2017/07/11 06:23 | 昨日の出来事から | コメント(0)
萎んでしまった期待?!
先々週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
読者の皆様もご存知のように6月14日にFRBは政策金利を0.25%引き上げた(去年12月以来3回目であり、しかも先週に発表された雇用統計を受けて9月にも更なる政策金利の引き上げが市場内に高まっています)。しかし、足元のインフレ率はFedが目標とする2%には程遠い。最近、著名な経済学者は「インフレ率2%の達成は、実は非常に高い目標である」とコメントし、イエレン議長もこうした意見に対して耳を傾けている。
一般的に、経済は、中央銀行のコントロールとは別の要因で経済成長をする。つまり、経済成長は、技術革新や、労働者の生産性向上や、社会の柔軟性によって導かれると考えられてきた。しかし、生産性はサイクル的なものであり、ブームが起これば生産性は上昇し、景気が悪くなれば生産性は落ちる。中央銀行は、こうしたサイクルを金融政策によって調節している。
また、経済には、人口や生産性によって成長の限界がある。失業率が高い時には、インフレを加速させることなく、経済を成長させることが可能となる。何故ならば、企業は失業者を容易に雇用できるからである。しかし、失業者が少ない時には、これと反対のことが起きる。そこで、企業家は、他の企業からより高い賃金を支払って、労働者を雇用しようとする。これによって賃金が上昇し、物価が上昇し、インフレも上昇する。 6月19日にFed NYのWilliam Dudley氏は「失業率が極めて低い状態になるとインフレが起こり、経済にダメージを与えるリスクとなる」と述べ、アメリカがそうならない為に政策金利を引き上げたと述べている。
しかし、企業は、そうした事態になる前に他の手段を取っている。確かに一部の企業家は労働者により多くの労働時間を働かせ、より厳しく働くように要するかもしれない。 しかしその一方で他の企業家の中には、外国人を訓練させて働かせ、あるいはロボットを使って労働させている。つまり、企業家は、賃金上昇に見合うトレーニングや労働者の生産性を上げる為の装置(ロボット)に投資をしているのである。 本当にインフレが急激に上昇する時とは、こうした他の手段が枯渇した時に起こる。 故に、インフレが低い状態で安定している限り、生産性向上のステップ(外国人のトレーニングやロボット化)は引き続き機能している可能性がある。
では、今がそうなのであろうか? いくつかの証拠から、その答えは「Yes」である。1980年代半ばまでは、生産性は、景気の拡大期には上昇し、景気後退期には下落した。しかし、それ以降は逆の事が起きている。景気後退期に生産性が上昇し、景気拡大期に生産性が下落しているのである。その背景には、社会の構造の変化がある。労働市場の柔軟性(雇用の柔軟性)が、景気の悪い時に解雇を容易にさせ、その後、スキルの低い労働者の再雇用を可能にした。 しかし、San Francisco連銀のJohn Fernand氏は、「こうした事(雇用の柔軟性)はそれほど大きな問題ではないかもしれない。それ以上に、テクノロジーの経済に与える影響の方がより大きい」と述べている。
最近、特に景気後退期に生産性が向上している。Zurich大学のNir Jaimovich氏とBritish Colombia大学のHanry Sui氏が2015年に発行した本によれば、企業が景気後退期にルーティーンの仕事(通常の単純な仕事やコール センターの仕事等)をアウト ソーシングや自動化によって景気後退に対応してきた。
こうした事が低いインフレ率の背景にある。一般的に、企業は正規労働者の賃金をカットするのは困難である。一方で、インフレが低い時には、製品価格を上げるには多くの制約があり、賃金を引き上げたくない。故に、(低スキルの労働者を)レイオフをせざるを得ず、高い賃金の労働者やスキルの高い労働者を確保する手段を取らざるを得ないのである。
もし、中央銀行が、現在、起こっている現象を理解しなければ、テクノロジーの進展が、より一層の深刻な問題となる。新しいテクノロジーがより一層の労働需要を減らし、更にはインフレ率を引き下げる。そうなると中央銀行は金融緩和をする必要が出てくるが、現状では、金融緩和の下げ余地はほとんどない(唯一の例外として、1997年にアメリカのインフレ率は2%になり、失業率は5.3%であった)。
果たして、Fedが期待するような2%インフレが再び繰り返されるかどうか、今、試されようとしている。 今の処、中央銀行が忌み嫌うインフレ率は低く安定しており、ブームが起きる(インフレが上昇する)兆しはない。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
現在有料版にはお申し込みいただけませんのでご了承ください。
当社に無断で複製または転送することは、著作権の侵害にあたります。民法の損害賠償責任に問われ、著作権法第119条により罰せられますのでご注意ください。
いただいたコメントは、チェックしたのち公開されますので、すぐには表示されません。
ご了承のうえ、ご利用ください。