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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2017/03/24 04:55  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

世界は好景気?!


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

まず、副題として「今、全世界的に景気は上向いている。それは、財政刺激のおかげであって、ポピュリストのおかげではない」と述べています。

今日、10年前の厳しい金融危機から10年が経過し、世界的に経済は上向いている。アメリカ、ヨーロッパ、アジア、そしてエマージング マーケット全てにおいて、2010年以降初めて景気が上向いており、全ての国や地域の景気上昇の炎が同時に燃え盛っている。

しかし、政治的なムードは悪い。これまでの弱い経済の中で醸成されたポピュリストの反乱が今も広がっている。その一方でこれまでのグローバリズムは嫌われている。今、アメリカでは、経済的国家主義者(自国第一主義者)が大統領の椅子に座っている。今週、世界中の人々が、オランダ総選挙の(反イスラム主義を掲げる)Geert Wilders氏の動向に注目が集まった。とはいえ反イスラム主義は、ヨーロッパの様々な問題の一つに過ぎないのだが。

しかし、こうした不協和音は危険である。もし人気取り政治家が、彼らによる景気拡大政策に信頼を得たならば、それは潜在的に景気を破滅させる政策に信任を与えるようなものである。一体、彼らの政策の背景は何が横たわっているのであろうか。

過去、10年に亘り、景気は低迷し、楽観主義は、まだ、1年も経過していない。ユーロ危機、エマージング マーケットの混乱、原油価格の暴落、中国経済のメルト ダウンの中にあって、アメリカ経済だけが成長したが、それでも逆風が吹いていた。つまり、1年前の2016年には、FRBが政策金利を4回も引き上げると予想されたからである(実際は1回であったが)。

ところが、現在は当時と違っている。先週、FRBは昨年の12月に続いて2度目の政策金利を引き上げたが、これはアメリカ経済の強さだけでなく、世界経済も上向いているからである。中国の過剰設備に対する不安や、人民元安の懸念は後退し、中国の2月のfactory-gate インフレは9年ぶりに高い水準となった。 また、日本では2016年第4四半期の設備投資が3年振りの高水準となった。ユーロでは、2015年以来の経済成長率となっている。ECの経済センチメント インデックスは2011年以来の高い水準となっている。更に、ユーロ圏の失業率は2009年以来の水準にまで低下してきた。

加えてこうした動きは世界のあちこちで見ることが出来る。世界貿易の代名詞でもある韓国の2月の輸出は20%増加し、台湾の製造業は12か月連続で増加している。とはいえ、いまだに最悪期を脱出していない国もある。 ブラジル経済は8期連続で縮小している。 しかしインフレ期待率は落ち着き始め、金利は低下し始めている。 今年のブラジルとロシアは世界GDPに対して足を引っ張るのではなく、増加に寄与すると期待されている。また、IIF(Institute of International Finance)は、発展途上国の1月の経済は2011年以来の景気拡大と発表している。

だからと言って、世界経済が通常な状態に戻ったと言い切れない。原油価格は3月15日の週に10%も下落し、引き続き供給過剰の懸念が残っている。原油は、消費国にとってみれば恩恵であっても産油国にすれば痛みそのものである。中国の積み上がった債務に引き続き懸念が残る。先進国の生産性は引き続き弱い。アメリカ以外の各国の賃金上昇率は非常に低い。そのアメリカですら、ビジネス信頼感では投資を急ぐ気配を見せていない。

景気回復を阻害しているのは、景気のバランスを取る行為(政策金利の引き上げ)をするからであると主張している人がいる。インフレ期待が上昇すれば、中央銀行は、そのリスクに対抗するために金融政策を引き締めなければならない。もし、引き締めが急速であれば債券市場や借り入れをいている人にとっては厳しいものになる。ヨーロッパは特に脆弱である。 と言うのも、これまで弱い経済の下、安い資金を維持する為にECBが行ってきた国債買取りプログラムがその上限に到達しようとしているからである。

しかし、もっと大きなリスクは政治家の描くシナリオである。ドナルド トランプは、これまでのいい雇用統計と信頼感指数をうけて、自身の描くフレーズを謳歌している。確かに、株式市場とビジネス信頼感指数は、規制緩和と財政支出を公約した事を受けて上昇している。しかし、彼が、雇用をマジックのように飛躍的に増加させたと主張するのは「ほら吹き」である。実は、アメリカ経済は77か月も連続で雇用を増加させ続けてきたのである(何も、彼が大統領に就任したからではない)。

「ケインズ政策なくして、得るものはなし」

最も重要なことは、現在のアメリカ経済の上昇は、トランプ氏の「アメリカ第一」と称した経済的国家主義とは全く関係ないことである。 アメリカ経済の上昇は、今日のポピュリストが批判している専門家(イエレン議長)が無実である事を証明している(彼らによるこれまでの政策のおかげである)。エコノミストたちは、金融危機以降、長きにわたり景気の回復を議論してきた。 ハーバード大学のCarmen ReinhartとKenneth Gogoffはこれまで100個の銀行の危機を調べ、 これらの銀行は、総じて金融危機以前の水準にまで収益が回復している事がわかった。 また、大半のエコノミストは、債務危機から回復する最もいい方法は出来るだけ早くバランス シートを綺麗にし(圧縮し)、金融政策では緩和政策を維持し、慎重ながらも財政刺激政策を適用する事であると述べている。

今日の景気回復は、その処方箋に従っている。Fedは完全雇用が見えてくるまで、政策金利を一番下(ゼロ金利)に張り付けた。ECBの国債買取りプログラムは、財政削減を厳しくした為に雇用を厳しくしたが(その後は緩めた)、借り入れコストに問題のある国々の安い資金調達を可能にした。日本では、前回の景気回復時に台無しにした消費税引き上げを、少なくとも2019年まで先送りする事を決めた。

景気回復の戦いは、その成果を自慢し合うほど簡単なことではない。 しかし、フランスでは反乱政党に人気取り経済を任せる動きが起こりかねない。そこには極右政党のルペン氏が大統領になろうとしている。あるいは、別の悪い政党にも同様の動きが起こりかねない。トランプ氏は、減税が今の経済を、いっそう押し上げる為に必要であると主張している。このことがFedの仕事(金融政策のかじ取り)を難しくしている。自分の世界観に凝り固まって、トランプ政権担当者はトランプ氏に対し、グローバリゼーションの要(WTO)を引き裂くことを促し(例えばWTOを無視して、中国を不当な要求をする)、貿易戦争を起こすかもしれない。自国の財政刺激とドル高はアメリカの貿易赤字を拡大させる。そのことが一層彼らを強硬にさせる。

ポピュリストは景気の上昇に何ら関係ない。 しかし、まだ、その事を消し去り切れていない(自分たちの政策で景気を上昇させることが出来ると考えている)。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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