先週号の英誌エコノミストで現在の日本のことを「Hollow　men（空洞化した人々）」と題した記事がありましたので、ご紹介したいと思います。

読者の方もご存じのように、日本は１９９０年台初頭にピークを打って以来、失われた１０年どころか、更には失われて２０年をも越え、今や失われた３０年を目指して突進中です。この間、リスクを取らない経営、なかなか決められない意思決定、利益よりマーケットシェア重視の経営に走った結果、小回りの利く韓国や中国企業に追い越されてしまいました。

とはいっても、この間、日本の企業だって黙って何もしなかったわけではありません。　カリフォルニア大学サンディエゴ校のUlrike Schaeda教授によれば、日本の企業全体から見れば５分の１は海外に事業を移転し、特に、電機業界は３０％以上も事業を海外にシフトし、車業界に至っては、半分は海外で生産するまでになっていると指摘しています。

こうした海外シフトですが、それでも他の国の製造業の海外シフトに比べれば、（それがいいのか悪いのかは別にして）まだ緩やかな方なのです。　例えば、２０００−２００８年の間に日本の製造業就業者数は１０分の１減少しましたが、アメリカでは２０％減少し、イギリスに至っては２５％も減少してしまっています(日本の雇用の観点からいえば、日本の雇用は守られていい事だと言えますが、その一方で、企業効率の観点から言えばいい事ではありません)。

それでも、日本の多くの企業は、かつては中国の安い賃金を求めて工場を移転しましたが、現地では想像以上の速さで賃金が上昇してしまい、また、中国以外のタイに進出した企業に至っては、昨年の大洪水で大きな被害を受けて、海外で事業展開するリスクを思い知らされました。　

また、日本国内は国内で、ご存じのように２０１１年に東日本大震災によって、サプライ　チェーンの大混乱が生じ、日本で事業展開するリスクも思い知らされました。

結局のところ、日本企業は、国内にいても、あるいは海外に生産拠点をシフトしても、為替リスクや災害リスクは常について回り、これを逃れることができないのです。　そんな中にあって、興味深いことに、トヨタは「日本で生産を維持することは、大震災等のリスクを考慮しても魅力的である」とし、今年に計画している自動車生産台数９６０万台の内、３４０万台は日本で生産する」ことを決定しています（ということは、既に６割以上は海外生産なのですが、、、）。

そして、この国の空洞化の大きな理由の一つと言われる円高ですが、その円高の中身もだいぶ変わってきました。　以前は、貿易黒字が日本の経常黒字の中心でしたが、生産ラインの海外シフトや輸入燃料の高騰を受けて日本の貿易黒字は赤字に転落し、それを補う形で海外証券投資の受取利息が経常黒字を下支えしているのが現状です。　しかし、その海外証券投資の黒字も、世界中の金利低下傾向を受けて今後は急速に受取利息も減少することが予想されます（即ち、対外証券投資の受取利息では貿易赤字をカバーできなくなる時がいずれ来る)。

その結果、「この国の空洞化の代償は、究極的には、仕事を求めて多くの国民が海外に出かけ、その所得を自国に送金する姿となって表れてくる」と英誌エコノミストは指摘しています。　そして、その姿を「まるで発展途上国の海外出稼ぎ労働者と同じではないか」と嘆くか、そうではなくて「自分のスキルと可能性を胸に覚悟と気概を持って海外にその機会を求めるか」は、その人次第なのです。