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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2017/06/20 05:54  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

金利上昇しない債券市場?!


おはようございます。

先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事はありましたのでご紹介したいと思います。

毎年、債券アナリストと投資家は、(金利上昇の)儀式ごっこをしているように思われる。彼らによれば、「今年は債券金利が上昇するに違いない(債券価格は下落するに違いない)と言うが、その後、彼らは現実(債券金利が上昇しない現実)にしかめ面をする羽目になる。

同じパターンが2017年に入っても起こっているようである。 去年の12月にBAML(Bank of America Merrill Lynch)が行ったアンケートによれば、世界の債券市場に対する悲観的な考えが58%と楽観的な考えを上回っていた。投資家は、アメリカの成長を加速させるためにドナルド政権による減税と財政出動(reflation trade)を信じ、それに伴ってFRBが政策金利を引き上げると考えた。

暫くは、そうした考えに沿って市場が動いたおかげで彼らのトレードは儲かり(金利が上昇し)、3月13日には米国10年祭で2.63%まで金利が上昇(価格が下落)した。 しかし、その後はトレンドが変わり、現在は2.13%と今年に入って最も低い利回り(高い価格)で取引されている。 イギリスでは、6月6日、7日には10年国債の利回りが1%を下回り、実質的にはマイナス利回りなった(インフレ勘案後)。スイスでは10年債の利回りはマイナスで取引されている。このまま投資家が償還まで保有すれば、当然のことながら損をする。 BAMLによれば、今年の5月末までに、世界の債券市場に168bnドルの資金が流入し、その額は株式の141bnドルを上回っている。

こうした状況(資金の流れ)は楽観的で奇妙であるが、それが現在の株式市場が繰り返し史上最高値を更新している事実を説明する手助けになっている。 6月2日には、債券市場が売られたにも関わらずS&P500とNASDAQが史上最高値を更新した。 世界の株式市場を表すMSCI World Indexは、今年に入って10%上昇している。世界の株式市場は、2016年2月以来、今後の更なる成長を期待して世界経済の成長の早さよりも早い勢いで上昇している。通常であれば、こうした状況下では、債券の利回りは下落するのではなく上昇する(金利が上昇し、債券価格が下落する)。

債券アナリストが、世界経済の成長率を上方修正したにもかかわらず、インフレが殆ど上向く兆しがない。アメリカでは、Fedが注意深く見ている個人の消費動向を表すコア インフレは4月には1.5%に下落した。 インフレ率は、中国、日本、ヨーロッパの全てにおいて2%を下回っている。 このことが、投資家が債券のような固定債投資に向かわせているのである。

インフレのない状態では、Fedは金利を引き上げ続ける必要はほとんどない。ソシエテ ジェネラルのKit Jucks氏は「市場は、今後2年後の金利水準を1.7%と見ている」とし、「投資家はFedが政策金利を2.5%もしくはそれ以上に引き上げるとは信じていない」とコメントしている。

金利が上昇しないもう一つの理由は、トランプ政権による財政出動が遅れている事が挙げられる。インフレ整備のための財政出動計画は、その実現に非常に長い道のりとなっている。 今回のトランプ政権の法案には、議会と「すったもんだ」しているMedicaid(オバマ ケアの代替案)のような人気取り政策も含まれており、これらの審議には相当時間がかかる。財政刺激は財政赤字を増大させ、当然のことながら、これらは国債によって調達される。 従って、審議の遅れは、債券市場にとってはプラス 材料となる。

世界的には、投資家は中国当局が資金の流出を防ぐために金融引き締めを行っていることから、中国経済が再び失速するのではないかと心配し始めている。その背景には、中国の国内需要が12か月振りの低い水準にとどまったことが挙げられる。

もし、こうした懸念材料が本当ならば、株式市場がどうして好調なのか? その問いに対する答えの一つに企業業績の強さがある。リサーチ会社Factsetによれば、第1四半期のS&P500の企業収益は年率14%である。 これらの中には、去年に原油価格の下落で業績が悪化したエネルギー関連企業の業績回復が含まれている。そして、2017年の世界の企業業績は更に上昇修正されそうである。

企業は、賃金上昇圧力が殆どないために収益を上げ続けている。アメリカの5月の失業率は4.3%に低下したにも関わらず、年率換算の賃金上昇率は2.5%に留まっている。Rabo Bankのアナリストは「労働需要はある。何故ならば賃金が低いから」と述べている。こうした抑制された賃金上昇が、インフレ上昇を抑制し、債券市場にとって良いニュースとなる。

以上のような事情が投資家による債券保有の背景にある。 通常の経済サイクルでは、債券の利回りは既に上昇しているはずである。 しかし2008年の世界金融危機以降、世界経済が通常の状態でないことは明らかである。 恐らく、投資家は、過去20年間にわたり、景気が上向こうが低迷しようが債券利回りが非常に低い水準で推移し続けた日本の債券市場の例を思い起こしているに違いない。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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