2017/02/21 05:18 | 昨日の出来事から | コメント(0)
ダウン グレードなんてへっちゃら?!
今週号の英誌エコノミストに掲題と称した記事がありましたのでご紹介したいと思います。
かつて、どの国々も自国のレーティングに熱心にこだわった時期があった。 2010年のイギリスの選挙前まではGoerge Osborne首相(その前は財務長官)は、選挙民に対して国の格付けAAAを維持する為に財政赤字を削減する重要性を訴えた。
しかし、彼が増税し、予算を削減したにもかかわらず、イギリスは2013年に格付けを下げられた。格付け会社Fitchによれば、2009年にはAAAの国が16か国あったが、現在は9か国にまで減少した。また、AAA格付け国債の世界の国債に占める割合は10年前の48%から40%まで減少した。
企業の格付けについていえば猶更である。別の格付け会社S&Pによれば、1992年においてアメリカではAAA-格付けをもった企業の数は99社あったが、現在は僅かに2社しかない。 この背景には、受取利息に対する減税の影響がある。つまり税制効率の観点から、バランス シート上、債務を増やし、株(資本)を減らせば、支払い税金を減らすことが出来るからである(反対にその企業の格付けが下がる)。
明らかに2008年の世界金融危機以降、経済成長が失速し、税収が落ちることで、国や企業の格付けは悪化した。 しかし、国や企業の発行する債券の利回りは非常に低いままである。背景には中央銀行が積極的に債券を買っているからである。そのおかげで、国は、利払いの負担を軽くすることが出来ている。
日本が、財政赤字の急増を受けてAAA格を失ったのは2001年である。しかし投資家は、日本経済がデフレであることを理由に日本国債を買う事をやめなかった。 何故ならば、物価が下落していたので表面上の利回りは低くても、実質的な利回りはプラスであった。また、たとえ投資家が買わなくなっても、日銀が積極的に買い、更には買い入れの目標をゼロ%程度と市場に提示したことで、現在は0.08%とその水準とはかけ離れていない。
同様の事がアメリカでも起きた。アメリカは2011年にS&PからAAA格付けを失ったが、その5年後の現在、10年国債の利回りは1.36%と低い水準にある。
明らかに1990年代に政治家を駆り立てた債券に対する警戒は杞憂に終わった。 財政赤字である事はそれほど大きな問題ではなくなった。それは単なる中央銀行が買うからだけではない。商業銀行、年金、生保に至るまで流動性の確保と監督官庁の規制の観点から自国の国債を必要とした。 その際、買い入れる国債の利回りそのものに関心はなかった。
確かに最も高い格付けである水準では、デフォルトの可能性が僅かな違いでしかなかった。S&Pがおこなった調査では、1995年から2014年の間において、最上級であるAAAの97%の国債とAAの86%の国債は10年後においても同じ格付けを維持していた。
市場が増え続ける赤字国債に対してペナルティを科さないならば、政府が、選挙民に対して借り入れを削減し、財政を圧縮する事の正統性を訴えるのは困難である。ただし、このルール(自国通貨で安易に借り入れることが出来る特権)には例外がある。 ユーロ圏においてその顕著な例はギリシャであり、いまだに財政赤字の削減に喘いでいる。
しかし、それでもユーロにとって、25年前にマースリヒト条約によって単一通貨制度が設立された時に比べれば、市場からのペナルティは予想以上に少ないものとなっている。ドイツのGDP対比の財政赤字は、当初目標とされた水準よりも10%高い70%である。 それでも現在の10年国債の利回りは0.37%である。
更に、ここにきて人気取り政権の台頭によって、債券市場の逆襲を心配する兆しが益々なくなってきている。 ドナルド トランプ大統領は減税とインフラ投資を増やし、セーフ ガードである社会保障や医療保険の見直しを約束したが、これらは議会の承認を得なければならない。連邦予算の管轄している委員会によれば、10年後にアメリカの財政赤字は現在の77%から105%に増大すると見ている。
イギリスは2020年までの財政赤字の削減目標を放棄した(Osborne氏が当初目標としていたのは2015年であった)。人気取り政治家であるMarine Le Pen(ルペン)氏や、Geert Wilders氏の台頭によって、ヨーロッパの政府は、増税や赤字削減を言えなくなってしまった。
しかし、マクロ経済的には、これは非常に慎重に取り扱われるべき問題である。先進国の最も重要課題は適正な水準で経済成長させることである。しかし、もし、経済成長が思うように上昇しなければ、将来の姿が危険であることは明らかである。つまり、現在の財政赤字の水準は、現在の債券の利回りでバランスが取れているに過ぎない。 しかし、もし、利回りがあと2~3%上昇すれば、もはやバランスがとれない。 特に、高齢化社会にあって増大する年金や社会保障の費用増大によって予算が制約されている政府にとっては猶更である。この時点において、債券投資家は、それまでの眠りから目を覚まし、その復讐をするかもしれない。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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