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2016/07/22 06:05  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

EU, Brexitの次はイタリアの銀行問題?!


おはようございます。

先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

今年に入って、EUではイギリスのEUからの離脱を巡る国民投票の行方に人々の関心が集まっていましたが、これに並行する形でイタリアの銀行株が軒並み下落し、イギリスのEUからの離脱が決定して以降は、更に下落しています(イタリアは、EUの中では、ドイツ、フランス、イギリスに続いて4番目の経済大国です)。

この背景には、これまで長きにわたりイタリア経済が低迷して経済成長率は1%程度に留まり、これを受けてデフレが進行し、不動産を中心とした銀行の資産である担保価値が大きく下落することによって不良債権が急増しました。これに対して、EUやECBはイタリアに対して様々な構造改革を迫りましたが、イタリア政府はこれらを殆ど先送りして何もしてこなかった事が挙げられます。このことは株価にもはっきり表れており、2016年1月を100とした場合、STOXX600(ヨーロッパの主要企業600社)の指数は、2016年7月にかけて10%の下落に留まる中、STOXX600banks(ヨーロッパの主要銀行600社)の指数は同35%下落し、イタリアの銀行だけの株価指数に至っては55%も下落しています。

特に、今回、問題になっているのは、かつて、ギリシャが自国の銀行を救済するために公的資金を投入し(Bail Out:公的資金による救済)、そこに財政赤字が上乗せされた為に2012年以降にギリシャ危機を引き起こしました。 EUはこれを救済するために加盟国の税金を使わざるを得ませんでした。 この苦い経験から、EUは、2016年1月からEU加盟国が自国銀行を救済するために公的資金を投入する事を厳しく制限し、公的資金投入の前に、まず、当該銀行の株主及び銀行債券保有者に相応の負担を求め(Bail In)、公的資金投入は銀行破たんの際に限られるとしました。 その為、EU各国は2016年以前に自国の不良債権を多く抱える銀行に対してある程度公的資金を投入しましたが、イタリアは何もしませんでした(と言いますか、何もできませんでした)。

イタリアの場合、個人の銀行が発行した債券の保有者は2000万人とも言われ、その保有者の多くは、「銀行債券は、預金と同様に250万ユーロまでは保護される」と信じているのです(実際は保護の対象ではありません)。こうした事もあって、イタリア政府は銀行を救済したくても公的資金は投入できないし、かといって銀行を破たんさせることもできない二進も三進もいかない状態に陥ってしまっています。 その結果、ECBが行ったヨーロッパの銀行のストレス テストでは、イタリアの銀行貸し出し全体の18%(金額にして360bnユーロ;日本円にして約40兆円)が不良債権化していることが判明しました。

これに対して、イタリアの銀行や保険会社などの金融機関は、2016年4月に資金を出し合って4.25bnの救済ファンド(the Atlante)を設立して、イタリアの中小銀行を救済しようとしましたが、北部の小さな2つの銀行を救済しただけで既に2.5bnユーロの資金を投入してしまい、早くも資金不足が問題となっています(焼け石に水)。

英誌エコノミストは、「(結局のところ、銀行を救済するためには、当たり前の事ではあるが)、イタリア政府が主体となって、銀行に対して優良資産を売却し、資本をもっと補強させて不良債権を償却し、更には中小銀行の整理統合を進める必要がある。 しかし、残念なばら、それでも不十分かもしれない(Bail In(株主や銀行債券保有者の負担)や銀行破綻があるかもそれない)。さもなければ、銀行が生き残ることは非常に困難かもしれない」と述べています。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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