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2017/05/11 05:22  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

国債の残存年数は長期化すべきか?!


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

どうやって政府は自らの借金(国債)を安く借りることが出来るのであろうか?
その答えは、その国の納税者次第である。例えば、アメリカを例に取ると、アメリカは14兆ドル借金があり、それはアメリカのGDPの75%を占め、その支払金利は2800億ドル(日本円で約30兆円)となり、その規模は、教育省、労働省、商務省の予算の合計額よりも多い。

問題は、国債の発行年数を長期、中期、短期とどのように割り振るかである。多くの国では、これら3つを融合させて国債を発行している。しかし、現在のような世界的な低金利時代にあって、政府はもっと長期国債を発行すべきであるとの議論がある。 何故ならばそれによって長期間にわたり、国債利払いを低く抑えることができ、納税者の税負担が少なくて済むからである。

幾つかの国では、国債発行の長期化を進めている。イギリス、カナダ、イタリアでは、既に50年国債を発行している。メキシコ、ベルギー アイルランドに至っては100年国債まで発行している。最近では、アメリカでも同様の議論が起こっている。先月、財務省は国債のプライマリー ディーラーに対して、国債発行年限を40~50年、更には100年に関するヒアリングを行った。5月3日に、財務長官Steve Mnuchin氏は、省内に超長期国債の発行に関するワーキング チーム(作業部会)を立ち上げると発表した。また、彼は、「こうした議論がでるのは当然至極である」と述べている。

しかし、必ずしもすべての人が同意しているわけではない。同じ省内の借り入れに関するアドバイザーを務めている委員会は「確かに長期金利は歴史的に低い水準にある。しかし、短期金利はもっと低い水準で推移している」と反論している。 アメリカの全ての発行国債を合算した平均残存年数(The Weighted average maturity: WAM)は、5.7年であり、毎年の支払金利の平均値は2.03%である。 ちなみに30年国債の利回りは3%であり、この状態で国債の発行年数を長期化すればコスト増となってしまう。例えば、支払金利が0.1%上昇すれば、14bnドル(日本円で1500億円)のコスト増となる。

更に、超長期国債がコスト面でアウト パフォームするのは短期金利が現在の長期金利を上回る時であり、そうでない限り、政府は短期の国債をロール オーバー(借り換え)する方が有利である。つまり、超長期国債を発行するのは、実質的には将来の短期金利上昇に対する保険のようなものである。

従って、超長期国債が、その国の納税者の負担を減らすことが出来るかどうかは、その国の将来のインフレ率と成長率次第となる。例えば、それぞれのセクターの金利が上昇すれば、短期金利や中期金利がより上昇すると思われがちであるが、必ずしもそうではない。カリフォルニアを拠点とする投資ファンドのマネージャーAlex Gurevich氏によれば、「20世紀後半以降、アメリカのイールド カーブの形状は(金利水準が変わっても)現在の形状と殆ど変らない」と述べている。 もし、彼の言い分が正しいならば、発行国債を長期化する事は、皮肉にも、より高いコストで支払金利を確定させるようなものである。

しかし、その一方で超長期国債の購入需要は非常に高い。長期の負債を抱えている金融機関(年金や生保)は、30年国債を買いたがっており、殆ど多くの国では30年債を発行している。 また、彼ら(年金や生保)は、アメリカの建設機材会社キャタピラーのような企業の30年社債も購入している。しかし、残念ながら、鳴り物入りの超長期国債の発行に関するガイド ラインはまだ確定されていない。もし、超長期国債の需要が低ければ、発行コストは高くなってしまうからである。

イギリスのように、国によってはそれほど高い金利でなくとも(あるいは中期国債の金利よりも安く)発行する事が出来る場合がある。その場合は、中期国債を発行するよりも長期国債を発行する方が得であることは当然である。 こうした背景もあってイギリス国債の平均発行残存年数は14.9年と最も長く、2番目に長い日本の約8年に比べても異常に長い。

また、メキシコのように常に財政赤字が常態化し、しかも高インフレであるにもかかわらず、投資家が高金利という理由だけで本来あるべき長期金利の水準よりも低い水準で国債を購入する場合も長期国債を発行する事は魅力的である。しかし、アメリカの場合、アメリカ国債は、単にアメリカの借金調達と言う側面だけでなく、アメリカのイールド カーブや平均残存年数が、他の国の国債発行のベンチマーク(基準)になっているが故に、アメリカ国債発行の長期化の議論は、他の国も国債発行の長期化のように議論は単純ではない。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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