2018/10/05 05:57 | 昨日の出来事から | コメント(0)
人民元レートの決まり方は?!
先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
ECB総裁 Mario Dragi氏は洗練されたスピーカーであり、その話は明快であり直接的である。しかし9月13日の金融政策会合後、暫く彼の発言は性格に似合わず曖昧であった。彼は「ECBが国債買取りプログラムをひとたび終えた時、償還した債券をどのように扱うか」と尋ねられた時、「我々が、いつその問題を検討するかの議論は出なかった」と答えた。それは11月の会合かもしれない。 あるいは12月かもしれない。 いずれにせよ近い将来である。
中央銀行の会合の多くは、今や、事前に情報として流れる。それは「(FRBが出す)forward guidance:将来の目安」も含めて時として馬鹿げているにもかかわらず、FedやECBや他の中央銀行の多くは、投資家にいつ政策金利が上がるかを知る為の訓練をする。中央銀行 ウオッチャーは、政策金利の上昇、あるいは債券の「買い」や「売り」のタイミングや兆しを懸念するだけに留まらない。それはより高い次元になり、中央銀行の声明が、究極的には何をしようとしているかを近い将来に発言される言質の中にその解説を求められる。
そうした中、驚いた事にForward guidanceが殆ど知らされることなく為替市場にその結果が出てくる通貨がある(それは人民元)。 中国では、事前の兆候を殆ど出さずに政策が変更される。人民元が動くとき、通貨に対して、あるいは中国に対して、ひいては世界経済に対して殆ど何も知らされない。更に驚いたことに、人民元の為替市場における存在感は増しているのである。
しかし、人民元が「世界の通貨」である為の道のりは、まだ長い。人民元は、貿易や通貨準備として大きな歩みをなしていない。米ドルが、今もって王者である。1日5兆ドルの取引がされる為替市場において、対米ドルの為替取扱高は90%のシェアを占めている。原油はドルで価格決定される。多くの国の債券はドルで発行され、世界的な企業は、自国の外では米ドルで取引する。また、世界の通貨準備の3分の2は米ドルである。一方で、人民元は殆ど使われていない。
世界の多くの国にとって中国は輸入相手として、あるいは輸出相手としてその存在は大きくなっている。しかし、貿易で決められる価格や、決済は殆どがアメリカ通貨でなされる。また、中国への輸出は非常に重要であったので、つい最近まで人民元は米ドルに殆どリンクしていた(実質的には米ドル=ペグであった)。
しかし、もはやそうではなくなりつつある。2015年7月以降、人民元は、表向きは通貨バスケットによって管理されている。Nat-WestのManssor Mohi-udan氏は「原則的には人民元の価値は経済力を反映して評価される。しかし、実際の処、人民元は米ドル対して広いレンジの中で推移している」と述べている。 もし、人民元が急激に強くなれば中国の輸出は損害を被る。もし、急激な人民元安になれば中国企業のドルの借り入れが恐ろしいまで膨れ上がる。また、急激な人民元安は通貨切り下げや資本流出の懸念が出てくる。
その一方で、人民元の影響力が増してきていると感じられ始めている。人民元が更に自由に変動し始めると、中国経済の貿易高も連動し初めている。また、人民元と米ドルの変動は、ユーロと米ドルの変動と非常に似た動きをしている。Societe GeneralのKit Juckes氏は「2016年に人民元や対米ドルで安くなった時、ユーロは1.05ドルまで下落した。昨年人民元が高くなった時、ユーロも上昇した。こうした連動性は偶然ではないように思われる。 何故ならば、中国にとって大きな貿易相手国の通貨も同じパターンを示しているからである」と指摘している。今や、人民元の上げ下げは、他の通貨の上げ下げと同じになりつつある。
Juckes氏は「これこそが、中国が「ソフト パワー:目に見えない影響力」と言っている所以である」とも述べている。大局的には、中国はこの影響力を世界貿易に行使している。しかし、それは(皮肉にも)世界中の中央銀行が行っている「forward guidance」によって一層強められている。ドラギ総裁のコメントが示すように、彼らの透明性追求の姿勢は実に滑稽である。一方で、中国の考えは殆ど知られていない。
中国の影響力は、為替市場将来的な見通しにその影響が及ぶ。 ユーロの長期的なレンジからみたユーロの想定価格は1.30ドル辺りであり、かつて取引されていた水準より現在は10%程度高い。この水準は、また購買力平価(アメリカで購入する物価バスケットと同じものをヨーロッパで購入する為に必要な為替レート)でみた為替レートに近い水準である。しかし、中国政府当局が、米ドルに対する人民元の上昇を容認しない限り、人民元のあるべき水準に到達するのは困難であろう。そして誰も自信を持って人民元のあるべき水準を言える人もいない。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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