2017/10/03 05:23 | 昨日の出来事から | コメント(0)
イエレン議長は再任されるべき?!
先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
ドナルド トランプ大統領に関する懸念材料の一つに、彼がFRBに対して忠誠心を求めている事である。その懸念は、忠誠心を持たない理事は交代されることにある。中央銀行のトップレベルであれ、同様に交代される可能性がある。 9月6日にStanley Fisher氏(熟練の金融家であり、金融危機ではこれに立ち向かった人)が個人的な理由から副議長を出来るだけ早く辞任する事を発表した。 これはFRBの理事メンバーの4人目の空席を意味する。つまり、FRBの12人の金融政策決定会合のメンバーの内、4人が空席となり、来年2月にイエレン議長の任期が満了すれば、その数は更に増える可能性がある。
トランプ氏は如何なる高官の任命に関して決定が非常に遅い。しかし、(理事会メンバーの不在による)Fedの影響力の低下は特に大きな懸念となる。Fedの決定は、アメリカの健全な経済運営から世界のエマージング マーケットに至る全てに影響を与える。金融政策の停滞を引き起こさない為に、まずやるべきことは、イエレン氏をFedの議長に再任する事である。それは、彼の本能とは相いれないかもしれない。トランプ氏は、その人の能力以上に忠誠心に重きを置いているからである。オバマ前大統領が最初に任命したイエレン氏は民主党員であり、彼女は金融規制緩和をしようとした財務省の提案に反対をした人である。しかし、彼女が再任されれば、Fedの将来の方向性と独立性を明確にするかもしれない。 また、これを契機に他のポジションも容易に埋まるかもしれない。
イエレン氏の再任問題は、単に解任と空席の問題ではない。本質的に、中央銀行の議長は1期だけで終わらない方がいい。 しかし2期目を提供する事で、議長はより政治家に好ましい金融政策をする可能性がある。 ECBの中央銀行総裁はその任期を8年だけとしたのは、こうした理由から再任を制限している。アラン グリーンスパン議長は、余りにも長く議長を務めた為に、彼に対する不健全な個人崇拝を生みだすことになった(結果としてサブプライム問題が起こり、リーマンショックとその後の世界金融危機を引き起こした)。
経済の方向を決定する経済政策の手段の議論は、時として通常にはない強力な力も持たせることになる。今、Fedは量的緩和の問題から、「非常に低い失業率にも拘わらず低いインフレ率であるのは何故か?」といった問題に至るまで、多くの悩ましい問題に直面している。今の処、アメリカ経済は好調である。過去において、GDPが何期にもわたって連続して成長できたのは、たった2回だけである。金融政策は、経済のサイクルに現れるように何度も過ちを犯してきた。と言うのも正しい金利水準に対する判断は非常に難しいからである。 そして、次の景気後退期が来た時には、Fedは、景気を上向けるだけの多くの火力(政策金利下げ余地)を持ち合わせていない。 何故ならば、政策金利が2%にも届かない水準であれば、政策金利の下げ余地も限られるからである。こうした時には熟練の金融家が貴重となる。 何故ならば、財政は、(既に多くの財政赤字がある為)その出番は非常に少ないからである。
イエレン氏を再任すべき第2の理由は、共和党が後押しする候補が彼女に交代する事が、それほど素晴らしいと思わないからである。トランプ氏のシニア経済アドバイザーのGary Cohn氏は、中央銀行家の経験がない。もう一人の候補Kevin Warsh氏は2006年から2011年にかけてFedのopen-market committeeに従事し、今、議長に就任すべく懸命にロビー活動をしている。しかし、彼の在任中、当時のアメリカ経済には、まだ金融緩和が必要であった時期に、当時の金融緩和はあまりにも緩和し過ぎであると表明する等、彼の判断力には疑問がある。また、彼の共著では、彼がホワイトハウスにあこがれをもちながらトランプ氏の経済政策を称賛しているが、彼がFedの議長になった場合、どうやってFedの独立性を維持出来るか疑問である。 もう一人の共著者である スタンフォード大学のJohn Tayler氏は、ある程度の裁量が必要である政策金利の判断にあまりにも厳格すぎるきらいがある。 その他の人々は経験も知識も欠ける人々ばかりである。
彼女をひいきに見る(再選を勧める)3つ目の議論としては慣例がある。 1970年台後半からの全てのFed議長は、2期目は全て違う政党の大統領になって再任されている。民主党大統領の時に就任したポール ボルカー議長は、共和党であるドナルド レーガン大統領によって再任された。ビル クリントンは、共和党大統領に選任されたグリーンスパン氏を再任した。また、バーナンキ氏はオバマ氏によって再指名された。Fedは、政党を越えて存在すべきであり、理想的には、両方の政党から支持されるべきである。 もし、トランプ大統領が慣例に流されないならば、イエレン氏が他の候補よりも問題は少ないにもかかわらず、彼はより現実(自分の主義主張)を重視しているのかもしれない。
もし、イエレン氏がこれまで良い仕事をして来ていなかったならば、こうした議論は大きな意味を持たないかもしれない。 しかし彼女はいい仕事をしてきた。彼女は、金利をあまりにも早く引き上げることもなかったし、また金利引き上げのペースをあまりにも神経質になることはなかった(遅すぎることもなかった)。 彼女自身はタカ派乍ら、Fedの目標である2%には、いまだに遙かに届いていない。ハト派は、2015年12月に初めて政策金利を引き上げて以来、毎月18.5万人の雇用を創造してきたことを知っている。 イエレン議長率いるFedは、非常にバランスの取れた金融政策を行っている。トランプ氏は、今こそ、彼女の再任を決定すべきである。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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