2018/06/21 06:02 | 昨日の出来事から | コメント(0)
Fedは、利上げの影響を考慮すべき!?
今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
6月13日にFRBは政策金利を0.25%引き上げた。これで2015年12月のゼロ%から7回政策金利を引き上げたことになる。しかし、今回の政策金利の引き上げは、5年前に金融政策の変更を仄めかした時のようなインパクトは殆どなかった。 当時、Ben Barnanke 議長は市場に対して、近い将来、量的緩和政策を縮小するかもしれないことを投資家に敢えて忠告していた。これを受けて10年国債の利回りは急上昇し、世界中の通貨は乱高下した。後に「Taper tantrum:(国債買取り)縮小かんしゃく」と知られるこの出来事はFednの引き締めが世界の金融市場を動揺させ、その結果、アメリカ自身もこれに苦しむかもしれないとの懸念が出た。 しかし、その後の国債買取り縮小と政策金利の引き上げにうまく生き残った現在、Fedはそうした懸念を無視する傾向にある。しかし、それは違う。Fedの政策によってアメリカ自らが苦しむリスクはまだ残っている。
各国の賢明な中央銀行は、世界から吹いてくる悪い病に対して準備をしている。世界が同時に連動するおかげで、この数十年、その連動性がより強まった。1995年以降、海外資産を保有する割合は世界のGDP対比3倍となっている。同時に、世界の市場動向は、国際的により緊密になってきている。Oscar Jorda、 Moritz Schularick, Alan Taylor とFlex Wardが共著した本によれば、最近のこうした連動性は、過去130年において(20世紀以来)見られなかった現象であると述べている。特に、著者たちは、株式市場おいてリスクを取る際の連動性は著しいと指摘している。その事が最も如実に表れているのは、アジアの株式市場が、ヨーロッパやアメリカの急落に、ほぼ常に追随していることに見て取れる。
アメリカの金融パワーは非常に強いので、他の市場のトラブルに影響を受けない。また、取引の大半は、ドル建てである。ドル建て資産の割合は、世界の外貨準備の3分の2を占める(主にアメリカ国債)。また、アメリカの銀行は、世界の金融仲介の重要な役割を担っており、世界中の金融センチメントを変える役割も担っている。また、外国の銀行はアメリカの資産を大量に保有しており、この資産の変化(特に下落)が保有銀行の自己資本比率の影響を与え、それぞれの銀行は、リスクを減らす調整をしなければならない。
このように世界はFedの金融調節の影響を避けて通ることは出来ない。Messrs Jordaは、アメリカの金融政策が世界のリスク テイクの判断により重要になっていると述べている。これに同調するように、Fedの様々な影響と世界のリスク資産価格や与信に関する本の書いたSilvia Marinda-AgrippinoやHelene Revにも記されている。Ms Revは「世界の資本市場に開放している国々は、必然的にある国の金融政策(実質的にはFed)の犠牲にならざるを得ない。変動為替レートだけでこうした影響を排除しきれない」と述べている。
Fedは、海外の経済状態よりも自国の経済状態に主眼を置き、政治的に独立する事を望んでいる(政治的影響を排除したがっている)。しかし、彼らの金融政策は、回りまわってアメリカ経済に影響を与える。Fedによる引き締めが世界のリスク センチメントを変えて(アメリカの資産を売却し)、それによってアメリカ人が保有している不動産や株などの資産価格を下げ、金融政策の変更がより増幅させて影響を与える事になる。このことは2015年にFedが政策金利引き上げの準備を始めた「taper tantrum」の期間、明確となった。 しかし、連銀理事の一人 Lael Brainard氏は「短期金利引き上げ期待が、ドルを押し上げ、金融市場を緊張状態に陥れるfeed back効果は、政策金利を引き上げる前の短期間だけである」と述べている。
2015年には5回の政策金利引き上げ期待があったが、最終的には2016年にFedが政策金利を引き上げたのは2回だけであった。更に、金利が上昇するにつれ、feedback効果に対する懸念は下火となった。現在のPowell連銀議長は、「世界の金融市場がアメリカ経済の影響を受けている間は、アメリカの金融政策が「誇張」されているに過ぎない」と述べている。Ms Brainard氏も「feedback リスクは、それ以前に比べて低下している」と認め、「市場は、様々な金利の思惑が入り乱れたFedの前代未聞の資産購入のアナウンス効果に足を踏み間違えたのかもしれない」と述べている。そして、政策金利がゼロ%を越えて来たとき、Fedは政策判断をより間違える余地を持つことになる。つまり、アメリカ経済はかつてなく強固であり、雇用の増加はゆるぎないものである。その結果、2013年の真綿で締め付けられるような国債金利の急上昇は、その後、沈静化した。実際、現在の10年国債の利回りは、2013年末の水準よりも低い水準で取引されている。
世界経済は、かつてほどお互いの金融市場が連動しておらず、また、ドルに依存していないのかもしれない。そして風向きが変わりつつあるのかもしれない。世界の成長は緩やかなものになろうとしている。エマージング市場は、ドル上昇に病の高熱を感じている。クレジット市場の成長は前年を下回ってきている。最も重要なことは、Ms Brainards氏が警告しているように、世界経済は、「taper tantrum」の頃のように金融危機に対する準備が出来ていないという事である。世界の金利水準は殆どゼロに近いままである。市場からの資産購入は、政治的にこれ以上拡大する事が出来ない。特にヨーロッパではそうである。その一方で、世界の借入残高は2013年よりも高い水準にある。家計は金利上昇に対して脆弱なままである。また政府が出来る公共投資の余地も限られている。更に世界の政治の仕組みは厳しさを増している。G7における根深い憎しみが露呈したように、危機における国際協調に対する思考が明らかに低下している。
それにも関わらず、Fedの政策金利ゼロと現在の2%以下の政策金利の間にあるクッション(衝撃を和らげてくれるもの)は実に薄い。Fedが、市場がしっかりしている間に政策金利を引き上げることに熱心なのは理解できる。しかし、同時に、政策金利の引き上げのペースについては特に注意を払うべきである。世界のfeedbackリスクは今の処、収まっているかもしれない。 しかし、だからと言って、アメリカの金融政策は、それが当たり前だと思うべきではない。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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