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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2016/12/15 06:20  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

大統領選挙後の勝者と敗者


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事はありましたのでご紹介したいと思います。

「噂で売り、事実で買う」は株式市場でよく言われることである。このことは、今回の大統領選挙でも当てはまる。 選挙前には、多くの投資家はトランプ候補が第45代大統領になる事に非常懸念を示していたが、選挙結果で出るや否や、彼らは大量に株を買った。 アメリカのミューチャル ファンドは4週連続で上昇し、データ供給会社EPFR グローバルによれば、これほど株価が上昇したのは2014年以来である。

その原動力の一つは、トランプ氏の財政刺激プランがある。投資家は、これによって大量の財政赤字が増えることを想定し、彼らは選挙後、債券を売って替わりに株式を買った。また、同時に彼らはアメリカ経済が上向くことも期待した。そのことは、アメリカ国内の中小企業の指数であるラッセル2000が、アメリカの代表的な企業の指数であるS&P500の指数をアウト パフォームしている事からも説明できる。もし、そうであるならば、これはアメリカ経済拡大というトランペットのファンファーレそのものである。

もう一つの要因は、企業減税が予定されている。現在のアメリカ企業の税率は39%である(連邦に対して35%、地方に対して4%)。大手格付け機関S&Pによれば、実際に米企業が納めている実効税率は29% に留まっており、その多くは海外の利益が滞留して国内に戻ってきていないと指摘している。また、シティ グループのTobias Levkovich氏によれば、企業税率が35%から20%に減税されると、2007年に見たような米ドル高や金利上昇があったとしてもS&P500の株価を7%押し上げると試算している。

投資家も企業による海外に滞留した利益の還流を期待している。前回こうしたう動きがあったのは2004年で、このときはUSD600bn(日本円で7000円億円)の利益がアメリカ国内に還流し、その際は、株の買い戻し資金に充てられた(株価上昇要因)。これを株価に反映させると1株あたり3%の現金を受けることになる。

しかし、こうした動きは、株式全てに当てはまる訳でない(株によってばらつきがある)。大統領選挙後に最もパフォーマンスが良かったのは、金融関連の株価である。具体的には銀行であり、生命保険であり、いずれも2ケタ台の株価上昇となっている。投資家は、これまでの金融機関に対する規制緩和を明らかに期待しており、更には、金利上昇に伴ったイールド カーブがスティープ化することに伴う利ザヤ拡大を期待している。

更には、今回の選挙によって電力などの公共関連企業や景気にあまり変動されない個人向小売り企業の株から、もっと景気サイクルに影響を受けやすい企業(鉱山や建築関連企業)の株へのシフトが起こっている。旧態の電力などの企業は、選挙後は買われるどころか売られて苦しんでいる。 こうした企業の株を保有する目的は、高い配当金目当てであり、その意味では国債などの債券保有の代替要素があった。その結果、11月8日の大統領選挙以来、こうした株は債券と同様に売られる羽目になった。

これと同様に皮肉なことがEFFでも起こっている。 もともとETFは、Low Volatility(株価の変動が少ない事)を理由に投資家に好まれて保有されている。 BNP(フランスの大手銀行)によれば、今年に入って7か月間は、このETFが最もパフォーマンスが良かった。 しかし選挙後は、本来、最もVolatility (値ブレ)が少ないはずのETFが最も売られて、株式全体の中で、最もVolatilityが高くなっているのである。

これまで、アナリストたちは「ある企業が、新しい製品を売りに出した時、その企業は2桁台で企業業績を伸ばす」としばしば言ってきたが、その多くは失望に終わってきた。 今回のトランプ氏によるファンファーレも同様の結末を見るかもしれない(アナリストたちの思惑通りにはならない)。 と言うのも、たとえトランプ氏が議会に提出したこれらの法案が無事成立したとしても、経済や企業の収益に影響が出るまでには時間がかかるからである。

そもそも、株価はPER(price-earning ratio)勘案後のサイクルで変動している。エール大学のRobert Shiller氏によれば、現在のPER(price-earning ratio)勘案後のインデックスは27.3ポイントであり、過去の平均値を63%も上回った水準で取引されている。また、今後の政策金利の上昇も株に悪影響を与える。

最後に英誌エコノミストは「トランペット(トランプ氏)による最初に鳴り響く音には、大きな「おなら」の音が伴っていないとも限らない」と懐疑的です。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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