2017/11/07 05:35 | 昨日の出来事から | コメント(0)
インフレは何処へ?!
今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
2~3年前、ユーロに関するニュースは決まって悪いニュースばかりであった。 ところが最近はあくびをしたくなるような穏やかなデータばかりである。先週、発表された第3四半期のユーロのGDPは+0.6%(年率+2.4%)であった。 EC(The European Comission’s ) economic sentiment Indexは約17年振りの高い水準であった(好調であった)。にもかかわらず、ECBのドラギ総裁は9月26日の理事会で現行政策金利の維持を決定した。また、現在の国債の買い取り(いわゆる量的緩和政策)の延長も決めた。
とはいえ、ECBは国債買取り額を来年1月から30bnユーロ(USD35bん)に減額する。しかしドラギ総裁はQE(量的緩和)の終了の時期については言及しなかった。彼は、足元の経済が強いにもかかわらず、インフレがECBの目標とする2%をしっかり越えてくるまでは、引き続き大量の金融緩和の薬(政策)が引き続き必要であると述べた。ECBのミーティング後の数日後に発表された10月のEUのコアインフレ(除くエネルギーや食料品)は、前月の1.1%から0.9%に下落している。確かに2010~2012年のEUの悲劇は特筆すべきものであったが、現在は、その頃に比べれば、低インフレの下、金融緩和のおかげで活力を取り戻し、幸福な状態である。それは、他の経済大国でも同様である。
こうした10年以上の低金利政策の後、中央銀行が金融政策の中立化に向けて政策金利の引き上げに駆られるのは当然のことである。11月2日にBOE(イングランド銀行)は金利のベースレートをそれまでの0.25%から0.5%に引き上げた。今回の政策金利の引き上げは2007年以来のことである。 また同じ日、チェコ中央銀行が今年に入って2度政策金利の引き上げを行った。先週、アメリカのFRBは今年の3月と6月に政策金利を引き上げたが、今回は政策金利の据え置きを決定した。しかし12月には更なる政策金利の引き上げが予想されている。
唯一先進国で景気が過熱しているトルコでは、高金利がインフレの原因であると信じているエルドガン大統領に依って何かと干渉されているトルコ中央銀行は、10月26日、政策金利の据え置きを決定した。しかし、経済大国であってインフレ率が目標インフレよりも上回っているにも関わらず、緩和をしている国がある(それはブラジルとロシアである)。 ブラジルは10月25日に金利を8.25%から7.5%に引き下げた。また、その2日後、ロシア中央銀行は政策金利を8.25%に引き下げた。先週、日銀は現行政策金利の据え置きを決定し、これまで通り市場からの買取り(年間80兆円)継続を決定した。 こうした多くの国の経済は、明らかに上向いているにもかかわらず、インフレが執拗なまでに低いままである。
その理由を説明する為に、現在の中央銀行は幾つかのモデルで説明している。そこには3つの要因がある。 一つは輸入価格であり、2つ目はインフレ期待であり、3つ目は国内経済の資本の緩み(過剰資本、過剰設備)である。まず初めに、輸入インフレについて、これは世界貿易の需給のバランスで決定される。それは商品価格や為替と同様である。商品価格については2016年初を底として価格は綺麗に上昇している。原油価格は30ドルを下回っていたが、現在は60ドルを上回っている。
こうした動きはインフレを押し上げる。ユーロではその要因が1.4%あり、インフレ全体の半分以上を占めている。インフレの最も高い国はと言えば、アルゼンチンのような国があり(24%)、 エジプトは32%である。こうした国は、補助金で物価が押し上げられ、更には為替で通貨価値が急落し、輸入価格が高騰している。 イギリスは、これまでのポンドの急落によって輸入価格が高騰してインフレを0.75%押し上げて、現在は3%となっている。
インフレに対する2番目の要因は、期待インフレの問題である。もし、インフレ上昇期待が浸透すれば、企業経営者は自社商品の価格を上げる事ができ、従業員は賃金が上がることを期待できる。しかしこうした期待がどのように形成されるかについては、今の処、十分に理解されていない。先進国で広く利用可能な基準として中央銀行が発表する目標インフレ率がある。 しかし、日本に関しては少しこの範疇の外にあるように思われる(中央銀行の目標インフレが機能していない)。企業経営者や従業員はインフレに対してもっと低い水準を期待しているので、日銀は掲げる2%インフレと乖離が生じている。安倍晋三首相はインフレを更に押し上げる為に企業経営者に対して3%の賃上げ期待を表明した。
以上のように輸入価格の価格移転効果によるインフレや、期待インフレに加えて、第3のインフレ要因としては、経済の中にあるSlack(緩み)の問題がある。 労働市場における緩みである失業率は広く使われている。完全雇用では、労働者不足が賃金を押し上げ、企業はその分を価格に転嫁する。ある調査によれば、日本の労働市場は1970年以来の労働者不足になっている。 アメリカの失業率は4.2%であり、16年ぶりに低い水準となっている。にもかかわらず、インフレは驚くほど低い。
言い換えれば、フィリップ曲線として良く知られている失業とインフレのトレード オフの関係は、以前よりもよりフラットになっている(失業率が下がってもインフレが上昇しない)。
国際経済のPeterson InstituteのOliver Balchard氏のレポートによれば、アメリカで1%失業率が低下しても、そのインフレ押し上げ効果は、1970年代のそれに比べて3分の1しかないことが分かった。
中央銀行は、自国経済の緩みが減少していることから金融政策の引き締めの必要性を考えている。確かに一時的にそうした現象は、イギリスやアメリカのインフレ率や、チェコのように賃金が7%以上も上昇している国で見受けられる。 しかし、たとえそうであったとしても、インフレは安定的であり、フラット化したフィリップ 曲線によれば、中央銀行が政策金利の引き下げが遅れることによるコストは、かなり低いという事である。 ECBはこのことを熟慮したのである。ECBの失業率が下がったとはいえ、いまだに8.9%と高止まりしている。 これは、ユーロでインフレが高進するまで経済が急成長するには、まだ余裕があることを示している。よって、ユーロでは、景気のいいニュースが出ても何もない退屈な日々がまだ続きそうである。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
現在有料版にはお申し込みいただけませんのでご了承ください。
当社に無断で複製または転送することは、著作権の侵害にあたります。民法の損害賠償責任に問われ、著作権法第119条により罰せられますのでご注意ください。
いただいたコメントは、チェックしたのち公開されますので、すぐには表示されません。
ご了承のうえ、ご利用ください。