2018/04/19 05:20 | 昨日の出来事から | コメント(0)
米国債の金利は上昇しない?!
今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
債券市場は、長期的な経済成長を予測するものとして使われてきた。2016年夏、米国10年国債の利回りは1.5%を下回り、その後の低経済成長と低インフレを予想させるものであった。 しかし、状況は変わった。 今年の初めには10年国債の利回りは2.9%を上回った。その後の株価の乱高下にも関わらず、10年国債は2.8%近辺で取引され、2018年初の水準を大きく上回ったままである。 金利上昇は、ある意味では、世界経済のより力強い成長を反映している。こうなって来ると悲観論者が「債券金利は、望みもしない水準にまで上昇するかもしれない」というのもやむを得ないかもしれない。
彼らは、3つの懸念を指摘している。 一つ目は、金融政策である。FRBは2015年の12月以来、短期金利を1.5%引き上げた。この3月の理事会では、最終的には予想よりも早いペースの金利上昇を予想している。昨年10月以降、Fedは、金融危機以降、国債を中心に4.5兆ドルまで買いあげてきた債務のバランス シートの削減に着手した。これまで、QE(量的緩和)は長期金利を押し下げて来た。しかし、これを解消する事は長期金利を押し上げることになる。
アメリカの金融当局者だけが、金利を引き締めているのではない。 イギリスは昨年11月に金利を引き上げた。また、多くの投資家は、ECBがQEプログラムを年内に終了すると考えている。エコノミストの多くは「term premium;時間軸のプレミアム」が世界的に合意形成されてきたと考えていた。 しかし、世界的な金利の引き締めの流れがアメリカの金利を押し上げている。
2つ目の懸念は、財政政策である。トランプ大統領は、今後10年で1兆ドルの減税を決定し、これがアメリア財政に大きな赤字を生み、その財源を国債発行に頼らざるを得ない。3月における公的支出は、少なくとも143bn(米GDP対比0.7%)上昇した。更に年金や医療支出が増加している。4月9日に予算監視委員会は、今後、10年で財政赤字は毎年4%以上の勢いで増加すると見込んでいる。国債売買の仲介をするプライマリー ディーラーたちは、2018年9月において、新規の赤字は1兆ドル増加すると見込んでいる。
3つ目は、海外からの脅威である。中国とアメリカは両国間の輸出を巡って関税引き上げの応酬をしている。もし、実際の貿易戦争が起これば、中国はUSD1.2兆ドルに上る米国債の残高を減らすかもしれない。
そうなると米国債保有者を大いに悩ませることになる。しかしこれら3つの懸念は、やや誇張されているところがある。まず、中国についていえば、もし中国がドル資産を売却すれば、それはドル安を引き起こし、アメリカの輸出を押し上げることになる。そうなると貿易戦争が別の方向に動き出す(相手国を助けることになる)。かつて、中国はこれと別の行動をした。 つまり輸出を押し上げる為に人民元安を誘導した。その一方で、大幅な人民元安は世界における中国の権威を毀損し、中国からの資本流出を引き越しかねない。中国政府は、過去2年間、こうした動きを阻止する事に悪戦苦闘した。
Fedについては、これまでバランス シートの圧縮計画を市場に知らしめて来たので、QE圧縮の効果は既に市場で織り込み済みとなっている。また、エコノミストの間で緩いながらも形成されているコンセンサスでは、10年債をFedが購入しても、その利回り低下の効果は約1%程度であり、また、QEを削減しても、必ずしも大きなインパクトにならない。
更に、財政規律の低下について、新たに約1兆ドルの赤字を増加させても既存のアメリカ国債の借り換え規模に比べてかなり小さい(2月時点で財務省が発行している国債残高は9兆ドル以上)。 また、新規の国債発行金利は安全資産としてのニーズが高いため、(発行金利)は)低い水準で留まる。背景には、寿命が延び、引退後の貯蓄をより確保する世界的な経済構造の変化がある。
アメリカは、こうした需給バランスを取る大きな困難に直面している。もし、こうしたバランスが崩れば、アメリカ金利は急上昇したに違いない。国は、財政赤字が拡大する過程においては、実際の債務の金利以上の金利を発行する国債に上乗せしなければならない(そうしないと潤滑に赤字国債を消化できない)。しかし、現在のアメリカは、問題になるような(高い金利)水準で国債を発行するような状態にはない。金利は、もう少し上昇するかもしれない。しかし、それはFedに取って次の景気後退時の政策金利引き下げ余地をより多く得ることになり、好都合となる。かつて、金利は決して上がらないと考えていた悲観論者は間違っていた(2015年12月以降金利が上昇した)。 しかし、今度は現在の債券市場に関する悲観論者(将来的に金利上昇すると悲観している人)は、恐らく、また間違えるであろう。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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