2016/12/09 05:25 | 昨日の出来事から | コメント(1)
ドル スクイズ?!
今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
まず、現在の米ドルの水準を過去のデータ(グラフ)から見てみますと、ブレトン=ウッズ体制が崩壊し、世界の為替市場が変動相場制に移行した1973年のTraded-weighted US ドル インデックスを100とした時(当時の1米ド=360円の固定相場)、現在は98台で取引されています(現在の1米ドル=113円台)。
ちなみに、このインデックス ベースで米ドルが最も高かったのは、レーガン大統領時代の1985年のプラザ合意前で、Traded-weighted US ドル インデックスで150(当時の1米ドル=240円台)でした。 尚、1980年のレーガン大統領就任時が100でしたので、1985年までの5年間で50%の米ドル高になったことになります。 逆にTraded-weighted US ドル インデックスが最も安くなったのは2012年の70ポイントでした(当時の1米ドル=75円台)。
こうして見てみますと、名目ベースでは、1973年には1米ドル=360円だった為替が、現在は1米ドル113円台ですので、随分円高になっている感覚がありますが、Traded-weighted(実効為替)ベースでは、ドルは1973年と当時とさほど変わらないことがわかります。
こうした事を踏まえたうえで、英誌エコノミストは以下のように述べています。
今回の一連の米ドル上昇には3つの功罪がある
一つ目は、長引くデフレに苦しんでいたECBや日銀にとっては「棚からぼた餅」であった。 何故ならば、これらの国や地域では長引くデフレに苦しんでおり、少なくとも米ドル高によって自国通貨が対米ドルで安くなった事で、為替面で更なるデフレリスクを回避することが出来たからである。
2つ目は、エマージング マーケットでは功罪共にあり、ドル高によってこれ以上の与信を抑制する効果があると同時にこれまでの与信に対する金利上昇に伴う負担増の問題である。 BIS(国際決済銀行)によれば、現在、アメリカ国外で、世界中には9.7兆ドル(日本円で約1000兆円)の与信残高があり、その内、エマージング国に対する与信が3.3兆ドル(日本円で約360兆円)に上る。 ただでさえ、エマージング国に対する与信が積み上がっている現状に対して、これ以上の与信を積み上げる事に抑制がかかることは望ましい。 しかし、その一方で、今後、金利が上昇すれば、これまで積み上がった与信に対する金利負担が増加し、加えて米ドル高によって自国通貨ベースで返済額面が増加して更に負担増になる。
3つ目は、エマージング以外のドルの借り手にも影響を与える。 これまでは米ドル安であったことと、米ドルの調達コスト(金利)が安かった事を理由に米ドルを調達していたが、今回の米ドル高と米金利先高期待によって、これまで借りていた米ドルのローンを返済し、資金を自国に還流させ、更には投資先の工場を閉鎖して労働者を解雇する問題が生じる。
これら以外にも、強い米ドルは金融市場にも影響を与える。為替市場では、単純には為替レートと短期金利の裁定が働いており(covered interest parity)、現在の為替レートと3か月先の為替レートは3か月の短期金利で裁定されている。 実際には、そこへ将来の見通しや相場観が加わって取引されており、例えば、米ドル/円のThree-month cross currency basis against US ドルは0.9%と、通常の取引に更に0.9%上乗せしないと米ドルをヘッジすることが出来ない(ユーロも同様で、対ドルで0.6%)。
もし、1980年から1985年のレーガン政権と同様の事が起きるとすると、米ドルはトランプ大統領誕生から50%米ドル高となり(日本円でいえば1米ドル=150円!)、アメリカの輸出業者にとっては大きな痛手となる。結局、こうした米ドル高は1985年のプラザ合意(政治的な解決)によってこれを解消することになる。
我々が最も懸念するところは、最近の米ドル高は、各国の協調を広めるのではなく、紛争を広める可能性が大きいことである。トランプ氏は、アメリカの貿易バランスを取る為に、保護貿易主義を熱望しているきらいがある。また、足元の米ドル高は、こうした破滅的な考えをきっかけに起きているように思われる。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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One comment on “ドル スクイズ?!”
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現在の凄い日経上昇はその予兆ですか?
中国は日本の経済敗戦を良く研究しており
同じ手はくわないから、結局、日本がヒドイ目に
あう事になりそう(笑)