2017/11/10 05:21 | 昨日の出来事から | コメント(0)
より大きなリスクは国債よりも社債に?!
今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
過去の10年において何度もあったことであるが、マーケットのターニング ポイントは国債市場から発信さられてきた。 中国も含めて世界の国債の利回りが2014年以来上昇に転じてきている。世界の国債利回りのベンチ マーク(指標)であるアメリカ国債の利回りは9月初めの2.05%から2.37%に上昇した。とはいっても、まだ、この利回り水準は今年の3月の水準よりも下であるが(価格は3月より高い)。
投資家は、暫くは債券の利回りが上昇すると期待している。 JP Morgan Chaseのサーベイによれば、投資家の投機ポジションの内にショート ポジションを持っている割合は70%に達している(価格が下落し、利回りが上昇すると利益が出るポジション)。 また、 10月に行ったBank of America Merrill Lynch(BAML)によれば、世界のファンド マネージャーの内、85%が現在の債券価格は割高であると考えている。また82%のファンド マネージャーは短期金利が今後12か月間に上昇し、これによって債券利回りが上昇すると考えている(価格が下落すると考えている)。
これは、ある意味で、世界経済が好調であることを反映している。2014年以来初めて、アメリカでは2四半期続けて3%以上の経済成長を示した。ヨーロッパの今後も見通しも上方修正されている。原油を含めた商品価格は今年6月以来上昇し、需要が改善している事を示している。
今後の見通しについて、これまで過去6年間のBAMLのサーベイで初めてGoldilocks経済(経済成長が高いにもかかわらずインフレが低い経済)が、secular stagnation(経済成長もインフレも過去のトレンドを下回る経済)を上回った。 もし、こうした見方が正しいとわかれば、債券利回りはもう少しかつての利回りまで上昇する事が期待される。 2008年の危機までの過去40年間は、10年国債の利回りが5%以上であった。
また、投資家は、最終的に何らかの財政出動がアメリカ議会で可決すると期待している。BAMLのサーベイの61%のファンド マネージャーは来年第1四半期に減税が決定されると期待している。そのような財政運営は、財政赤字を増やし、その一方で経済を押し上げる効果があるので、債券利回りは上昇する(価格は下落する)。
もう一つの利回り上昇の背景にある要因としては中央銀行の政策がある。FRBは、償還国債の買い替えることをやめることによってバランス シートの削減を初めた。ECBは市場からの国債買取り額を半分に削減する政策を来年から始める(これまでの毎月EU60bnの買取りから30bnに減額)。その分、民間は、中央銀行が買わなくなった国債分を吸収しなければならない。
この事が、これまで長きにわたって予言されてきた債券市場のブル マーケット(強気マーケット)の崩壊のきっかけになるかどうかは別の問題である。 何故ならば、世界的にインフレが加速する証拠がまだないからである。また、ファンド マネージャーのグループPIMCOは現在の経済がちょうどいい状態なのかもしれないと考えている。 つまり経済成長の勢いは今がピークを迎えつつあるかもしれないと考えているからである。
中央銀行も高金利が経済をぶち壊す事を良く知っている。先進国20か国(G20)の国々において、国債を除く金融機関の社債の残高は増加の一途を辿り、現在はGDP対比で260%にまで上昇している。 当然のことながら、これらの債務は同時に投資家の債権(国債や社債)となっている。しかし、時として高いコストの借り入れは奇妙な歪みをもたらす。 例えば、アメリカの30年の住宅ローンは、足元の金利が上昇しているにも関わらず、1年前に比べて0.5%も金利が低下している。これは、金利引き締めのペースが非常にゆっくりであることを示している。 そして、もし経済が失速すれば、中央銀行は金融緩和をせざるを得ないことを反映している。
恐らく、本当に心配すべきことは、社債マーケットである。低い国債利回りのせいで、投資家は高い収入を得る為によりリスクの高いものを求めている。今、アメリカのミューチャル ファンドでは、2008年には20%以下であったリスクの高いハイ イールド債券を30%以上保有している。 おかげでこうしたリスクの高い債券と国債とのスプレッドは金融危機以来最も低い水準にまでスプレッドが縮小している。別のファンド マネージャー グループ BlackRockは「貸し手、特に、返済能力が悪化している貸し手にとってはより安く資金を調達できる好都合な環境」と(皮肉を込めて)述べている。
現在のように債券デフォルト率が低下し、世界経済が好転する環境にあって、投資家は殆ど何も心配してないのであろう。 しかし、問題はある。 社債の流通市場は、銀行が社債のマーケット メイク(売買の価格提示業務)から撤退した為に、2007年に比べて極端に流動性が落ちている。投資家は、ハイ イールド債券に入るのは容易いことであった。 しかし、その時(債券を売りたい時)が来た時に、投資家は、社債市場が脱出する事が非常に困難であることを知るであろう。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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