2019/03/28 05:32 | 昨日の出来事から | コメント(0)
ロック スター 債券投資家?!
先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
1965年のある晩、(ローリング ストーンの)Keith Richardは枕元で音楽のフレーズを聞いて思わず起きた。彼はギターを取り出し、カセットテープにその基本フレーズを弾いて録音し、その後、再び眠った。ミック ジャガーはプール脇で歌詞を即座に書き込んだ。4日後、ローリング ストーンは「I Can’t(Get No)Satisfaction」をレコード化した。
彼らのレコードは、John Seabrookの本「Song Machine」によれば、既存の物とは全く違っていた。それらは、コンピューターで作られたサウンドで構成されていた。制作は数か月に及び、まず、電子パーカッションのスペシャリストがビートを叩いている。 次に、サビの部分は世間受けするビートで出来ている。3つ目にはメロディアスに書かれている。 すべてはそれまでのヒット曲の枠を越えていた。
同様の事が、世界で最も大きな債券投資会社、ピムコを創設したBill Grossにも当てはまり、1987年から2014年までのトータル リターンは他の市場ベンチマークを上回っていた。先月に引退した彼は、しばしば、「ロック スター ファンド マネージャー」と呼ばれた。NY大学のAaron Brownとヘッジ ファンドRoyal Bridge CapitalのRichard Deweyの本では、彼に「Song Machine」の称号を与えている。もし、あなたが、彼の投資戦略を真似たとしても、アルゴリズムが一致しない人的要因が残ることを知るであろう(同じ結果にならない)。 ローリング ストーンのファンたちは、それをインスピレーションと呼ぶかもしれない。金融の世界では、それは「+α」として知られている。
では、Gross氏のトレードマークであるビートやサビの部分は何だったのだろうか?彼は3つの事を述べている。彼は、クレジット リスクを取った。即ち、彼は、他の債券マネージャーが追いかけている債券インデックスの代わりに、デフォルトするかもしれない発行体から債券を買った。彼は、同じ発想でモーゲージ バック債券のポートフォリオを作った。そして、彼の3つ目のトレードはイールド カーブの形状を利用したトレードであった。例えば、5年債は常に4年債よりも利回りが高い(価格が低い)。5年の債券は、時間の経過と共に価値が出てくる。 例えば、5年債の利回り6%は、1年後には4年債の5%になって利回りは下がり価格は上昇する。彼のマジックは、ローリングダウンが最も強いスイート スポット(美味しい部分)に焦点を当てたことにあり、それが残存5年周りであった。その為、彼はこの近辺の債券を大量に買った。そして、そのデルタ ヘッジとして30年債で僅かにショート ポジションを取った。この部分(30年債)のローリング効果は殆どなかった(イールド カーブが殆どフラット)。
BrownとDeweyの両氏は、こうした要素を真似るための売買ルールを取りまとめた。彼らは、Gross氏の超過リターンがどれ程かを計測する為に統計的な実験を行った。そこで、彼らは、Gross氏が統計的な実験結果をアウト パフォームしていることを知る。即ち、これが、Gross氏の持っているマジックαである。
この種の分析の典型的なものは「バフェットのα」と言われ、2013年にAndrea FrazziniとDavid KabillarとLasse Pedersonによって書かれた本の中で紹介されている。その中で分かったことは、ウオーレン バフェットがマーケットのパフォーマンスを越える為に購入する株は、投資家の中ではよく知られたストラティジーと一致し、所謂「Value Stock:会社の資産価値に比べて安い株」である。しかし、その結果は、アップルのマックを買って満足するようなものとは、少し違ったものになる。バフェット氏が、儲かるストラティジーの本質を知っており、彼はそこに固執するが、普通の人には、それは容易いことではない。しかし今回の大きな目標は、そうした点ではなく、こうしたシステム化した投資がうまくいくかどうかである。
一方で、Gross氏のストラティジーを真似するのは容易いことではないように思われる(リスクが高すぎるため)。BrownとDeweyの両氏は、Gross氏の優位性がどんなものであれ、彼は優秀だったと述べている。つまり、もし、あなたが、他のマーケット参加者よりも儲かるならば、次の問いをしてみるといい。「私が儲かるならば、損をしているのは誰か?」 バフェットのバリュー投資が儲かるのは、他の投資家が株の成長によって得られると推定される収益を放棄して、それをバフェットに与えているからである。同様に、Gross氏のロール ダウン トレードも、ある投資家(生保等)が、自らの長期負債をイールドが相当フラットになっている長期債(30年債)に対して過剰な買い需要がある為かもしれない。
他人の間違いから来る収益機会は、熟練された投資家の収益となる。しかし、Gross氏の残り2つは、多くの債券投資家が耐えうるリスクを越えるリスクを抱えている。クレジット債券やモーゲージ債は安全な国債に比べて僅かな超過リターンを得ることが出来るが、時としてこれらは巨大な損失に苦しめられる。「こうしたリスクを取ってより高いリターンを得ようとする投資家は、スキルがあるとは言えない」と著者は述べている。
(音楽の世界において)多くの才能のあるロック スター達もリスクを取っている。(ローリング ストーンの)Keith Richardは、違法なドラッグを取り過ぎて野牛の群れに落ちてしまった(麻薬中毒になってしまった)。その彼の生き方は物語そのものである。Gross氏のリスクの高い投資も同様である(リスクが高い)。BrownとDeweyの両氏は、こうした投資戦略による壊滅的な損失は、実際どれ程の規模なのか計測できないと述べている。状況によって物事が全く違ってくるからである。 (ローリング ストーンの)Richard氏が記述しているように、多くのロック スターは生き残れない。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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