2019/04/16 05:37 | 昨日の出来事から | コメント(0)
アルゼンチンVS日本?!
先々週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
マクロ経済は多くの人々を楽しませてくれる。しかしアルゼンチンと日本の経済を説明する如何なる理論に対しては同情を禁じ得ない。とりわけ、どうして一方の国ではインフレが頑固で、もう一つの国ではインフレが低いのか?アルゼンチンでは、2月時点で消費者物価が前年比50%上昇し、1991年以来、最も高い水準となっている。一方、日本では、やはり同じ期間のインフレは0.2%以下であり、現在のインフレ率は2016年以来、最も低くなっている。
両者の慣性モーメント(インフレに関するの傾向)は謎である。日本のインフレ率は労働市場が非常に逼迫しているににもかかわらず低い(昨年の失業率は2.5%以下)。そして、アルゼンチンでは景気が後退しているにも関わらずインフレ率は高く、2018年第4四半期のGDPは前年同期比で6%以上も減少している。
2つの国はこれまでエコノミストを不可解にしてきた。Maddison Project databaseによれば、1950年のアルゼンチンの一人当たりのGDPは日本の3倍あった。 当時、慈善団体の創設者でありアルゼンチン大統領夫人であるEva Peronは、100トンもの救援物資を敗戦国日本に送った。代わりに、日本から何千人もの人が海を渡り、1960年代には日系アルゼンチンが23,000人に達した。
しかし、これらの国の進んだ道は決定的に正反対になる。1970年頃の日本の一人当たりのGDPはアルゼンチンに追いつき、現在では購買力平価ベースで約2倍となっている。日本の成功とアルゼンチンの失敗は、経済予測を裏切る形になった。1971年にノーベル 経済学賞を受賞したSimon Kuznetsは彼の成長に関する業績の最大のものは「世界には4つのタイプの国々がある。一つめは発展した国々であり、もう一つは発展途上国であり、そして、日本とアルゼンチンである」と述べている。
両国の政治家はマクロ経済を通常化する為に一生懸命やろうとした。安倍晋三首相の2012年以来、中央銀行はインフレ率を2%まで上昇させるために国債を買い取ることを約束した。そしてMauricio Macri氏が2015年に大統領になって以来、中央銀行はインフレ率を2017年には17%に、そして2018年には12%まで引き下げ、インフレ率を5%以下にすることを目標として政策金利を引き上げた。
しかし、両方のケースも、こうした大胆な政策枠組みは悲しい結果に終わったように思われる。日本では、前任の総裁は緩やかなデフレを望み、寧ろこれを歓迎していたため辞任した。アルゼンチンでは、前政権は、インフレに対して数字をごまかすことでこれに対応した。
しかし、これら初期の楽観的な考えは共に頓挫する。両政府は、再びその目標に直面し、それを達成する為の手段を打たざるを得なかった。2017年にアルゼンチンが予想した以上にインフレがしつこいことが分かった為、政府は達成不可能なインフレ目標をより現実的なものに緩めた。しかしその事が、投資家に対して物価上昇に取り組む政府の信頼を損ねる結果となった。日本では、多くの経済評論家は日銀が達成できないインフレ目標2%をもっと達成可能な低い水準にすべきだと主張する。しかし投資家は、アルゼンチンの変更を「取り組みに対して弱腰なった」と過大解釈したように、投資家は、金融政策の見直しを日本が「金融引き締めに変更するサイン」と飛びついた。如何なる中央銀行の目標に対する動揺(変更)は、現実に対する認識というよりも寧ろ金融政策の変更と誤解されるであろう。こうした過去の経緯から、どの銀行もこうした疑いによって成果を得る事はなかった。
過去の経験からだけでは、(投資家は)自己満足の予言を作るに過ぎない。アルゼンチン通貨の保有者は、ハイパーインフレやデノミなどの多くの痛手を負った。そして2001年には、corralitoという預金封鎖もあった。一方で、円は、反対に安全通貨として扱われた。問題が起きた時、投資家はアルゼンチンの通貨から逃げ出す。一方で、円は反対に流れ込んでくる。最近のペソは10%下落したが、それは昨年に50%下落した後の更なる下落であり、その理由はインフレの再燃にある。一方で、周期的に起こる円高で日本では反対の事が起こっている。
それぞれの中央銀行の過去の悲しい経緯のおかげで、それぞれの国の賃金交渉に対する影響力も落ちている。両国の労働者は、中央銀行が約束したインフレ率よりも自分たちが感じている物価のペースにあう賃金を要求している。春闘において、日本の大手企業や組合は経済に関するデータを放棄して賃金交渉をしている。パナソニック、日立、東芝の今年のベースアップは僅か0.3%に過ぎない、と調査会社Capital Economicsは述べている。
アルゼンチンでも日本の春闘のようにparitatiasと知られるものがあり、エコノミストによれば、今年の賃金は30~35%上昇すると予測しており、こうした事がインフレを更に不愉快な水準にまで引き上げる一因となっている。アルゼンチンの一学期は3月に始まるが、学校の先生が去年と今年のインフレに見合う賃金引き上げを要求してストに入って授業が遅れている。当然のことながら、その後、何が起きるかは自明のことである(インフレの高進)。
アルゼンチンのインフレ傾向は、そのインフレ対策そのものに原因が存在して、その結果、長い奮闘が続いている(賃金の引き上げが更なるインフレを助長する)。 日本のデフレも同様にその賃金政策そのものの中にある(低いベースアップを続けている事)。アルゼンチンの国民の貯蓄率は過去30年以上に亘り、GDP対比平均で17%に過ぎない為、投資をするにはあまりにも低すぎる。その結果、過去30~40年に亘り、経常収支は赤字を記録し続けた。日本では、反対に1981年以降、経常黒字であり続け、今や世界でも最大の債権国となっている。多少の変化の兆しはあるものの、日本の企業は賃金引き上げや先進国で行っている配当引き上げよりも現金や他の金融資産を積み上げている。
世界には4つタイプの国々がある。発展国と発展途上国と、お互いに他人事と考えているこれら2つのカテゴリーに属さない国々(日本とアルゼンチン)である。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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