プロが語る世界情勢・政治・経済金融の最前線!

The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2018/07/27 05:25  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

ベネズエラのハイパー インフレから学ぶもの


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

ファンド マネージメント会社のCIO(Chief Investment Officer)にあなたの投資にどのくらいのスプレッドがあるか尋ねてみて欲しい。 すると、あなたは債券とヘッジ ファンドあるいはプライベート エクイティとのスプレッドを教えてもらえる。しかし、債券(金融資産)と白い高層ビルや卵、更には長期保存のきくミルクと比較するようなことはしない。 しかし、ベネズエラでは、インフレが何千%なので損をしたくないと恐怖に駆られている人は、実物(現物資産)で蓄えている。

これが経済崩壊に苦しむベネズエラの首都カラカスに点在する高層ビルの建設の足場や建設資材が人目に飛び込んでくる理由である。経営者はインフレによって儲けが吹っ飛ばないように収益をどこかに蓄えておく必要がある。物価上昇に対する細やかな対抗手段として「卵経済」なるものが出現している。つまり、卵は超目先的には現金より価値がある。卵は、持ち運びに便利な交換手段である。 というのも半ダースの卵は、トランク一杯の紙幣よりも持ち運びが楽だからであり、多くの商人は紙幣より卵を受け取る方が助かるのである。

我々のような普通の貯蓄者に取って、このベネズエラの不幸な出来事から学ぶことは多い。まず、初めの懸念は個人のファイナンスについてである。安定した国では、貯蓄に関する間違ったアプローチをしたことに対するペナルティは、将来長期に亘りあなたを苦しめる。退職時のわずかばかりの退職金が悲惨なことになるかもしれない。 しかし、ベネズエラでは、間違った判断は悲惨を通り越して破滅に直結する。しかも極めて短期間に。自分の頭を水面より上にキープする為に(自分の資産を目減りさせない為に)とても心配しなければならない。はっきりしている事は、ベネズエラ通貨を保有すると水面下に行くことは確かである(損をすることは確かである)。

ハイパー インフレにまつわる話は極めて稀である。John Hopkins大学のSteve Hanke 氏は1790年台のフランス革命から始まるハイパー インフレの57のケースを研究した。 そこには、いつも何か異常な出来事があり、それらは戦争であったり、革命であったり、大規模な政治腐敗などがある。そしてその根源には、財政の長期に亘る赤字が常に存在し、それが官僚の不正であり、肥大化した社会福祉であり、税の徴収のあり方が単純で偏在し過ぎるなどがある。政府が紙幣を大量に増刷するとインフレが起きる。はっきりしている事は、こうした悪循環は極めて短期間で起こる。何故ならば、政府の支払いは、何かの行動の後、暫くして支払われるかである。急激なインフレは、納税者の価値を毀損する。税収の足りない分を穴埋めする為に紙幣をすればするほど、インフレは加速し、悪循環が一層悪化する。

ベネズエラは、大なり小なりにこの典型的な例である。しかし、人々はこうしたインフレに対して備えを行ってこなかった。1980~1990年台の高いインフレは、ベネズエラの中間層に海外のドル口座で貯蓄する事を教え、マイアミ(アメリカ)とカラカス(ベネズエラ)の間で資金を振り替えた。しかし、今回は資本規制によってこうしたやり口による巨額の資金移動は不可能になった。そこで別のインフレ ヘッジが必要となった。

その一つが不動産である。現職の大統領Nicolas Maduroが在任していた去年のインフレが最も高かった為、外人の中には、不動産を争って高値で家を買おうとする者もいた。しかし、そうは問屋が卸さなかった。既にインフレ ヘッジとしての不動産はあまりにも高くなってしまった。 そこで、当面のAからBに資金を移動する手段として「自動車」が使われた。ベネズエラ通貨で米ドルを買うよりも自動車の方が、交換がより容易であった。しかし自動車は、多くの人々がベネズエラの国外に去り、更には資産売却に走ったので、自動車の価値が下がってしまった。 不動産も、また、ベネズエラ通貨では高騰したが、米ドルベースでは安定していた。抜け目のない一部の人は、インフレに相関性の高い銀行株をインフレ ヘッジ手段として使った。これに該当する株としてはBanco Mercantiがある。というのもこの銀行はビジネスをベネズエラの外でビジネスを展開していたからである。

しかし、極端な高インフレに対して完全に身を守ることは不可能である。また、多くの場合、インフレに対抗することも困難である。特に、貧しい人は殆どその手段を持ち合わせていない。これが、ベネズエラのあちこちで抗議デモが起きている背景である。大学のファイナンスの試験では、普通の人がいかに自分のお金を管理するかを問うている。 Christian Badarinza, John Campell, Tarun Ramadoraiが書いた「家計ファイナンスの国際比較」の中で、これまで述べてきたことが纏められている。重要な点は裕福な人や教育を受けた人は自分達のお金で失敗する事は少ない。 彼らは、広く分散投資をし、低い手数料を払い、金利が変わる時、自分達の債務を素早く見直している。 一方で、金融に関する洞察力にかなり欠ける貧しい人々は、必ずしもいつも目に見えるとは限らないが実際の処は失敗をしている。

こうしたコストは、ベネズエラではより明白になって表れる。ここに「普通の人が自分のお金を如何に守るかにどれ程注意を払っているか」の理由がある。ちょっとした小さな変更が長期的には大きな違いになることもある。ベネズエラの人にとって、そうした知恵こそが肝心である。何故ならば、ハイパー インフレゆえに、本来は長期的な時間をかけてわかる投資の善し悪しが、来週といった極めて短期間でわかるからである。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
現在有料版にはお申し込みいただけませんのでご了承ください。

当社に無断で複製または転送することは、著作権の侵害にあたります。民法の損害賠償責任に問われ、著作権法第119条により罰せられますのでご注意ください。

コメントを書く

* が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

いただいたコメントは、チェックしたのち公開されますので、すぐには表示されません。
ご了承のうえ、ご利用ください。