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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2017/12/22 04:59  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

2018年のアメリカ経済は過熱するか?!


おはようございます。

今週の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

政治家は、通常、いい経済指標が出ても驚かないふりをする。しかし、最近のアメリカの経済指標は非常にいいので、トランプ政権ですら、第3四半期のGDPが+3.1%成長の発表後、ホワイトハウスの予算担当のMick Mulvaney氏は、「我々が期待している以上に経済が拡大している」と、その数字の良さに驚きを隠さない(実は、トランプ大統領は、就任当初、4%の経済成長を掲げていたが、現在は3%の経済成長に修正した)。

当初、Mulvaney氏は「ハリケーンの影響で一時的に成長が鈍化する」と懸念を表明していた。しかし、第3四半期の経済成長が+3.1%まで上昇した事で、今後の経済成長に自信を示している。トランプ政権が「4半期ごとの数字はブレる傾向がある」と述べる作戦は賢明であった。 というのも第3四半期のGDPが3%を超えると予想したエコノミストはほとんどいなかったし、経済がたくましく健全であることを否定出来る人もほとんどいなかったからである。

ある意味で、今回の経済成長は、世界経済の拡大によるところもある。しかし、それはまた過去の長期的な流れ(緩やかな経済成長)が積み上がった結果でもある。過去2年間は、アメリカ国民の気を引くことに政治が費やされてきたが、それも過去のものとなりつつある。アメリカの中間層の所得は、インフレ調整後で2015年には+5.2%、2016年には+3.2%と、もはや停滞していない。この2年間に限って言えば、貧しい家庭ほど所得の高い家計よりも所得の伸びの割合は大きかった。 また、設備投資も、第3四半期は前期比+1%以上の増加と、こちらも停滞していない。 仕事も増加し、今や失業率は4.1%である。もはや、金融のウオール ストリートから製造業などの実態経済に至るまで、アメリカの今後の景気に対して自信がにじみ出している。更に、減税が経済を刺激しそうである。もうアナリストは「いつ経済が上向くか?」と言った質問はしない。代わりに「経済がオーバー ヒート(過熱)しているかもしれないと懸念をしている。

FRBはこうしたリスクに警戒している。 12月13日に今年に入って3回目の政策金利を引き上げ、今回の経済成長期では5度目の引き上げ、目標金利は1.25~1.5%になった。また2018年にかけては3回の政策金利の引き上げを見込んでいる。しかし、市場の政策金利担当者は、あと1回の引き上げでも現在の低い失業率を維持出来ないと考えている。また、2018年に失業率は更に低下するとだれも予想していない。

Fedがいら立つのも無理はない。信用できる経済予測機関の考えはほぼ一致している。 つまり、トランプ大統領が何といこうとも、アメリカの人口成長率(自然成長率)は3%と言うよりも2%に近い(トランプ大統領のいう3%成長は無理)。しかし、アメリカ経済は、過去3か月で毎月平均17万に雇用を創造している。公的予測機関によれば、2026年までの10年間では、アメリカの20~60歳台の労働人口は、毎月5万人未満の増加に留まる。生産性が高まらないのであれば失業率を永遠に下がることは出来ない。また、Fedが金融緩和を続ければ、最終的にはインフレが起こり、経済が過熱しかねない。

家計も活気が出てきている。10月のミシガン大学の消費者センチメント インデックスは2004年以来の高い水準となった。最近の消費の活発化で家計貯蓄が急速に減少し、2年前にはGDP対比6%あった家計貯蓄が3%まで低下している。2016年当初、一部のアナリストは「家計は安いガソリン代にもかかわらず貯蓄している」と嘆いたが、現在は反対で、「原油価格が上昇しているにも関わらず、貯蓄を減らしている」と懸念している。

貯蓄が減少する事は悩ましい。 しかし、消費が、労働市場の改善と家計のバランスシートの改善によって浮揚するのは好ましいことである。更に、低金利のおかげで、税引き後のdebt-service コストが過去最低となっている。アメリカ住宅ローンの大半は固定金利なので、住宅―ンを抱える持ち家保有者は、金利の上昇に対して備えが出来ている。そこへ、住宅価格が上昇している。2016年の第3四半期には、住宅価格は2007年の高値を更新した。現在は、それよるも更に6.3%も上昇している。

住宅価格の上昇と株価上昇によって、天から富(お金)が降ってきている。家計とNPOが保有するアセットは、税引き後で所得の7倍と歴史的に最も高くなっている(資金に余裕がある)。 最近のFedのリサーチによれば、中間層が最も所得増加の割合が高い。ミドル階層(所得階層の40位~60位)の家計所得は2013年から2016年の間に34%も増加した。 住宅価格は、金融危機以降の貸し出し規制当局の厳しい監視にもかかわらず回復した。しかし、所得の低い人に対する与信(貸し出し)は厳しいままである。

政治が、経営者の自信を下支えしている。特に、トランプ大統領就任後、中小企業経営者の将来に対する楽観的な見通しが広まっている。12月5日に上院で共和党が出した減税法案が通過し、企業経営者の将来に対する信頼感指数は過去6年で最も高い水準になったと、議会のロビー グループBusiness Roundtableは述べている。法人税のカット(それに加えて恐らく規制緩和)に関する期待が、既に起こっている株価上昇を更に押し上げている。 2009年の安値からトランプ政権誕生までの平均的な株価上昇は16%であったが、彼の勝利以降の上昇は年率22%となっている。

株価上昇は投資家を喜ばせるが、Fedにとっては、悩ましい問題となる。政策金利予測担当者の中には、金融緩和政策が資産バブルを引き起こすかもしれないと懸念を示す。更なる株価上昇によって、金融市場に更なる弛緩を引きこするからである。米ドルは、今年に入ってから、物価勘案後ベースで年率7%程度安くなっている。長期金利(10年国債の利回り)は、選挙後、大きく上昇した後、若干低下している。NY Fed総裁 William Dudley氏は「緩んだ金融状態を政策金利の引き締めによって強化することが出来る。何故ならば、金融政策が金融市場に影響を与えることで、金融政策が本来の機能を果たすことが出来るかである」と述べている。 しかし、ゴールドマン サックスによれば、2015年にFedが金融引き締めを行った後も、金融状態は実質的に緩和されたままである(政策金利引き締めによる影響が出ていない)。

ところで、我々は悩ましい問題を見過ごしている。それは「オーバー ヒーティング(過熱)つまりインフレに関する分析である。今年の春以降、Fedによる目先のインフレ率(除く食料とエネルギー価格)は予想を下回ってきた。唯一、10月のインフレ率が+1.4%と年初に比べて高くなった。賃金も、また労働市場の力強さを反映していない。ブルー カラー労働者とサービス関連労働者の賃金は、ホワイトカラーの労働者の賃金やサラリーに比べて第3四半期は年率3.8%で上昇した。しかし、専門職の賃金やサラリーの伸びは低く、全体では2.5%と2年前に比べて上昇していない。

その理由の一つは、低い失業率がインフレに転嫁するまでに時間がかかることが挙げられる。当面は、一つの出来事が他のデータに反映されないデータの歪みが発生する。 Yellen(イエレン)氏は、年初にこのことを携帯電話料金に例えて、契約数が増えれば携帯電話代が下がると説明した。 あるいは「アマゾン効果」と言って、小売り間の激しい価格競争によってインフレ上昇につながらないと説明するアナリストもいた。インフレと失業率の関係を示すフィリップ カーブが滑らかではなくギザギザになっている(歪な総関係)。インフレは、失業率があまりも下がると突然上昇するかもしれない。

恐らく、労働市場はFedが考えているほど過熱していないのかもそれない。いわゆる自然失業率(インフレの上昇や下落に関係ない失業率)の予想は、我々が想像する以上に信頼のおけない数字なのもしれない。市場政策金利アナリストは、2013年末の5%から今日の4.6%まで自然失業率を可能修正している。執拗なまでの今日の低いインフレ率は、このトリックの繰り返しを余儀なくさせている。コンサルティング 会社Capital EconomicsのMichael Pearce氏は「Fedのサーベイからは、労働市場は、かつてほど(2000年代半ば程)締まっていない。従って失業率が3.8%に低下しても、インフレ率は2%に届かないであろう。 ちなみに2000年半ばのブームは、インフレが上昇したから終わったのではなく、ドット コムバブルが弾け為に終わった。」と述べている。

更には、失業率の数字だけに関心を持ってみるべきではない。失業率は、仕事を探していない人を考慮していない。金融危機、そしてそれ以降、アメリカの労働力は置き去りにされてきた。2015年後半以降、就業可能労働者、特に女性労働者が増加してきた。 2016年には、この傾向がより鮮明になることで、経済が雇用を増加させたにもかかわらず、失業率を下げない要因となった。2017年に入ってようやく失業率が低下し、労働参加率も上昇している。

こうした動きに対して、労働参加率がタイトになることと景気循環はリンクしているかどうか疑わしいとの見方がある。彼らによれば、男性労働者における労働参加率の低下は、長期的には景気循環と一定の相関関係があるとする一方で、それが今後の予測に使えるかは疑問であると指摘する。最近のアメリカの経済成長は、労働統計局によってなされた見通しを裏切ることとなった(労働市場だけで予測するのは困難)。

また、労働市場(労働者不足)が経済成長の阻害要因になるかどうかの問題もある。弊社に計算に寄れば、毎年、男女の人口が一定の割合で労働市場に参加するとすれば、毎月平均で13.5万人の労働者を供給できる。これによれば直近の失業率は2018年には3.8%程度まで下がりそうである。 しかし、労働共計局による予測では、毎月8.6万人の労働者しか労働市場に参入しないことになり、2018年の失業率は3.4%まで低下する。

Fedの金利引き上げは、こうした仮説が試される中で、緩やかな労働の伸びを背景に緩やかなものになるだろう。ハト派の理事の中には、労働市場との境界線をはっきりさせるべきと考える理事もいるかもしれない。この10年間、Fedはあまりにも失業率にこだわり過ぎたことに対する反論である。また、賃金が上昇すれば、企業は、労働者を雇用する代わりに人件費削減テクノロジーにより多く投資するかもしれない。 こうした事は生産性の向上につながる。(今年に入って設備投資が増え、生産性が上昇しているのは、こうしたプロセスが始まっている可能性がある)。 そして、もし、Fedが政策金利をあまりにも早く引き上げると、景気後退が起こり、政策金利を引き下げることになるが、ゼロ以下には下げることが出来ない(下げ余地が少ない)。

政策金利予想担当者がインフレについてうんざりしているのは、Fedが政策金利を引き上げているにもかかわらず、長期金利が低下していることである。長期金利が低下しているのは、投資家は、「Fedが政策金利を引き上げたことでインフレリスクが減少している」と考えているからである。Yellen氏も「今年は、インフレは落ち着いている」と述べており、このことも投資家に債券投資を勧めている。

やがて新しいFedの議長が就任し、これらの問題に取り組むことになるであろう。 Jerome Powell氏は2月にYellen氏の後任となる。Powell氏は2012年からFedの理事として仕え、Yellen氏の緩やかな政策金利の引き上げを支持している。11月28日の上院の公聴会では「就労可能男性の労働参加率からみると、引き続き労働市場の緩みが残っている」との認識から、より緩やかな政策金利の引き上げを示唆している。

しかし、Fed委員会は突然、変わるかもしれない。とういうのもPowell氏が、タカ派の理事に取り囲まれるかもしれないからである。 例えば、トランプ氏が空席の理事にMarvin Goodfriend氏を任命した。彼はより高い政策金利を要求し、2010年早々にインフレについて警告を発した。また、2012年には、Fedが7%今まで失業率を下げるまで金融緩和する事に対して「疑問」を投げかけた。 Yellen氏が退任する時、トランプ氏は、別の理事を指名するかもしれない。更には、大統領が指名しなくても、議決権を地方の理事に回すかもそれない。3名のハト派、シカゴのClarles Evans氏、ミネアポリスのNeel Kashkari氏、そしてダラスのRobert Kaplan氏は、1月に投票権を失い、代わりにタカ派に取って替わられるかもしれない。4人目のDudley氏は2018年に退任することになっている。

Fedは、トランプ氏の減税に対して如何に対応するかを決めなければならない。たとえ、経済はオーバー ヒートの淵になくとも、これに関する時間は限られている。景気を刺激する必要がある時、財政赤字を増やさずに景気を刺激する為に、Fedはいつも政策金利を引き下げてきた。減税は、投資を喚起し、目先的には成長率を高めることになる。そのことが、これまでFedに政策金利の引き上げを促してきた。中央銀行のモデルでは、GDPの1%の減税で、金利は最終的に0.4%上昇する。12月2日に上院を通過下減税法案では、2018年のGDPを0.2%押し上げ、2019年には1.1%景気を押し上げる(労働や投資に関するインセンティブを除くベース)。

(これまで)政治家は、景気に対してあまりにも警戒的になり過ぎていた。そのことが、金融危機以降の景気回復にあまりにも時間がかかり過ぎた理由であり、それが、現在のインフレがあまりにも低位で推移している理由の一部でもある。一般的には、政治家が同じ間違いをするならば、景気にあまりにも警戒的になり過ぎて間違うよりも、景気に対して過熱し過ぎて間違う方がましである。しかし、今の処、アメリカの政治家の議論は均衡を保っている。 しかし、経済がその許容内の限界に近付きつつあり、間違い(金融政策の誤り)に対する余地はかなり減ってきている(過ちを犯す可能性が高まっている)。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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