことがあるのではないでしょうか。

(3)の高学歴ぶっとび系は、何と言ってもドクター中松氏ですね。ジャンピングシューズを履いて飛び跳ねながら選挙活動をやっていたあの発明家です。

マイナーなところでは、「我は平民」の三井理峯女史。手書きの選挙公報や早口で話す政見放送で異彩を放っていました。

(4)の漂流型は、数としては一番多いのではないかと思います。実は、私が一番興味をそそられるのは、このカテゴリーの候補者たちです。

比較的高学歴で、政治的主張も常識的、オーソドックスな選挙活動・政治活動で、一見「普通」の候補者です。しかしながら、過去に衆議院議員や首長などを務めた後、政党や選挙区を変えながら落選を繰り返し、いろんな選挙区に出没するので、「また出ている!」「どこからでもいいのか?」というイロモノのような見方をされるようになります。

たとえば、元川西市長の中川暢三氏がこの枠です。大阪市長選、東京都知事選、兵庫県知事選、神戸市長選、その他兵庫県内の複数の市長選に立候補し、今年の夏には、再び兵庫県知事選に挑むようです。

松下政経塾卒塾後に、当時最年少の26歳で新党さきがけから衆議院(旧東京2区。現在の東京4区)に当選した宇佐美登氏もこのカテゴリーに属します。

ちなみに、中川氏が松下政経塾1期生(途中で退塾)、宇佐美氏が同10期生というのも味わい深い事実です。

宇佐美氏は、2回目の衆院選では落選して、参議院に鞍替え。しかし落選。その後民主党に合流し、再び衆院選に挑むも、落選。2003年には比例復活で国政復帰。しかし2005年に落選。離党して大田区長選に挑むが、落選。2009年は無所属で衆院選を戦うも、落選。2012年には日本維新の会の公認候補としていわき市を含む福島5区から立候補し、落選。その後離党。2013年は、無所属でいわき市長選に出馬して、落選。2017年、いわき市長選に再挑戦するも、落選。その翌月、今度は希望の党から衆院選に比例単独候補として立候補するも、落選。今秋には、いわき市長選に三たび挑むようです。

このように、宇佐美氏は、政党や選挙区を替えながら挑み続け、それぞれの選挙においてはそれなりの健闘をしています。したがって泡沫候補と片付けてしまうのは気の毒でもありますが、負けが込み過ぎて、泡沫感が漂うようになってしまいました。

また、長く国会議員を務め、大臣なども経験して政界引退した後、突如として東京都知事選に立候補し、過去の実績からは考えられないような残念な泡沫候補になってしまった人もいます。

2012年の都知事選に立候補した笹川堯氏や、2016年の東京都知事選に挑んだ山口敏夫氏がそうです。2人とも供託金を没収されてしまう惨敗に終わりました。

山口氏は、世襲議員ながら26歳で衆院選に当選して「政界の牛若丸」と言われ、当選10回、労働大臣も経験した「大物」政治家です。都知事選では、何故か毎日ジャージ姿。政治とは全く関係ないところで何かと政界周辺をざわつかせる上杉隆氏と一緒に街頭活動を行い、東京オリンピックに反対し、森喜朗批判を繰り返していました。

なお、こうした伝説的な泡沫候補たちについて、さらに知りたいと思った方は、インディーズ候補ウォッチャーとして名高い、大川興業の大川豊総裁の著作などを読まれることをお勧めします。

●新たなる泡沫候補たち:選挙は自己表現だ!

これら伝統型ともいえる泡沫候補たちは、(4)の漂流タイプを除いては、有権者がどう感じたかは別として、本人たちは当選を目指しているか、あるいは少なくとも自らの主義主張を訴え、浸透させることを目的としている雰囲気がありました。選挙は、あくまでそのための手段です。

しかし、先に述べたとおり、最近、明らかに方向性が変わってきました。

最初に潮目が変わったなと思ったのは、マック赤坂氏です。マック氏は、選挙でパフォーマンスを披露することが目的だったように見えました。立候補する度に話題をまいた政見放送などはその際たるものです。

このあたりから、泡沫候補にとって、選挙は自己表現の場であるという性格が明確になってきたように思います。つまり、必ずしも当選が目的ではなく、純粋に「自己表現」したい人にしてみれば、知事選や参院選がうってつけの場になると気づいたということです。

公職選挙法は、政見放送について、「日本の国会議員および都道府県知事を選ぶ選挙において、政令で定めるところにより、選挙運動の期間中に日本放送協会(NHK)および期間放送事業者のラジオ・テレビの放送設備により、公益のため、その政権を無料で放送することができる」と定めています。

そして、政見放送は、衆院選では、無所属の候補者と政党要件を満たさない党の候補者はできませんが、参院選選挙区都道府県知事選では、全ての候補者が政見放送を行うことができるのです。

選挙の種類によらず、供託金は必ず支払わなくてはなりませんが、知事選や参院選では300万円です。この供託金を納めるだけで、自らの思うところを編集されることなく、5分間も、NHKや民放という大手メディアで放送することができます。さらにスポーツ紙や雑誌に異色の候補として取り上げてもらえるかもしれない。その広報効果を考えれば、当選せずとも十分な意味があると考える人もいるのではないでしょうか。

マック赤坂氏の場合は、一般財団法人「スマイルセラピー協会」なるものを率いて、講演やボランティア活動を行なっていたようです。政見放送で「スマイル!」「10度、20度、30度」とパフォーマンスすることは、よい広報活動になっただろうと思います。

もっとも、マック氏は、2017年には政見放送のない東京都議選に立候補します。衆院選、参院選、東京都知事選、大阪市長選で思うままにパフォーマンスする中で、知名度が上がって考えが変わったのか、あるいは最初に挑戦した選挙は港区議選だったので、実は真面目にいつか政治家になることを考えていたのか、その心中は分かりません。しかし、結果は落選。

ここであきらめることはなく、2019年には初出馬以来2度目の港区議選に出馬し、見事当選しました。14回目の選挙で初めて議員となったのです。もう泡沫候補とは呼べなくなってしまいました。祝福すべきことですが、ちょっとさびしい気持ちもあります。

●泡沫候補のさらなる進化:N国、YouTube、2020年東京都知事選

このように伝統型とは異なるニュータイプの泡沫候補たちは、その後、SNSの普及とYouTubeの活用によって、さらなる進化を遂げていきます。

まず、元NHK職員の立花孝志氏は、2013年にNHKから国民を守る会(「N国」、現・NHK受信料を支払わない方法を教える党)を結成し、自らが地方選に挑んだり、公認候補を各種地方選に送り込んだりしていたのですが、2016年、船橋市議を辞して東京都知事選に立候補します。そして、政見放送で「NHKをぶっ壊す!」と連呼して注目を集めました(もちろん落選しましたが)。

なお、2016年は、学研ホールディングスがまとめる『小学生白書』において、小学生男子の「将来つきたい仕事」ランキング調査に、YouTuberが自由回答欄に初めて登場しました。そして、2019 年には、YouTuberが1位となりました。

2019年は、泡沫候補の選挙活動において、YouTubeがプレゼンスを発揮したという点で、ある意味で革命的な年ではなかったかと思います。そうした世相に影響されてか、泡沫候補も自己表現の主戦場が、政見放送からYouTubeに移ってきました。

N国は、2019年の統一地方選では、47人を擁立し、なんと26人が当選。その勢いを駆って、同年の参院選には比例区4人、選挙区37人の合計41人を立候補させました。結果、比例区で1議席を獲得し、党首である立花氏が当選。選挙区では1人も当選できませんでしたが、得票率2%を達成したことで、公職選挙法と政党助成法における政党要件を満たし、国政政党となりました。快挙です。

これらの選挙では、NHK受信料に反対であることに加え、YouTuberであることを条件に候補者を募集したと言われています。実際に、N国の候補からはYouTubeやTwitterでの活発な発信が見られました。「YouTubeによって躍進した党」とも言えるくらいです。

泡沫は、当選しないからこそ泡沫なわけですが、N国の場合は、当選してもなお、泡沫候補のフレーバーを失っていないのが面白いところです。やはり、発信することが目的で、選挙結果は二の次なのかもしれません。

さて、YouTubeを活用して国会の議席を手に入れたN国ですが、党首の立花氏は2019年の参院選で当選後、3ヶ月足らずで辞職。参院埼玉選挙区補選に立候補し、落選します。

その後、海老名市長選、小金井市長選に連敗。2020年には、なんとホリエモン党から東京都知事選に再挑戦しました。政見放送では「カーセックス」を連呼し、お約束ともいえる大暴れを見せました。

この2020年の東京都知事選は、記憶に新しいかと思いますが、今年1月の戸田市議選で当選し、今が旬ともいえるスーパークレイジー君や、「コロナは風邪」の平塚正幸氏、全裸や軍服姿の奇抜なポスター、全裸に紙おむつ姿で放送禁止用語を連呼する政見放送で物議を醸した後藤輝樹氏ら、新たなスター泡沫候補が次々に登場した選挙でした。

●泡沫候補たちの競演:2021年千葉県知事選

そして、3/21投開票の千葉県知事選です。青春スターの「モリケン」こと森田健作知事の後継を争う選挙ですが、泡沫候補の見本市の様相を呈しています。先に述べた平塚氏、後藤氏に加え、YouTuberである河合悠祐氏が「千葉県全体を夢と魔法の国にする」ことを公約に掲げて参戦しました。

京大卒で元芸人、人材派遣や婚活パーティーを主催する実業家という河井氏のバックグラウンドは、マック赤坂氏を彷彿とさせます。3/2の東京スポーツのインタビューでは、知事選立候補の理由を以下のように答えています。

「去年の都知事選で立花(孝志)さんや後藤(輝樹)さん、スーパークレイジー君が選挙を盛り上げた。こんな自由な表現をしてもいいものかと。自分も知名度を上げたい思いで、顔見せ的な意味合いはあるが、今回の知事選は熊谷俊人前千葉市長の当選がほぼ見えていて、出来レースみたいになっている。紅白をやっている裏番組で、ダウンタウンがむちゃくちゃしているように、イロモノ候補がかき回して、注目を集め、投票率が少しでも上がればいい」

投票率のことまで考えて下さっていて、大変お疲れ様です・・・という感じですが、要するに、知名度向上が目的であると言い切っており、語るに落ちています。たとえ選挙に負け、供託金が没収されたとしても、政見放送や街頭で存分にパフォーマンスでき、メディアに取り上げられ、場合によっては商売の宣伝もできる・・・というこれまでの泡沫候補が見出していたメリットだけではなく、河合氏の場合、自らのYouTubeチャンネルへのアクセスの増加も見込めます。まさに一石二鳥(三鳥?)です。

泡沫候補は、それぞれに工夫を凝らして発信しているため、見ているのはとても面白いです。そのせいか、ネットメディアはもちろん、大手メディアさえも、現職や有力候補者の政策や過去の実績の検証よりも、泡沫候補の扱いを大きくしているように思います。

その傾向は、去年の都知事選や、今回の千葉県知事選でさらに強くなったように感じます。何となく、トランプ前大統領の影響も感じなくもありません。

YouTuberとのシナジーもあり、今後、泡沫候補者はますます増えるかもしれません。もしかしたら、政党の推す「ガチ」の候補者すら、泡沫候補的な発信の手法を真似てくるのではないかと思います。これも、アメリカでは、共和党にそのような雰囲気が漂っている感もあります。

今年行われる衆院選、来年の参院選にどんな泡沫候補が現れるか。きっとまた新たな進化を遂げていることでしょう。楽しみなようでもあり、これでいいのかという思いもあり、複雑です。

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One comment on “泡沫候補の変遷
  1. ! より:
    供託金

    日本で選挙の供託金が諸外国より高い理由がいつかの参院選で立候補者の悪目立ちで増額されたと記憶しています。この時の増額に共産党を含む与野党が賛成したはず。新人及び新党の増長は与野党問わず既存議員すべてにとって暗黙の脅威ですからね。

    その後小選挙区制になり共産党は敗北の連続で供託金没収、各地に党費で立候補者を立てるのが党財政として難しくなり野党連立して小選挙区からの立候補は縮小し比例に集中、代償として天皇制と自衛隊を認めることになるのだから何がきっかけになるかわかりません。

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