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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2018/12/27 05:35  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

「その内、いずれ」が、やはり来た!?


おはようございます。

先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

Jesse Livermoreは、1907年の暴落時にわずかばかりのポケット マネーで大儲けをして投機家としての名声を得た。信用不安と不安定な株価を受けて株式市場は危険なほど売り買いが交錯した中、その秋、彼は株式を空売りした。株価が10月24日に暴落した時、彼はUSD1百万ドル(現在の価値でUSD27百万ドル)稼いだ。その後、彼は方針を転換し、非常に安くなった株を買い始めた。すると市場は急騰し、その年末には、彼はUSD3百万ドル儲けた(現在価値で81百万ドル)。

株に投資をした人なら誰でもLivermoreがやったような絶妙なタイミングで売買する事に憧れる。非常によく言われることであるが、景気循環調整後のPER(price-earning ration)のようなフェア バリューを表すベンチ マークがあればいいと期待する。歴史的には、1920年代、1960年代、1990年代と株価が企業業績をはるかに越えて上昇した事があった。しかし、その後は結果的には株価元の水準にまで下落した。そこで、市場のタイミングを計って売買する人は、CAPE(cyclically adjusted price earing)が高い時に売り、低い時には買うであろう。

それは非常に単純に見える。しかし、実際は、この有用な物差しでマーケットの売買のタイミングを判断する事は非常に難しい。それによって非常に早いタイミングで株を売ってしまう投資家の多いことか。結果として、彼らは最も儲かるタイミングの収益チャンスを見逃してしまう。また、(CAPEを使って)誰もが買っている時に、売るのはいとも簡単であるが、暴落時に皆が売っている時に買いを入れるのは非常に困難である。

純粋主義者の見方によれば、マーケットのタイミングの議論は「mug’s game: 馬鹿げた話」であり、それはランダム ウオークだからであり(法則性がなく)、過去の指標は将来の値動きと全く関係ないという。しかし、1980年代にはこの純粋主義者の信条に対して専門家から疑問が投げかけられた。株価は、何らかの中間となる価値に向かって反転する傾向があるので、予想可能な何かがあるに違いないとされた。 本来あるべき価値から乖離するのは、投資家がニュースに対して過剰反応する方に過ぎないと考えられた。 企業収益が強く、株価が上昇している時、その価値がどうであれ、投資家は株の買い手であり続けるであろう。また、景気後退には、その逆も真となる(どんなに株の価値があっても、誰も買わない)。結局の処、この群集心理が、マーケットの売買のタイミングを形成しているのである。

とはいえ、そこには欠点がある。「何をもって安く、そして何をもってして高い」かは、過去の価格を調べることで定義される。しかし投資家は、どんな時でもこれを事前に知ることが出来ないのである。もしくは、CAPEがピークを付けたか、あるいは底打ちしたかの明確な時期を知ることは出来ない。後付講釈では、そのタイミングの議論は意味がない。

2017年に、AQR ManagementのCliff Asness、Antti Ilmanen, Thomas Malonyが売買戦略のタイミングに関する調査をした。 この測定にはロール オーバーする60年間のCAPEの平均値が使われた。CAPEが歴史的な中間点、即ち フェア バリューを下回った時、戦略としては株を買う。逆に、それを上回った時、保有株を現金化する(売却する)。1900年から2015年までの全ての期間に亘って調べたところ、その戦略によるリターンは、常に100%株式を保有していた時に得られるリターンを僅かに上回る程度であった。 そして1958年から2015年の後半については、そのリターンは、常に100%株式を保有していた時に比べて上回ることは全くなかった。

この戦略の失敗点は、投資しない時期において、株を全く投資しなかったことにある(Under Investし過ぎた)。また、平均的なCAPEは1950年代以降上昇傾向を続けており、歴史的な価値から上回る傾向が頻繁に起こっている。また、売買タイミングとしてはアメリカが一番良かった。しかし2013年の3人の学者、Elroy Dimson、Paul Marsh、Mike Stauntonによる研究によれば、世界の主要23株式市場において、株価と株式リターンの間に一定の関連性を見つける事は出来なかった。

ヴァリュー(本来あるべき価値を使う事)は売買のタイミングとして使うのは余りにもその相関性が低い。しかし改善させることは可能である。AQRの研究者は、株価に内包されている“Momentum:方向性”をバリュー ベンチ マークに結び付けることで、パフォーマンスが改善された。しかし、問題は、この バリュー ベンチ マークは長期間にわたり、本来あるべき価値から乖離する傾向がある。とはいえヴァリューとMomentumを結び付けることは、価値に「触媒(より明確にさせる効果)」を与えるようなものであると筆者は添えている。

この戦略を通常の投資家が儲ける為に信頼できるものにするにはあまりにも複雑である。そこで、より単純なマーケットのタイミングがある。それは何らかの経験上のサポート(売買ルール)を持つことであり、リバランスすることである。まず、初めに投資家は、投資をどのように配分するか決める。それは、例えば、アメリカと非アメリカで同等に分割する事でもよい。より正確なあるべき投資配分のウエイトは、単純に配分しているのとさほど変わらない。その戦略では定期的に元の投資配分にリバランスする必要がある。それは、儲かっているポジションの残高を減らすこと意味し、儲かっていないところに投資する事を意味している。

このリバランスのいいところは単純であることである。それは、より複雑な戦略に従って高いコストのかかるミス(オペレーション ミス)をすることもない。問題は、Livermoreの様なマーケットに対する思い込みで売買する事(直感で売買する事)を放棄しなければならない。彼のようにすることは、マーケットに対する神経をすり減らすだけである。あなたは、Livermoreのような投機的才能を持っていると思うかもしれない。しかし、ほとんどの場合、そうではない。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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