プロが語る世界情勢・政治・経済金融の最前線!

The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2011/04/20 06:08  | 昨日の出来事から |  コメント(1)

世界の金融界の歴史的転換点を示す一つの出来事?!


おはようございます。

読者の皆様も御存じの通り、4月18日S&Pが、アメリカの格付けの見通しをこれまでの「安定的」から「ネガティブ(negative)」に引き下げました。この日は、ひょっとすると金融界の歴史において転換点となる可能性があります(どこかの国会答弁ではありませんが、これは歴史の判断を待たなければなりませんが)。

といいますのも、これまでのウィークリー ミーティングでも、お話してきましたが、2001年に日本の格付けが引き下げられた時の格付け引き下げの理由の一つが、日本の国債の発行残高がGDP対比100%を越えたことでした。 その時の格付け会社のコメントに「国債発行残高がGDP対比100%を越える財政状態は、最上格を見直す要因の一つである」とされました。また、日本国内で活動していた当時の最上格付けの企業(トヨタ、ソニー、当時の東京電力等)も、国の格付けが引き下げられた事に合わせて同時並行的に格下げされたのでした(日本丸という船の乗組員(国民や企業)も一蓮托生との考えから)。 

その時、私が申し上げたのは、「これと同じロジック(logic)で、アメリカやイギリスの国債発行残高がGDP対比100%になった時、彼ら(アメリカやイギリスの格付け会社)は同じように自国の格付けを引き下げるのだろうか?(いや、出来ない!何故ならば、その国の格付けは国益そのものであるから。) 」ということでした。 従って、今回、S&Pが、アメリカの格付けの見通しを引き下げに踏み切った事は、私にとっては本当に驚きでした。

一民間のアメリカの格付け会社が自らのロジックに従って、各国の格付けの見通しを変更するのは勝手なのですが、これが、こと「アメリカ」となった時点で、この格付け会社のロジックは破綻してしまいます。何故ならば、アメリカ ドルが世界の基軸通貨であるという事もさることながら、そもそも、これらの格付け会社が「誰の為に何を目的にして格付けしているか?」を考えた時、今回の彼らの行動は、自らの存在意義を否定する自殺行為そのものだからです。

ここ10数年における格付け会社の酷い歴史は、あの忌々しいエンロン事件で自らの存在意義を問われ、サブプライム ローンに絡んだCDOや倒産前のリーマン ブラザースの詐欺まがいの格付け変更で致命傷を受け、そして今回のアメリカの格付けの見通しの引き下げによって、完全に終わったと言っても過言ではありません。

何故ならば、そもそも彼らは、19世紀にアメリカで250以上もあった鉄道会社の社債の格付けを行い、あるいは、デフォルトの多かったあの時代にあって「アメリカの投資家」向けに、其々の会社を格付けする事でその存在意義を評価され、その後、大きく事業を展開したのです。 つまり、彼らのとってのステーク ホルダー(stake holder)は「アメリカの投資家」であった筈です。

もう一度、言います。ムーディーズやS&Pは、元を正せば「『アメリカの投資家』に、どの国(あるいはその会社の債券)が、どれくらい安全かを示す事」が彼らの中核事業なのです。にもかかわらず その彼らが、「アメリカの投資家」に『アメリカの国債の投資はどれくらい危険であるか』を示す事は、言葉を返せば「アメリカの投資家」に対して、「アメリカ政府の徴税権の行使力」を担保として発行された国債が、どれくらい信用できなくなってきているか」を示す事であり、簡単に言ってしまえば、アメリカの一民間格付け会社が、アメリカの投資家に向かって「あなた方と、あなた方の国を信用できない」と言い始めるのと同じです。

言われたステーク ホルダーであるアメリカ国民(投資家)は「そうかい、我々の為に仕事をしている筈の格付け会社が、我々の政府が発行した国債を信用できなくなってきたって? 笑わせてくれるねえ〜。 分かった、もういい、お前の話はもう結構!」 と、お払い箱になるに違いありません。

”一民間”の格付け会社が、お払い箱になろうがどうなろうが知った事ではありませんが、私達投機家としては、この機会に、少し冷静に、そしてじっくり考える時が来ているように思います。 つまり、

基軸通貨の価値が、そして、その信用が落ちてくるという事は何を意味するのか?
それは、新しい基軸通貨の台頭を待つことなのか?
あるいは、世界全体が信用不安のアリ地獄に落ちていくことなのか?
そして、基軸通貨でもない日本の通貨価値、あるいは日本国債の信用が落ちていく可能性に対して、私達は覚悟と準備は出来ているのだろうか?

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
現在有料版にはお申し込みいただけませんのでご了承ください。

当社に無断で複製または転送することは、著作権の侵害にあたります。民法の損害賠償責任に問われ、著作権法第119条により罰せられますのでご注意ください。

One comment on “世界の金融界の歴史的転換点を示す一つの出来事?!
  1. ベルドン より
    問題は・・

    S&Pが・・何故・・格下げをしたか・??

    新潮流を・・先陣きったのか・?
    どじったのか・?
    単に・・社内問題だったのか・・
    悩ましい・・
    にしても・・
    春です・・
    蠢動しても・・おかしくないか・・??
    世界は・・

    どこが・・台頭・・するのでしょうねぇ・・?!

    それとも・・花粉症で終わるか・?
    大地に・・耳を当て・・
    鼓動を聴くか・?
    ツナミを聴くか・・・?

    オーストラリアは・・自然のメッカ・・・

コメントを書く

* が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

いただいたコメントは、チェックしたのち公開されますので、すぐには表示されません。
ご了承のうえ、ご利用ください。