プロが語る世界情勢・政治・経済金融の最前線!

The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2016/11/15 05:28  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

英誌エコノミストの言い訳(1)


おはようございます。

先週号の英誌エコノミストでは、アメリカの大統領選挙でヒラリー クリントン氏が選ばれることを支持し、トランプ氏が当選すれば、それは、ひどい大統領の誕生であり、悲嘆の内にホワイト ハウスを去ったニクソン大統領の二の舞になり事を保証するとまで言い放っていました。

さて、選挙結果は、彼らの予想に反してトランプ氏の勝利となり、それを受けて、今週号の彼らの言い分は以下の通りです(抜粋)。

今回の選挙結果は、これまでの民主党から共和党に大統領が替わったにとどまらず(政党が替わるだけに留まらず)、これまでのアメリカの政治を支えていた規範を壊し、更には世界の政治的優勢性を放棄ほど、大きな体制の変化を意味する。確かに、今回の選挙で彼を支持したアメリカの男性中間層の勤労所得は、1990年代を除いて1970年以降一貫して低下傾向を辿り、中間層の家計所得は、これまでの景気後退期ごとに所得を減らすことはあってもそれを回復することはなかった。それが彼らの自己嫌悪を引き起こし、最終的には、その不満の矛先が、外国人を支持し、あるいはウォール街のビジネスを支持するワシントンのエリート達に向かったのである。

トランプ陣営は、今回の選挙でこうしたアメリカの中間層の不満をうまく選挙戦で利用することに成功した。また、トランプ氏に投票した人々も、トランプ氏が、本当にメキシコの国境に壁を作り、人種差別を政治で露わにし、中国と貿易戦争を起こすことなど期待していない。そうではなくて、アメリカの中間層の誇りとプライドを回復させてほしいのである。  

その意味で、今回の選挙は、いわば、これまでの政治に対する不満層への精神安定剤となりかもしれない(不満の溜飲を下げる)。その意味でいえば、彼は、1980年代にただの人気取りに過ぎなかったにも関わらず、のちに偉大な業績を上げたドナルド レーガン大統領のようになるかもしれない(ええ~っ?!、先週はニクソン大統領の二の舞を保証すると言ったのに、、、)。

しかし、 レーガン大統領は楽観主義者であった。 それに対して、トランプ氏は過去の悪いイメージをそのまま踏襲するであろう。従って、我々は、彼が「いい大統領になる」ということに対して非常に懐疑的である。

まず、第1に彼の政治手腕である。甘言をばら撒き、人気取りに走り、最後には、その矛盾が露呈して、彼の公約が崩壊する。 彼が、言ったことは、オバマ ケア(アメリカ医療保険制度)を廃止する。 次に、減税をする(法人税を現行の30%台から15%まで引き下げる)。 不法移民を強制送還させ、メキシコとの国境に壁を作る(万里の長城よろしく、トランプの長城)。 NAFTA(北アメリカ貿易条約)であるメキシコとカナダとの貿易条約を見直す。中国から貿易に関する妥協を引き出す。これら、全てはアメリカの景気を最終的には押し下げ、更に外国と貿易戦争をすれば、一気に景気は後退し、政策金利はゼロにまで低下し、政治家は、その対応に苦慮するであろう。

また、彼はイランとの核抑制プログラムを嫌っている。もし、この交渉に失敗すれば、彼は、イランの核施設の攻撃か、中東の国々の核保有のどちらかを選択しなければなくなる。更に、彼は地球温暖化(パリ条約)を放棄する事を公約している。また、NATOに対してもっと負担を求め、日本に対しても更なる負担を要求している。その結果、ロシアや中国とのパワー バランスが崩れる可能性がある。

第2番目には、彼の気質ある。彼は、自己陶酔的(narcissistic)であり、怒りっぽく(thin-skinned)、しつけが悪い(ill-disciplined)。こんな彼が、議会で揶揄われ、あるいは侮辱された時、彼は、他にやり返す方法を探すことに腐心するであろう。(本来)彼は、大統領執務室の中では、自分の感情をコントロールし、アメリカの国益の為に何をすべきかを最優先に考えなければならない。しかし、もし、彼が、そうすることが出来ないならば、彼の大統領としての存在は、つまらない諍いの中で泥沼化してしまうであろう。

第3番目の心配は、大統領執務室の仕事である。大統領執務室で必要とされる「集中力」を維持できるかどうか、彼は、まだ、その証拠を示していない。 レーガン大統領は、しかるべき人に委託する事で有名であったが、彼の場合は、異常なまでにかれの家族や身近な人に依存し過ぎている。

しかし、幸いなことに、アメリカ憲法の賢明な処は、一人に大統領によって傷つくことに限界を設定している(大統領の任期が4年しかない)。我々の希望は、こうした懸念が無意味に終わることであるが、もし、彼がうまくいかなかったとしても、4年後には、別の大統領が誕生する。しかし、危険なのは、かれの失敗によって、その怒りがより助長されて、更に体制を破壊する大統領が選ばれることである。

最後に英誌エコノミストは「最近の西側の民主主義は、余りにも委縮して繁栄を享受できていない。政治家やその専門家たちは、民主主義が幻滅に帰結する事を当たり前のように考えている。トランプ氏がホワイト ハウスに入る準備をしているように、今一度、時間がかかり、そして大変労力のかかるリベラルな国際主義(自国優先的な考えではなく、より進歩的な国際協調主義)の議論をすべきである」と述べています。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
現在有料版にはお申し込みいただけませんのでご了承ください。

当社に無断で複製または転送することは、著作権の侵害にあたります。民法の損害賠償責任に問われ、著作権法第119条により罰せられますのでご注意ください。

コメントを書く

* が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

いただいたコメントは、チェックしたのち公開されますので、すぐには表示されません。
ご了承のうえ、ご利用ください。