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2021/04/21 07:00  | 日米関係 |  コメント(0)

ガースー総理、ジョー大統領に会う


日米首脳ハンバーガー会談舞台裏…(4/17付日テレNEWS)

日米首脳会談が無事終了しました。内容についてはJDさんが国際政治の観点から詳しく解説してくださると思うので、非常に楽しみです。私からはドメスティックな視点で軽くツッコミを入れてみたいと思います。

●「たたき上げ」政治家

菅義偉総理は、ジョー・バイデン大統領に対し、「たたき上げの政治家という共通点がある」と親近感を持っているようです。たしかにバイデン大統領は中流家庭で育ち、自身を「ミドルクラス・ジョー」と呼んでいるように、富裕層出身のエリートではありません。しかし、だからと言って彼を「たたき上げ」と言ってしまうのは、ちょっと違うように思います。

バイデン大統領は、ロースクールを卒業して程なく弁護士事務所を開業し、翌年には地元デラウェア州ニューキャッスル郡の地方議会議員になりました。その2年後には29歳で上院議員に当選し、バラク・オバマ大統領の副大統領になるまで6期36年間務めています。

アメリカの上院は非常に敷居が高く、知名度や世襲などのバックグラウンドだけでは、簡単には候補者にすらなれません。いわゆる「ポッと出」がノリや勢いでなれるようなものではないのです。当然、特定の分野で経験と実績を積んだ人が選ばれることになり、結果として比較的年配の議員が多くなります。ですから、バイデン大統領が29歳で上院に初当選したというのは、特筆すべきことなのです。

バイデン大統領はまた、上院司法委員会や外交委員会で長く委員長を務めました。アメリカ議会の委員会は、日本のように国会会期ごとのローテーションではなく、専門性のある実力者が委員に選ばれ、長期間にわたりじっくりと政策に取り組みます。その中の重鎮が委員長を任されるのです。バイデン大統領は、政策をまとめるための調整に力を発揮し、日本で言うところの「国対(国会対策)」を得意としていたようです。

外交や安全保障の分野で実績を重ね、1987年には大統領選挙民主党予備選への出馬を宣言しました。滑り出しは順調で、有力視された時期もありましたが、イギリス労働党党首のニール・キノックの演説内容を盗用した疑いが持ち上がります。さらに、ロースクール時代の論文盗用疑惑も明るみに。事態を収拾するために公式に盗用を認め、母校であるシラキュース大学法科大学院に謝罪しました。そして、予備選が始まる前に立候補を取りやめています。

このように、バイデン大統領は、出自こそ富裕層・エリートではありませんが、若くして首都ワシントンDCにデビューし、ベルトウェイ(DC政界の隠語)で華麗なキャリアを積み重ねてきた「大物」政治家です。これを「たたき上げ」と呼ぶのは少し違うように思います。

●自慢の息子と何かと心配な息子

菅総理はまた、「私と似ているような感じを受けたが、本人もそう思っているようで・・・」と語っています。

総理がどのあたりを指して似ていると思っておられるのか、全くの想像の域を出ませんが、自慢の息子と、何かと心配な息子の両方がいるところは似ていると思いました。

菅総理の長男が、今年2月に総務省幹部の接待などで世間を騒がせたことは記憶に新しいと思います。バイデン大統領の次男ハンター・バイデン氏も、そのビジネスをめぐって繰り返し疑惑が持ち上がり、連邦地検の捜査対象になっています。それだけではなく、薬物使用や女性関係など私生活での問題も取り沙汰され、昨年の大統領選でもバイデン候補の「アキレス腱」になるリスクが指摘されていました。

一方、菅総理の次男は、大手商社に勤務する東大卒のエリートで、総理のご自慢のようです。次男を知る人達からも、「人柄・能力共に優れた立派な方」との評価を耳にします。そして、バイデン大統領の長男ボー・バイデン氏はと言うと、検事・弁護士、イラクへの従軍を経てデラウェア州の司法長官を務めるなど、非のうちどころのない素晴らしい経歴の持ち主です。しかし、大変気の毒なことに、脳腫瘍によって46歳の若さで亡くなっています。当時副大統領だったバイデンは深い悲しみに暮れ、大統領選への出馬を断念したくらいです。

実は、バイデン大統領が我が子を失うのはこれが初めてではありませんでした。上院議員当選直後に、妻と生まれたばかりの娘を自動車事故で亡くしています。この時、ボーとハンターの兄弟も車に同乗していました。そんなこともあって、バイデン大統領は長男に非常に大きな期待を寄せていて、いずれは自分の後継にと考えていたと言われています。周囲もそれが当然だと思っていたようです。「ボー(Beau)」という名前は通称で、フランス語で「美しい」という意味があります。

このように、それぞれの息子の歩んだ道をみると、菅総理もバイデン大統領も、誇りに思うと同時に、悩んだり心配したりしたこともあるように思われます。したがって、この観点で菅総理とバイデン大統領を見ると、たしかに似ているところがあると言えそうです。

●ジョー大統領の家族愛

また、学生時代にスポーツに打ち込んだところも似ているかもしれません。

菅総理は、法政大学の公認サークルである剛柔流空手道部に所属し、4年生の時には副将を務めています。複数のアルバイトを掛け持ちしながら、年中学ラン姿で、週6回という体育会並みの練習をこなし、卒業までに三段を取得しました。総理就任後には、東京オリンピックに空手が採用されるために尽力した功績で、全日本空手道連盟から名誉九段を贈られています。

一方、バイデン大統領は、高校時代に弱小アメフト部を立て直し、最終学年時にはシーズン無敗の偉業を達成することに貢献しました。大学入学後もアメリカンフットボールを続けましたが、恋人と過ごす時間を増やすために退部したとのことです。このあたりは菅総理とは違って、若者らしいというか、結構柔軟ですね。

先週の金曜日に話を戻しますと・・・バイデン大統領は、菅総理との会談と共同会見を終えると、さっさとウィルミントンの自宅に帰ってしまいました。週末を家族で過ごすためだそうです。時節柄、晩餐会どころか、こじんまりした夕食会の開催さえなかなか難しいとは思います。

それを差し引いても、金曜の午後の仕事をさっさと切り上げたいというアメリカ人らしい雰囲気を感じました。金曜の午後は、3時くらいから帰宅ラッシュで渋滞する都市もあるくらいです。

・・・と思っていたら、今回はどうやら単に早く帰りたかっただけではなく、孫息子(前項でご紹介した長男ボーの次男)の堅信式だったようです。堅信式とは、キリスト教の一部教派において、信者が洗礼を受けた後、一定の儀礼において聖霊の力、ないし聖霊の恵みを受ける儀式のことです。早世した愛する長男の息子の重要な儀式を控えた大事な週末だったわけです。

堅信式の後、バイデン大統領は、教会に隣接した墓地にある長男のお墓を一族でお参りしています。また、前日の土曜日には、大統領就任後初めてのゴルフを楽しんだようです。充実した週末でしたね。

総理の訪米からついつい、話が脱線してしまいました。

次回からは、「自民党の候補者調整 ~ 派閥の代理戦争 ~」の連載に戻ります。志帥会と宏池会のバトルを解説します。

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