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2018/06/12 05:53  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

ポーカーと投資のアプローチは同じ?!


おはようございます。

先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

ポーカーの世界選手権(WSOP)が今年もラスベガスで始まった。その中でもメイン イベントは「無制限テキサス hold’em トーナメント」である。これは、2週間にわたり、相手がノック アウトするまで罰し続けるゲームで、数千人の観衆が、皆が欲しがるWSOPのブレスレットを目指してたった二人の攻防を見つめる。

去年の決勝では、両者が全てのチップをかけて残った5枚のカードを分けあう攻防となった。その時の一人であるScott Blumsyeinはハートの2を持ち、エースの8をもったDaniel Ottに対して非常に不利であった。Blumsyein氏が1枚カードを取ったが、それでも手元のカードは改善せず、彼が勝つ確率は7%しかなかった。つまり、残り44枚の中から3枚の2を取った時のみ、彼が勝つのである。

このようにポーカーでは勝つか負けるかの確率は、お互いに両者のプレーヤーに知れてしまう。何故ならば、彼らは全てのチップをかけているからである。ポーカーでは、通常、このようなことはしない。勝利は、単にその人の手元のカードだけでなく、相手の手元のカードにも依る。更には、あなたの賭け方で相手を騙す、あるいは逆に相手があなたを騙すことにも依存する。欲と恐怖があなたを失敗に導く。簡単に言ってしまえば、そこには不確実性があるのである。それこそが投資の本質でもある。本当に才能のある人は、複雑な状況を読み取り、それを有利な方向に導く能力がある。しかし、ポーカーにおいても投資においても、それを成功に導く才能を持った人は少ない。

こうした事は、正しいと思っていることが間違いであるとわかることから始まる。Nassim Nicholas Talebが著書の中で「金融市場におけるリスクは、あたかもカードの確率のように計算できると考えられている」と述べている。もし、あなたが2つのサイコロを投げた時、サイコロがどのように床に落ちるかはわからない。しかし、その代わりにわかることがある。 それは2つのサイコロの合計で36通りの可能性があるという事である。ある数字の合計は、他の数字よりも多いことがある。また、例えば、合計で7なるサイコロには6通りあり、合計で2もしくは12のように1通りしかないものもある。

投資も同様に考えてみると、リスクは事前に計算できる。しかしそれで全てではない。投資のリターンは不確実や不規則な値動きがある為、より高いリターンとなる。極端な例では、市場が急落するケースは、サイコロのモデルで期待した以上の確率で頻繁に起こる。サイコロでは繰り返すうちに以前の同じパターン(確率)に合致していく。しかし、投資の世界では、如何なることも起こり得る。

ポーカーでも同様の事が起こる。お互いのプレーヤーは、相手がどんなカードを持っているか、あるいはどんな賭け方をしてくるか、更には、あなたがどんな賭け方をしてくるか、といった不確実性の中にいる。つまり、感情がゲームの中に入ってくるのである。プレーヤーは勝利を祈るしかない。何故ならば、強気な態度を取れば、負ける気持ちに苛まされる。プレーヤーは、勝利の壺から「貪欲」を引っ張り出し、結局、負けてしまう。 最高のプレーヤーは、最高の投資家のように、不確実性を楽しんでいるかのように見える。彼らは、賭けのパターン(儲かるパターン)を探し、あるいは相手の長所や弱点を騙す方法「tells:表現や手の動かし方」を探す。彼らは、相手に対して不確実性を故意に与える。それによって相手が虚勢を張っても騙しきれない困難な状況を探す。

クオンツ アナリストAaron Brown氏は、著書「Wall Streetのポーカー フェイス」の中で、「健全な投資の原則は、基本に忠実な投資戦略にあり、かつ、それに固執する事である」と述べている。ポーカーにおいては、あなたは、それぞれのテーブル ポジションでプレーする時点で事前に有利なものを選ぶべき(原理原則に基づく有利な戦略を選ぶべき)であり、カードが配られた時、どうすれば、手持ちのカードが改善できるかに専念することである。

「方針」も投資には必要である。単純な戦略としては、あなたの資産を違った資産に振り分ける。例えば、半分は株のインデックスに投資をし、残り半分は債券にする。そして常にリバランスをし、株と債券の比率を一定に維持する。儲けが出れば、それを売り、安くなった他の資産を買う。資産運用会社Black RockのAndrew Ang氏は彼の著書「Asset Management」の中で「単純な資産配分の固定化は、うまく機能する」と述べている。

とはいえ、基本的なアプローチに基づく単純な戦略を実行するには困難が伴う。あなたの相手が、あなたの一番いい方法(単純な原理原則な手段)を打ち負かす為に通常ではありえないカードを繰り返し出すことで、あなたを原理原則に留まることを困難にする。これが、うまくいかなかった時のストレスによってあなたの戦略を放棄させる「攻撃: on tilt」と言われるものである。投資家も物事がうまくいかなくなった時、同様の過ちに陥りがちである。Brown氏は「馬鹿げていない戦略(原理原則に基づく戦略)を持ち、それに固執することが、結果として他の多くの人々よりもいいパフォーマンスを上げることになる」と述べている。

不運(ゲームに負ける、あるいは相場での損失)はゲームの一部である(当然あり得ることである)。あなたのすべき最大のことは、避けて通ることの出来ない不確実性の中で、正しい判断をするよう心がけることである。昨年のWSOPメイン イベントの決勝で、Ott氏がBluemstein氏の賭けにCallをかけた時、彼は正しい判断をした。確率的には彼が有利であった。そして、デイーらーが最後のカードを返すまで試合が続き、そして最後のカードは1枚の2であった(最終的に3枚の2にはならなかった)。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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