2017/06/28 05:47 | 昨日の出来事から | コメント(0)
フィリップ曲線を探せ?!
先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
副題:「(アメリカ経済の)インフレと失業率のトレード オフ関係が見失われている」
「中央銀行は、インフレなしに失業率を際限なく引き下げることはできない」と言う命題が、経済学の教科書にある。 イエレン議長は、「過去の歴史に従えば、この考えは経済理論の実態から証明されている」と述べている。 こうした彼女の確信によって、6月14日にFedは政策金利の目標水準を1~1.25%引き上げた。
食料とエネルギーを除くベースで、アメリカの物価は前年比+1.5%であり、その一方でFedの目標物価は+2%である。 しかしイエレン議長は「現在のアメリカの失業率は、所謂、自然失業率を下回っており、いずれインフレは上昇する」と考えている。 しかし、彼女の考えは正しいのであろうか。 あるいは、フィリップ曲線(インフレと雇用の関係を表す曲線)はなくなってしまったのであろうか。
こうした現象は起きるのは、今回が初めてではない。 2008年の金融危機の後の失業率は10%であった。 このときの労働過剰によってインフレ率は急落したが、それでも物価は維持された(デフレにはならなかった)。 2009年10月に失業率がピークを付けたが、その時のインフレ率は1.3%で、現在のインフレより僅かに低い水準であった。 このとき、こうした状況を見たエコノミストに中には「自然失業率が10%まで上昇し、今後もこうした状態が続く」と説明した学者もいた。 2013年8月には、Northwestern 大学のRobert Gordon氏は「アメリカの自然失業率は6.5%である」と試算した(低いインフレを正当化する為に自然失業率の水準を変更して(上方修正して)失業率とインフレの関係を説明した)。
こうした説明のやり方は、現在でも使われている。 現在の失業率は4.3%であり、引き続きインフレは低い水準に留まっている。 こうした状況をみてFedは「自然失業率の水準が下がった為」と説明している。今週、彼らは、その自然失業率の水準を更に引き下げた事で彼らの政策金利引き上げを正当化した。また、彼らは、2008年以降に国債を市場から買って資金供給を大幅に増加させた結果、大きく膨らんだバランスシートを今後1年かけて縮小する計画である。
(現在、雇用と失業率の関係がフィリップ曲線でうまく悦明出来ていないにもかかわらず)経済学者は、いまだフィリップ曲線を見捨てていない。 その主な理由は以下の3つである。1めは、経済の転換期(デフレからインフレの転換期)において、インフレと雇用の関係が一時的に失われているに過ぎないという解釈である。例えば、2014年後半の原油価格の急落で物価が下落したのは明らかである(雇用とは関係なく物価が下落した)。 更には、携帯電話などのデータ通信費用が下落した。最近、データ通信会社の一つVerizonが一定価格の下で無制限のデータ通信を提供している。 こうした社会変化によって過去1年間に消費者物価が0.2%押し下げられた。 ゴールドマン サックスのエコノミストは、こうした物価の下落は、失業率にも1~2%程度のインパクト(押し下げ効果)があったと考えている。
2つ目は、失業率が相当低くなった時点で、経済がゆっくり上向くというよりも経済が急速に拡大してインフレ率も突然上昇するという解釈である。この解釈が現在のアメリカ経済をもっとも正しく映し出している。 例えば、1960年代は失業率が4%以下で、インフレ率は1.4%であったが、1年後の1965年にはインフレ率は3.2%に急上昇し、1960年代末には5%まで上昇している。 こうしたインフレ率の急上昇の責任の一部は当時のジョンソン大統領に依るところがある。 と言うのも、彼はFedに対して金融引き締めによって減税効果を相殺させないように圧力をかけたからである。 トランプ大統領も減税を約束し、来年早々にイエレン議長を交代させるかもしれない。このように歴史は繰り返されるかもしれない。
3つの(フィリップ曲線に関連する)経済教科書を投げ捨てない理由としては、失業率だけでなく期待インフレ率に注目する解釈がある。つまり、労働市場が回復する過程において、インフレ率が一時的に緩む(伸び悩む)事がある。ニューヨークFedによれば、「消費者の自己達成感(現状に対する満足感)が低いインフレ率の背景にあり、また、その事が、インフレ率が低い状態でも失業率が低い水準に留まっている理由にもなり、フィリップ曲線そのものは潔白である(間違っていない)」としている。 (皮肉なことに)フィリップ曲線は間違っていないが、その代わりにFedが約束した2%インフレ率達成に対して、市場から疑問が投げかけられている。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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