2018/11/08 06:07 | 昨日の出来事から | コメント(0)
バリュー 投資家の苦悩?!
先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
1962年の春、前年にライバルの野球チームを解雇された選手をかき集めたNew York Metsのオーナー Joan Whitney Paysonは、その年の最初の試合を負けるのを観戦していたが、その年の夏には早々と休暇の為にギリシャに旅立った。その後もMetsの負け試合のニュースが彼女の元に届いた。そこで、彼女は、Metsが勝った時だけ連絡をするように頼んだ。その後、彼女は「あの時がアメリカから連絡を受けた最後の連絡であった」と後に回顧している。その年、なんとMetsは120試合も負けたのである。
彼女は、負けが続く中で最悪なことの一つは「連敗がいつ終わるか誰にも分からない」ことであったと記している。株式投資における「Value」株もこれにと同じ感覚である。これらの株は、会社の資産に比べて株価が低い株とは違い、過去10年に亘り悪い状態が続いた株である。つまり、過去の経験則から、直感によってその株の本来持っている価値をも無視して売られてしまった安い株を買う事を意味する。 しかしMetsが勝った知らせを受けるまで(株価が上昇するまで)相当長く待つこともあり得る。
不調は不振を招く。例えば、ブランドや良い考え等の目に見えない資産の経済効果の重要性はますます増しているが、そうした価値が信頼できるとは限らない。同様の議論は1990年台のdot.comバブル時にもなされた。 この時、分かったことは「逆張り」が正しいという事であった。つまり、こうしたvalue 投資は非常に高くつき、Value 投資をした投資家が払った代償は「大損の苦しみ」と「疑い」の念でった。
株価とその価値の根本的な違いは、Value トレードの父、Benjamin Grahamまで遡ることが出来る。「価格はマーケットのムードで形成される」と彼は書いている。ブーム(バブル)は、最も貪欲な買い手によって形成され、バブル崩壊は、最も弱気な売り手によって形成される。一方で、「株の価値」は目先的には変わらない。つまり、それは会社の資産によって裏付けされている。積極的な投資家は株価が会社の価値を越えて来たとき利益確定をする。また、その逆も同様に、Value 株がその株の本質的価値を大きく下回った時に買い入れる。
Grahamの時代は、本当に安い株を見つける事が、そのままValueのプレミアム(超過価値)の対価であった。しかし、現在のようにコンピューターの力によって会社同士の比較が簡単になったにもかかわらず、こうした投資戦略が機能するのは何故か? その理由の一つは、目に見える資産に対する企業の収益は、コストのかかったプラントや建物のように簡単には移動できないので、経済が不況の時にはダメージを受ける。このように、Value プレミアムはビジネス サイクル(景気の循環)よって埋もれてしまうからである。 もう一つの理由は、他の投資家が価値を無視して売却する過ちを犯すからである。あるいは、新規でワクワクする成長株の上昇をどん欲なまでに期待してしまう。更には、時代遅れの株は、その株の価値が見直されるまでマーケットの後ろに追いやられてしまう。
最近はValueの信頼性が失われつつある。恐らくこうした投資戦略は、一般的によく知られることになったので機能しなくなったのかもしれない。 こうした考えに対してAQR Capital ManagementのCliff Asnesssi氏は最近の著書の中でそれを否定している。 つまり、安い株と高い株の違いは少なくはないのである。もし、そのギャップが大きいならば、何処に「棚ぼた」があるのであろうか?
恐らく、それは決算書の中に埋もれている。会計ルールの下、工場やオフィスなどの建物は、会社の決算では資本アセットとして計上される。何故ならは、これらは長期に亘り企業活動に貢献するからである。しかし、たとえ企業ノウハウやブランドが資産であったとしても、こうした研究費や宣伝費は賃金や電気代と同様に短期費用として計上される。 つまり、実際には多くの資産があるにもかかわらず、こうした資産は目に見えないのであり、ValueはPrice to book (簿価)から外れてしまうのである。重要なValueは、簿価だけに留まらないより広い企業価値の評価に頼らざるを得ないのである。 故に、Valueは、今もって過小評価されている。
それにしても、彼ら(Value trader)の投資家に対する苦悩に満ちた報告書の多いことか。「彼らのコメントは『我々の結果は我々が想像した程悪くなかった』とそっけないものである」とValue を基本としたヘッジ ファンドGreenlight CapitalのDavid Einhorn氏は、最近の彼らのレポートの例として述べている。彼自身は「マーケットは、我々に対して、常に我々は間違っている、間違っている、殆ど全ては間違っている」と語りかけているという考えを持っている。そして、投資プロセスの真実は、新品の剣のように危険なものである。Asnes氏が顔をしかめながら「我々は損をする。何故ならば、全ての人が愚かであるからである」とその苦しい境地を記している。しかし真実がどこにあるかは誰にも変わらない。 もし、あなたの投資戦略が損をする時、Asnes氏は「1962年のMetsのコーチであったCasey Stengelの気分であろうと述べている。彼(コーチ)は、チームを調査した後、「この試合でプレーできないプレイヤーがいるか?(誰もいない)」と自問自答して感動した。
一方で、「こうした苦悩は全ての人に当てはまるわけではない」とファンド マネージメント会社のGMO James Montier氏は述べている。 更に、「彼らはポジションを取っている限り、間違いたくないのである」とも指摘している。 Value 投資家は、どんなに時間がかかっても全ての人に収益が段階的に報われると期待している。しかしそれらは非常に時間がかかる(確かに、それも楽しみかもしれないが)。この類の人々は、暴落になった初めての決算の数か月後に(Value tradeのファンド マネージャ達から)「我々は、一生、メッツ ファンであり続けます」と聞かされるのである。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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