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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2018/05/23 05:10  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

横這いの世界経済?!


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

2017年の世界経済は大きく拡大し、その成長率は3.8%と2011年以来の高い水準となった。先進国を中心に企業家のアニマル スピリッツが大きく膨らんでビジネスは急速に回復した。世界の貿易は+4.9%とこれまた2011年以来の高い水準となっている。この間、新興国通貨はドルに対して上昇し、低いインフレ率の下、債務も十分に賄えた。金融市場は今年2月に急落したが、それは歴史的高値を更新した後に起こったに過ぎない。IMFは4月に「世界経済の上昇が、広範囲に、そして強くなってきた」と述べている。

しかし、それ以降、健全な成長は影を潜め始める。まず、ヨーロッパで行われた経済サーベイでは
2018年第1四半期のGDPが年率1.6%と悪化している。また、残りの世界経済も同様に冷え込み始めている。2018年第1四半期のアメリカの成長率は年率+2.3%と6か月前の3%から失速した。同時に、日本は2016年以来初めて-0.6%と前期比マイナス成長となった。投資家は、世界経済の拡大期は終わったのではないかと心配し始めている。 景気の失速を嫌がる中国の政治家ですら、国内需要が弱くなっているとコメントし、4月中旬には、中国は国内銀行の準備金を引き下げる若干の金融緩和を行った。

その一方で、アメリカでは、将来的なインフレ上昇期待と政策金利引き上げ期待から債券市場金利は緩やかに上昇し、これが引き金となってエマージング市場の通貨は4月以降5.4%下落している。中でも、アルゼンチン ペソの急落によって、アルゼンチン政府はIMFに支援を求め、短期金利を40%まで引き上げた。トルコ リラも売られている。その理由の一つに、トルコのErdogan大統領が「短期金利を引き下げればインフレを抑制できる」と発言したこともある(常識的には支離滅裂な話)。5月15日には、彼は、次の選挙の後、金融政策をもっとコントロールする(短期金利を引き下げる)と約束した。

間違ってはいけない。 明らかに世経済は失速している。しかし、その足取りは、まだしっかりしている。UBSによれば、中国、アメリカ、ヨーロッパを含めたサーベイでは、現在の水準は過去10年の成長率のレンジの83%以上の水準(高い成長率)で推移している。 しかし弱い兆しが2018年初めのヨーロッパを覆い始めた。アメリカ経済は、年初来、弱くなってはリバウンドしているように見える。これは「季節の終わり」現象とも言われる。現在の強い小売売上と高い消費者信頼感指数は、もし景気後退が来ているならば、アメリカ人は何かを忘れていることを示唆している(景気の変化に気づいていない)。

しかし、ある意味では、これは問題の一部に過ぎない。 トランプ大統領が景気刺激策を積み上げたが、FRB基準のアメリカのコア インフレは1.9%であり、彼らの目標水準を僅かに下回った水準である。しかし、アメリカ経済は、最近トランプ大統領が署名した減税と財政支出のインパクトを完全に消化しきっていない。

その一方で、アメリカ国外のいずれの国においてもインフレは低下している。ユーロは、僅かに1.2%で2016年末の水準を越えていない。日銀は、最近になって2019年末までの2%インフレ目標を放棄した(とはいえ、これまで6回も先送りしてきたのだが)。 エマージング マーケットのインフレを押さえ込まれている。 ユーロ離脱をしたイギリスは、ユーロ離脱直後はポンドが急落して2017年のインフレ率は2%であったが、現在は、事前の予想以上の速さでインフレ率は低下している。

理論的には、世界経済にこうした状況が広がれば、もっと景気が良くなっていただろう。しかし、残念なことに、あるメカニズムが状況を悪化させている。それは強い米ドルである。理屈上は、ドル上昇がアメリカ人の購買力を高め、他の国の景気を刺激する。しかし、現実には、ドル上昇がエマージング マーケットのドル建て債務に混乱を与える。というのもドル高になれば、ドルに見合う自国通貨負担がより多くなるため、強いドルは、二国間の貿易を減少させてしまう面を持ち合わせている。 過去のFedの5回の金融引きサイクルの内、4回はエマージング市場危機の引き金となっている。

とはいえ、今回は、かなり安心できる理由がある。エマージング市場のトップ10の経済大国の中で、アルゼンチンとトルコだけが、2017年のGDP対比で2%以上の貿易赤字となっているだけである。多くのエマージング国のドル建て債務は、自国の経済規模に比べてかなり妥当な水準に収まっている。

もう一つ弱気で話題になるのが、原油価格であり、現在は1バレルあたり80ドル近くまで上昇している。人々は、原油価格がインフレを押し上げると考えている。しかし、Fedは、通常、エネルギー価格の一時的な上昇によるインフレを無視する。また、原油価格の上昇による世界経済のインパクトは別の意味で悩ましいものがある。というのも、原油価格の上昇は、アメリカの(シェール オイル)の投資を押し上げるからである。いずれにせよ、(原油価格の上昇は)需要面では限界があり、健全な経済成長とは言い難い。

それよりも世界経済にとって最大のリスクは、貿易戦争の可能性が残っていることかもしれない。トランプ氏は、中国や他の国とのアメリカの貿易赤字を減らす為に交渉している。しかし、これが米ドル高の状況下で、相手国がアメリカ製品の輸入を増やす事によって貿易赤字を減らすことは困難である。更に危険なことは、現在のアメリカの景気刺激策の下で、もし世界経済が失速すると、トランプ氏の保護貿易主義が更に激しさを増す問題がある。実は、このことこそが景気の後退以上に悩ましいのかもしれない。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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