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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2017/05/24 05:30  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

嵐の前の静けさ?!


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに掲題と称して最近のアメリカ株に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

スター ウォーズのヒーロー Han Soloは「これは気持ちが悪い」という癖があったが、同じようにアメリカの株式の市場関係者も最近のアメリカ株のボラティリティ インデックス(Vix)が10ポイントを下回ってきたことで同様の事を言っている。こうしたコメントは、5月17日にNY株式が8か月振りに急落し、その結果、Vixが15ポイントまで急上昇した事で、いっそう市況関係者の不安を高めている。これは言うまでもなく、ホワイトハウスから立て続けに出てくる不安要因(トランプ政権のロシア疑惑)によるものである。

一般に低いVixは投資家が楽観的である事を示している。過去においてVixが10ポイントを下回ったことが2回あった。 1つ目は1993年であり、その次は2007年である。1993年の時には、その後は債券が暴落し、2007年の時は、その後にリーマン ショックが発生し、世界的な信用危機が起こった。

このVixの価値は、オプション市場を通じて自らの資産に対する価格変動を抑えるコストと関連している。オプションは、決められた期日において決められた価格で資産を買う権利(もしくは売る)、もしくは資産を売る権利を買う(もしくは売る)を購入するものであり、これらは義務ではない。誰でもこの権利を買う事が出来る替わりに、権利の購入者はプレミアムを支払う。

このプレミアムの価格は需給で決まっており、その需給は、権利を買った人、もしくは売った人のオプションに対する将来の見通しを反映し、それには多くの要因がオプション価格を形成している。その一つは、現在の市場価格と行使価格の関係である。もし、現在の市場価格が10ドルならば、買う権利を買う価格は少なくとも5ドル以上でなければならない(本源価値が5ドルである為)。その次に、オプション契約の期間の長さが関係してくる。より期間の長いオプションの価格は、時間が長くなる分だけ、自分の行使価格より市場価格が越えてくる可能性が高くなるため、プレミアムは高くなる。

ボラティリティ(価格変動)も非常に重要な要素の1つである。もし、資産価値が毎日2倍になり、あるいは半分になると、オプション価格は、その日の値動きのみならず、次の日の値動きも考慮する必要がある為、オプション価格はより高くなる。しかし、将来のボラティリティ(価格変動)は誰にも分らない。もし投資家が、自らの保有資産をマーケットの値動きからの変動を抑えようとすると、支払うプレミアムは、当然高くなる。このImplied Volatility (価格の中に反映されたボラティリティ)がVixによって計算された数字となる。

ファンド マネージャーのグループ Eric Lonergan of M&Gは、「Implied Volatility に最も大きな影響を与えるポイントは、マーケットが足元どういう値動きしたか(realized Volatility: 実際の価格変動)」にかかっている」と指摘している。もしマーケットが非常に閑散であれば、投資家はマーケットの変動に対して保険を払いたがらない。従ってImplied Volatilityは低くなる。それを受けて、マーケットは、益々、閑散になっていく。5月上旬のS&P500は、11日間の値動きが僅かに0.2%以下であった。これほど閑散な値動きは1927年(世界恐慌)以来である。

勿論、銘柄によっては、自らの需給で値動きがそれ以上のものもある。Vix指数は、先物市場、あるいはETFを通じ出て売り買いできる。あるいは銀行と相対で「Variance Swap:個別の様々なスワップ契約」を交わし、それによって行使価格とImplied Volatirityを決めることが出来る。しかしそこには、トレーダーが付け込む「ごまかし」がある。その最初が、投資家は、僅かな下落にもかかわらず大きな下落に対するコストを支払って自己防衛する事を望む(実際の下落以上に高いプレミアムを支払わされる)。つまり、足元の値動き以上により大きな下落(例えば10%の下落)のプレミアム(コスト)を支払わされることになる。モルガン スタンレーのAndrew Sheetsは、これを「リスク プレミアム」と言って、反対サイド(オプションの売り方)の急落に対応する為のコストと呼んでいる。

もう一つの「ごまかし」は、Implied Volatilityは、実際のVolatilityよりも高くなる傾向がある。よって、多くの場合、オプションの売り方は儲けやすい傾向がある。それは、8ドルの火災保険に対して毎年10ドル支払っているようなものである。 勿論、実際はこんなに簡単に儲かることはない。何故ならば、オプションの売り方は、市場が大きく変動し、Volatilityが急上昇した時、買い方が権利を行使した際には多くの損失を被るからである。

では、5月17日以降、Volatilityの急上昇は始まったのであろうか。ボラティリティの値段が低い時にオプションを買うのはフラストレーションの溜まることになりかねない。Sheets氏は「ボラティリティの非常に低い時にオプションを買うと、その後、2~か月にわたり、ボラティリティの低い状態が更に続く可能性がある」と述べている。 つまりオプションの買い手は値段の上がるのを期待しても損をする可能性がある。

多くの人々は、Fedによる金融引き締めや政治家の不安要因があるにも関わらず、株式市場が閑散であることに驚いている。 ファンド マネージャーのSushil Wadhwani氏は「多くの投資家は、11月の選挙でトランプ大統領の誕生は株式市場にとって弱気であると考えていたが、その後の株式の急上昇で捕まってしまった(損をしてしまった)。 だから、彼らは同じ過ち(弱気になって損をする事)を繰り返したくないのかもしれない」と述べている。 また、彼らは、もし、マーケットがガタガタすれば(急落すれば)、Fedが更なる政策金利の引き上げを止めると期待している。

投資家は、政治的な不安要因があるかもしれないが、世界経済と企業業績が株式市場を回復させると期待しているのかもしれない。 しかし、もし物事が悪い方向に行き、ボラティリティが急上昇すれば、その高いツケを支払わされる人も出てくるであろう。その際には、(スター ウォーズの)Soloやトレーダーと違って、全ての人がうまく脱出する事は出来るとは限らない。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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