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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2012/02/21 06:09  | 昨日の出来事から |  コメント(3)

ギリシャは、ユーロから離脱すべきではない!?


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストにかつてデフォルトをしたアルゼンチンとメキシコの前中央銀行総裁が「ギリシャはユーロから離脱すべきではない」との特別寄稿がありましたので、ご紹介したいと思います。

今、ギリシャはデフォルト危機に直面しているが、実の処、誰も「(ギリシャにとって)持続維持可能な債務残高とは、いくらか?」あるいは「ギリシャの“本当の”GDPはいくらなのか」について誰も分かっていない。
しかし、過去の教訓から言えることは、1990年代にラテンアメリカで起きたデフォルト救済問題は、結局のところ、「財政債務の圧縮」と「構造改革」が大きく前進した時に初めて実現可能となったということである(従って、ギリシャも「財政債務の圧縮」と「様々な構造改革」なしにデフォルト救済は実現可能とはならない)。

こうした中、多くのアナリストは「ギリシャはユーロから離脱して(かつての通貨)ドラクマを復活すべきである」との指摘が出ている。確かに2002年にアルゼンチンは、それまでの米ドルペッグ制から離脱することによってアルゼンチン ペソを切り下げ、その後、短期間ではあったが非常な痛み伴った調整期間を経て、その後の6年間は急速な経済成長をなしえた。 しかし、それは、“単一通貨”による積極的な輸出によって持続維持可能な黒字を確保し、国内においては厳格な財政バランスを管理することによって成し得たものである。一方で、ギリシャは外国への輸出に頼ることができない上に、既に、大幅なリセッションに陥ってしまっている(持続可能な貿易黒字も、国内の需給バランスも壊れてしまっている)。

また、現実問題として、アルゼンチンは、当時の単一通貨ペソによる固定為替相場制度(Currency board)は、相手を支援し、あるいは金融機関のセイフティ ネット(安全策)を想定していなかったので、(危機に際しては)デフォルトする以外に打開策はなかった。 しかし、ギリシャは、ユーロといった多国間合意の下、様々な救済策や、調整をスムーズに行う機能を持った通貨(ユーロ)に属している。 我々としては、アルゼンチンが行ったデフォルトをギリシャが同様にユーロ圏内で行った場合のコストを非常に問題視しているのである。

では、どんなコストがかかるのか?
まず、銀行経営である。
通貨切り下げを行えば、預金流失が起こる。アルゼンチンの場合、1年以上に亘って外貨の3分の2が流失してしまった。 これ以上の流失を避ける為には預金引き出しの上限を設定するしかなかった。その結果、市場は非常に混乱し、クレジット危機と流動性危機の両方に陥り、その結果、政権までも倒れてしまった。 ギリシャが通貨ユーロを放棄することは、アルゼンチンが経験した以上に広範囲にそして壊滅的なダメージを与えるであろう。

また、アルゼンチンでは、当時から、自国通貨ペソと並行してアメリカドルも流通しており、ペソの通貨切り下げは比較的限定的であった。 しかし、ギリシャの場合は、全てがユーロに切り替わっており、そのユーロを放棄して価値の低いドラクマへ全て切り替えることは、債権者や預金者を著しく傷つけ、引いては社会不安を引き起こしかねない。

次に、民間企業である。 アルゼンチンからの経験からすれば、アルゼンチンの民間企業の海外債務は、通貨切り下げが起きても債務の切り下げにはならず、外国の債権者との長期に亘る交渉の結果、彼らは自らの債務を引き下げる事が出来ずに多くの企業は倒産するしかなかった。 これをギリシャに当てはめれば、同様にギリシャの民間企業の倒産の嵐(a sea of bankruptcies)が待ち受けているであろう。

このように、アルゼンチンの固定相場制の放棄は、人々を苦しめ、限りない無数の契約違反を横行させ、投資環境に対する汚点となった。 しかし、それ以上に、(ギリシャが)かつて放棄した通貨を再導入することは、更なる困難を意味する。 あれだけ苦しんだアルゼンチンですらペソは放棄しなかったのである。 にもかかわらず、ユーロを導入したギリシャがかつての自国通貨ドラクマを現在の混乱と危機の中で再導入することは、通貨としての信認を得ることは非常に困難であり、殆ど実現不可能である(通貨として機能しない可能性が高い)。

ギリシャに対して、ユーロからの離脱を提案する人は、その壊滅的な結末を過小評価しているに過ぎない。かつてのアルゼンチンの経験は、ギリシャがユーロから離脱する格好の根拠になるのではなく、寧ろ、逆に(その混乱と壊滅的な結末を導く可能性から)ユーロにどうやって留まるかの議論に向けるべきである。

では、現実問題として、「どうやってギリシャの競争力を高め、あるいは、通貨切り下げることなくそれをなし得るのか?」といった難しい問題がある。
その答えとしては、ラテンアメリカの成功した調整例からみると、まず言えることは、「通貨の切り下げ」と「ただちに実質賃金を切り下げる」ことが挙げられる。 確かに通貨切り下げは、実質賃金切り下げよりも容易であるが、ギリシャの場合は「通貨切り下げ」は出来ないので、実質賃金を切り下げるしかない。 

結局のところ、ギリシャはユーロに留まり、実質賃金を様々な形で引き下げて構造改革を推し進める中で、効率を高め、国際労働競争力を高めていくしか道はないのである。 ギリシャは、今、長く、困難な道の中にいる。 しかし、その旅路が、ユーロ圏の外ではなく、ユーロ圏内で行われるならば、より痛手を負うこともなく、また、より成功的になるであろう。

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3 comments on “ギリシャは、ユーロから離脱すべきではない!?
  1. st より
    いい文章ですね。

    アルゼンチンとメキシコの前中央銀行総裁は素人の私にでも噛み砕いてよく分かるように愛情を込めて説明されている、すばらしくいい文章です、ドイツの中央銀行総裁が頼んで寄稿してもらったとは言いませんが、ユーロ圏のソブリンリスクはドイツの知力で乗り切るしかなく可能だと思っています、世界の知力のリーダーはドイツだと思っています。

  2. ペルドン より
    一歩下がって・・

    トロイの木馬・・
    イギリス人の策略好き・・深謀・・・

  3. 匿名希望 より
    日本も見習わねば

    つまり、縁もゆかりもない人たちがいったん一つの家で住むと契約した後に、ニートが紛れていると判った場合、そもそも財布すら別々なのに、ニートを叱咤激励して、養い続ける義務があるってことですね?

    そして何故か、家すら異なる日本が、被害を避ける為に、無償援助して家を増築する義務を負うのですね?(彼らは感謝どころか、罵倒しますが)

    やっぱり欧州は巨大な絵を描く外交が得意ですね?

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