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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2018/03/27 05:32  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

サイクル調整後PER(CAPE)批判は正しいか?!


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

株の適正価値を測る手段は、今、物議を醸しだしている景気循環勘案後の一株当たりの収益比率(cyclical adjusted price-earing: CAPE)以外にほとんどない。 アメリカの株は、この手法によれば、過去20年に亘り割高であった。故に、これまでの強気マーケットでは、この手法は役に立たないとされてきた(常に割高であり続けたため)。 確かに、CAPEは投資家の売買のタイミングの手助けにならない。

しかし、ファンド マネージメント グループResearch Affiliatesの最近のレポートは、CAPEに対する批判は、やり過ぎであると解説している。この手法に対する最も高い数字の出るケースは、長期間にわたる低い収益率と関連している。 12か国の株式市場を調査したところ、CAPEが20~21ポイントから5%上昇する時は、将来的な収益率が今後10年に亘り、平均的に4%減少することで起こる。

CAPEのいい処は、収益サイクルの浮き沈みを平準化してくれることである。 景気後退期には、収益は株価の下落以上に急激に落ちる。 もし、一株当たりのレシオあるいは前年の収益だけを見ているならば、マーケットは非常に割高に見えてしまう。一方で、収益の過去10年間の移動平均では、CAPEよりもブレが少なすぎる(感応度が低すぎる)。 CAPEの過去のピークは、たまたまマーケットの強気市場のピークと一致しただけなのかもしれない(典型的な例としては、1929年の高値、2000年の高値)。そして、今の株価水準は長期的な平均的な水準を大きく上回っている(非常に割高である)。

CAPE批判者は、CAPEの数字が高くなる理由は簡単に説明できるという。その一つに、最近の企業収益が恒常的に高くシフトした為と説明している。背景には会計基準が変わり、GoogleやFacebookのような現代の企業は市場に対してより強い影響力を持っているからである。 もう一つには、収益の水準に関わらず、株価が高く推移する背景があるとしている。 それは、人口構造が変わり、所謂ベビー ブーマーたちが老後に備えて株式を蓄えてきた。現在のような低金利は将来の期待収益の低下を意味しているが、ベビー ブーマーたちが株を蓄えてきたことが現在の株価を割高にしている。 このことが実体経済や金融市場の変動リスクを軽減している(彼らが相場を下支えしている為)。

しかし、今回のレポートは、こうした批判に対して反論を試みている。著者は、現在の収益水準は高いことを認めている。 しかし、だからと言って、将来の収益の伸びが必ずしも高いとは限らず、将来的には平均的な水準まで戻ってくると考えている。 歴史的には、10年に亘り収益が急上昇すると、その後の10年は企業収益が低下する傾向がある。更には、現在の高い収益水準は、将来的な賃金低下に直結している(将来的に企業業績が下がる為)。こうした事が人気取り政治家の台頭に結び付き、企業により高い税金をかけ、保護貿易に走らせる。

次に人口構成の問題もまた、欠陥がある。ベビー ブーマーは、既にリタイアしている。つまり、彼らは株を積み上げるのではなく、寧ろ、株を売って残高を減らしている。 更には、高齢化人口は将来的に労働人口の伸びが緩やかになることを意味している。つまり他の条件が全く同じであれば、このこと(高齢化社会)は、経済成長にとっても企業収益にとっても良いことではない。

低金利のインパクトについてどうかといえば、これは、究極的に「金利が低いのは何故か」という問いに辿りつく。もし中央銀行が低い経済成長を想定して金利を低くしているのであれば、それは株価に取って良いことではない。マクロ経済の低金利政策に関する議論は、将来に対する人質になりかねない。例えば2008年の世界的な金融危機以前の2000年代前半では「great moderation:偉大なる金融緩和」が取り沙汰された(しかし、こうした議論が出た後に大きな金融危機が来た)。

最後に、他の国々も、ウオール ストリートのCAPEだけが割高に取引されている事以外は、同様に低金利であり、ボラティリティは低下しており、高齢化社会である。 アメリカのCAPEが32.8ポイントであるのに対して、カナダのCAPEは20ポイントであり、ドイツは19ポイント、イギリスは14ポイントであり、全ては過去の平均的な水準で取引されている。 アメリカだけが2倍も高い(アメリカだけが突出して割高である)。確かに、アメリカはより強力な企業が多いこともあるいが、しかし、その要因だけで説明するにはギャップが大きすぎる。 別の株価水準を評価する方法として、企業売上や企業資産といった手法で比べても、ウオール ストリート(アメリカ株)は歴史的に割高である。逆に他の国々、特にエマージングマーケットは安く見える。

以上から、CAPEに対する懐疑的な見方は確かなものとは言えない。彼ら(CAPE批判者)は、アメリカのCAPEが平均的な水準である16.8ポイントを大きく上回り、2011年以来、常に20ポイントを越えて推移してきた故にCAPEは使えないと指摘する。 しかしアメリカの株市場は、中央銀行の巨額な金融刺激策によって下支えされていることは確かであり、将来にわたり好調であり続けるとは限らない。

彼ら(CAPE批判者)は、こうした将来に対する楽観的な考えが何を示唆しているかを考えるべきである。アメリカの年金ファンドは、彼らのポート フォリオから毎年7~8%のリターンを期待している。 それは、低金利の下、好調な経済成長とGDPの成長率以上に株価が上昇する事によってのみ、こうしたポート フォリオ収益が実現可能である(これを永遠に実現し続ける事は不可能)。もし、あなたが、これら全てが正しいと信じるのであれば、このコラムの著者は、あなたに是非とも買ってもらいたい仮想通貨(暗号通貨)を用意しよう(最後にえらい目に合うだろう)。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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