2017/10/27 05:40 | 昨日の出来事から | コメント(0)
グローバリゼーションで傷んだ地域を直す正しい方法
今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
ポピュリズムは、いまだに絶好調である。そのことは最近のドイツやオーストラリアの選挙を見てもはっきりしている。反移民や反グローバリゼーションを掲げる政党が、エリートや外部から移り住んだ人々に対し、自分たちの分け前が減ったことに嫌気をさした選挙民に訴えることで選挙に勝利している。それは、アメリカでも同様で、ドナルド トランプが(反グローバリゼーション)と自分の怒りを倍返しにしてNAFTA交渉を貿易の見直しどころか台無しにしようとしていることからもわかる。
しかし、こうした対処法ではうまくいかない。NAFTAの崩壊はトランプ氏を支えたブルーカラーの人々に対してホワイトカラーの人々よりもダメージを与えるだろう。東ドイツでは、その地域の人々の20%がドイツ極右政党を支持したが、移民制限が東ドイツ経済を改善する事にはつながらない。しかし、ポピュリズム政党の自滅的な気質はこうした主張を一向にやめようとしない。一方で、主流派は将来に対して、 ポピュリズムのいう怒りの政治の背景に地政学的な現実を示しつつ、より良い政策を示さなければならない。
経済理論によれば、地域間格差は、貧しい(もしくは安い)場所に投資をし、豊かな地域よりも早く成長することで縮小する。20世紀は全くその理論通りになった。貧しい地域とアメリカやヨーロッパとの所得格差は縮小した。豊かな地域は貧しい地域によってその豊かさを取り去られる。この地政学的な富の拡散(偏った富の平準化)は当然の結果である。 サンフランシスコの豊かな地域に住む下層20%の貧しい子供が将来結婚する割合は、デトロイトの豊かなトップ20%の子供のそれの2倍である(豊かな地域の貧しい子供の方が貧しい地域の豊かな家の子供よりも有利)。ロンドンのチェルシーの子供はブラックプールの子供よりも平均寿命が約9年長い。このように間違った場所に住んでしまうと将来の様々な機会は限定されてしまい、経済的にも苦しむことになる。もし、過去50年にこうした貧しい地域に住む人々が、より高い生産性の高い地域に住むことが出来れば、アメリカは現在の2倍の速さで経済成長していたであろう。
ダイバージェンス(Divergence)は、大きな力が働いた結果である。現在の経済において、規模はますます重要な要素になってきている。膨大なデータを持っている企業は、自らの機械に最も効率よく働くように訓練する事が出来る。誰もが使っているソーシャル ネットワークは新しいユーザーを虜にする。投資家がのめり込んでいる株式市場は。手元資金を増やす最もいい方法である。しかし、こうした規模の大きさに対するリターン(収益)は限られた巨大企業、スーパースターに限られ、それ以外の殆どはその陰に隠れてしまっている。
地方の不均衡ですら拡大し、人々の移動がより困難になりつつある。アメリカでは州を越えて移動する人の割合は1990年以降、約半分に低下した。典型的なアメリカ人は、ヨーロッパ人よりも身軽であるにも関わらず、彼らの多くは親元から30キロ以内に住んでいる。これには人口問題が大きくかかわっており、共働きで子供の世話を親に頼み、年老いた両親の面倒を見ると言った具合である。しかし、この問題のより大きな犯人(問題)は、政治のまずさにある。豊かな都市の住宅価格の高騰で他からの移住を阻止している。ヨーロッパでは、住宅不足によって人々は貧しいアパートに住んでいる。アメリカでは、州ごとの職業ライセンスがあり、他州に行けない(他の州ではそのライセンスが使えない為)。 また州政府は他州へ移動した人々に優遇措置を与えない。例えば、学校の先生の年金は、他州に移動するとその年金は半分に減額されてしまう。
ひねくれた言い方をすれば、政策が貧しい人々をより一層貧しくさせ、一層苦境に追い込んでいる。失業や健康保険は、移動を望む、望まざるにかかわらず人々の最低限の生活を保障している。社会保障は個人を資本主義の厳しさから守ってくれるが、それ以外の政策は、そこに住む人の問題に対して何ら解決しようとしない。
では、どうすればいいのか? 一つの答えとして、人々の移動を支援する事である。繁栄している場所にもっとインフレを整備し、家を建て、外からの入植者を増やす事である。国家間や国境間の相互信頼を高めれば人々を最も生産性の高い場所へ移動する手助けとなるであろう。しかし、移動が活発になればなるほど、逆に弊害も大きくなる。有能な労働者が生産性の低い地域から移動すると、その貧しい地域の問題は更に悪化する。生産性の高い労働者がいなくなると、その地域の税収が落ち、社会保障や年金の掛け金が急上昇してしまうからである。
こうした結果を防ぐために、政治家たちは、こうした取り残された地域を補助金で支えしてきた。しかし、こうした地方政策はせいぜい、その場しのぎでしかなかった。南カリフォルニアは1992年にBMWを誘致し、そこに自動車工場を建設した。 これに対して、EUが基金を立ち上げ、基金が続く限りBMWがカリフォルニアに工場を作ったことで失業者した人々を支援した(その場しのぎ)。カリフォルニアは42の工業団地を保有している。しかし、だれもそのような場所で事業を起こさなかった。何故ならば、彼らは、政治家以上に、よりパフォーマンスのいいビジネスが出来る場所と、テクノロジーの連携をより早めることに専念しているからである。確かに、競争を高める政策は一部の企業や地域を成長のダイナミズムを阻害する産業の集中を阻止することが出来た。あるいは、特殊な地域(特区)に絞ったプライベート 投資ファンドを誘致する事で工場を設立する事は手助けになったかもしれない(しかし、全てはその場しのぎに過ぎない)。
もっと大胆な方法として、地方の大学に権限を広げることがあっていいかもしれない。19世紀には、アメリカでは多くの公的な工科大学が作られた。彼らは、小さな町や地方の農民や工場経営者に一番いい方法を教えなければならなかった。今、彼らは、ドイツで応用リサーチ機関があるように、新しい技術に関して同じ役割をすることが出来るかもしれない。政治家だってアマゾンから学ぶことがあるかもしれない。 アマゾンの家や企業の支店に対するリサーチ力は、小売業を勧誘する町の間を動き回る手間を省いている(引っ越しや事業の移動の手間が省ける)。政府は、アメリカの国家保険機関やヨーロッパのセーレンのような公的リサーチ センター、あるいは、政治改革や公的投資に一番いいプランを準備する町に対して報奨を与えることだってできる。
恐らく、これら全ては、政治家にこれまでとはちがった考え方(mindset)を必要とする。貧困の進行、あるいは軽減には、あるいは経済の自由化など、何をするにしても金(税金の投入)が欠かせない。しかしこれら全ては人々の暮らしにフォーカスしている。 表立った人口問題、福祉、グローバリゼーション間の複雑な問題の意思の疎通だけでは不十分であり、今、起こっている問題の背景にある怒りを認識する事こそ、その軽減につながるのである。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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