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2018/09/20 06:01  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

イタリア国債が不安定なのは何故か?!


おはようございます。

先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

仕事の後に飲みに出かけるロンドンの文化を説明する鋭い考察がある。 それは、「2と6の間の数字がない」というのである。つまり、もしあなたが飲みに出かけて2軒目でやめるなら、あなたは適当な時間で家に帰ることを宣言できるであろう。しかし、3軒目を過ぎると、もう一軒、そしてもう一軒という考えを持つようになるであろう。当然のことながらあなたは酔っぱらってしまう。

これと同じことがイタリア国債市場にも当てはまる。利回りが2%あるいはそれより下回っている内は、イタリア国債は安定的に推移する。つまり、その水準ではイタリア国債は安全であり、イタリア国債の発行も安定的である。しかし利回りが3%を越えてくると、そのタガが外れるかもしれない。国債は投機の対象になり始める。安定的な国債の発行に疑問が投げかけられる。国債の利回りは6%あるいはそれ以上に上昇するかもしれない。

これこそが、イタリアは比喩でいう処の3軒目にいるという懸念であり、イタリア国債の利回りは3%近辺でうろついている。これは、ある意味ではイタリア政権が2019年の財政政策でEUの財政規律ルールを破る懸念を反映しているともいえる。しかし、それ以上に投資家が「イタリアのリスクに対して適正な価格はいくらか?」を自問し始めたともいえる。賢明な投資家は「イタリア国債の適正価格がわからない」と素直に認めている。何故ならば、イタリア国債は、その価格にトリッキーな(巧妙な)オプションが組み込まれた債券だからである。

イタリアの国債市場を理解する為に、まず初めに安全資産と(リスクのある)クレジット債券を区別する必要がある。アメリカの国債は、典型的な安全資産である。国債の利回りは、連邦準備の短期金利政策によって決まる。国債保有者は連邦政府の債務支払い能力について全く心配していないし、発行する通貨についても同様に心配していない。次に典型的なクレジット債券は、その企業がドル建てで発行したものであり、GMやアップル、あるいは、国でいえばブラジルであり、メキシコである。それぞれの利回りは、同じ償還の米国債に対してバラバラであり、プレミアムと言って借り手がその債務をドルで支払うために十分な稼ぎ(税収)があるかどうかでそのスプレッドが決まる。

しかし、ユーロ ゾーンでは、安全な債券とクレジットの線引きをするのは困難である。アメリカと違って、通貨に対して単一の発行体がいない。一種のジョイント ベンチャーみたいな(各国が出資し合った)ECBが通貨ユーロを発行している。ドイツ国債は安全資産の指標として扱われているが、それは単に域内で最大の経済規模を持ち、財政に対して倹約的であるとの評価を得ているだけである。そこに、然るべき他の国が、バー ルーム(EUという名の居酒屋)の議論に加わっているに過ぎない。ECBのQE(量的緩和政策)によって、イタリア国債も含めて全てのユーロ ゾーンの国債は安全に見えている。LSE(London School of Economics)のLorenzo Codogno氏は「ECBは、過去3年において、実質的にイタリアの国債発行をカバーしている(肩代わりしている)」と述べている。 しかし、今、QEは終わろうとしている。他の買い手を見つけなければならない。こうした中にあってイタリアの公的債務、病的な経済、不安定な政治の問題が表面化しているのは決して偶然のことではない。

更に、悪いことに、イタリアの国債が、例えば、メキシコのドル建て債のようにクレジット債券そのものかといえばそうでもない。イタリア国債にはオプションが内包されている。例えば、2012年にECB総裁Mario Draghi氏が「ユーロを守るために出来る事がすべてやる」と言った時、投資家が、イタリア国債をどのように扱ったか? 彼らはECBがイタリアのデフォルトを決定すれば、単一通貨ユーロが崩壊するかもしれないという考えを棚上げして再びイタリア国債を買った。実際はそうでなかったかもしれないが、こうしたオプションが組み込まれた曖昧さは、その価値を測ることが困難である。PIMCOのAndrew Ball氏は、「イタリア国債は世界金融危機の震源であったモーゲージ バック債券と同じ」と表現する。モーゲージ バック債券は、かつては安全であった。しかし、それらの価格を評価するにはあまりにも複雑であり不透明であった。

債券は、(その仕組みは)単純でなければならない。しかし、イタリア国債はそうではない。イタリア国債はあなたの寡婦になった叔母が買う対象ではない。また、投資家によってはそういうものに投資する余裕のない投資家もいる。しかし、ユーロ圏の保険会社は自らの域内の国債を買わざるを得ないし、イタリア国債市場はその中にあって最大である。よってイタリアは多くのアセットマネージメント会社の指標である債券インデックスに占める割合も最大である。あなたはユーロの生き残りを懸念しているかもしれないが、少なくとも、あなたがリスクに対してより高いリターンを必要とするならば、イタリア国債はあなたが資産を売却する最後かもしれない。代わりに、あなたは不快感というコストを支払わなければならない。その意味でいえば、フランス国債も正しくない。何故ならば、フランス国債もドイツ国債対比で極めて僅かなプレミアムしかついていないからである。
 
ユーロ ゾーンの債券市場を仕事が終わった後の飲み会に例えて考えてみてほしい。ドイツは、他の人の飲み代を払わされるのはまっぴらである。だから、仕事終われば直ちに家に帰る。イタリアは3軒目のバーに向かおうとしている。フランスは、一軒目の店で酔っぱらって、すぐに家に帰ろうとしている。しかし、もしそこで喧嘩でも起きれば、フランスは3軒目の店に引きずり込まれるだろう。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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