2016/10/14 05:19 | 昨日の出来事から | コメント(2)
ヨーロッパの銀行の現状
今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
(抄訳)
それはこの上なく素晴らしい瞬間だったに違いない。 (それは何かというと)9月10日にギリシャの中央銀行が「ドイツの銀行が危機に飲み込まれそうな中、ギリシャの銀行は安全である」と投資家に投資を促す声明を出したことである。 それはまるで他人の不幸(ドイツ銀行の株価が急落する不幸)を喜ぶようにも感じられる声明であった。しかし、ドイツ銀行は倒産しそうにもないし、厳しい資金調達の間にあって生き残る。 また、ドイツ政府も支援することはまちがいない。 そうではなくて、ドイツ銀行に限らず、ヨーロッパ大陸全体に広がる問題が人々を悩ませているのである。
(これを言うと)多くの人々は「そんなことはない」と否定する。(これはドイツ銀行だけの問題あって)彼らは、レバレッジをかけすぎている。 また、彼らのビジネス モデルはヨーロッパの王冠をかぶった殿様商売をしている。しかも、大量のデリバティブを抱えており、その市場価格を正確に把握するのは非常に困難である。唯一、いい事はイタリアの銀行と違って不良債権がないことである。しかし、それ以外の点については、他のヨーロッパの銀行も同様の問題を抱えている。 それは、まず、ドイツ銀行は望ましい収益を上げる事が出来ない。この問題に直面してから実に長期間が経過しているが、いまだにその収益機会を見つけることが出来ないままである。次に、ヨーロッパでは、銀行の数が多すぎる(オーバー バンキング)。アメリカでは、長い時間をかけて銀行の淘汰が行われてきた。 しかしヨーロッパでは、いまだに多くの銀行がぶら下がり続けている。
ヨーロッパ人は、問題が起きると他人のせいにしたがる。ドイツ銀行は「マーケットにやられた」と言う具合に。しかし、ドイツ銀行の株は、今年に入って、今回のアメリカ金融監督当局から多額の課徴金(USD14bn)をかけるニュースが流れる以前から42%も下落していたのである。その仕返しにドイツの政治家は、アメリカのチャンピオンであるアップル社に対してヨーロッパにおける収益に税金をかける嫌がらせをしようとしている。しかしアメリカの金融監督当局は、何もドイツ銀行だけに多額の課徴金をかけようとしたのではなく、アメリカの銀行にも同様に課徴金をかけてきた。今回のドイツ銀行の株価暴落は、アメリカの金融監督当局によるショックだけでなく、彼ら自身に問題があるのである。
(ヨーロッパ人の)批判の矛先は、世界の規制当局者にも向けられている。 クレディ スイスの会長は「全く投資できない」と嘆いている。 確かにここ数年、ヨーロッパの監督官庁は規制を厳しくし、特にドイツ銀行のように、世界的に活動する大きな金融機関に対して非常に厳格な規制している。更に、ECBによる超金融緩和、特に、マイナス金利導入によって、マイナス金利がヨーロッパ中に広まり、収益機会を食いつぶしてしまった。しかし、銀行の中には、こうした厳しい環境の中にあっても収益を出している銀行もある。IMFが2008年の金融危機の前とその後の銀行のROE(return on equity)を比較したところ、ヨーロッパの銀行ROEは11%下落したのに対して、アメリカの銀行は1%の下落に留まっている。彼らは、投機家を批判するのではなく、アメリカや規制当局を批判しているのである。ヨーロッパの銀行や政治家は、自らの家(会社や国)をきちんとすべきである。
(それはどういう事かと言えば)、金融機関にあってはコストを削減し、資本を増やすべきである。世界的な格付け機関S&Pによれば、2011年から2015年におけるアメリカの銀行の収入に対する平均コストの割合は59%であったのに対して、イタリアの銀行は67%、ドイツの銀行は72%と非常に高い(コストの割合が高い)。その一方で、スカンジナビアの銀行のそれは同業他社に比べてかなり低い。 漸くここにきて人員削減が活発化し、ドイツの国内銀行コメルツ銀行やオランダのINGは、最近大量の人員削減を発表した。
しかし、もっとすべきことがある。 確かに賃金の支払いはコスト削減の大きな一つであるが、ドイツ銀行は2011年から2015年にかけて年間配当が殆ど同じである(収益が低下しているにもかかわらず)。また、株主も高い配当を要求し、2007年から2015年の間にEU大手90行の配当金額は223bnユーロ(USD250bn;日本円で約25兆円)とべらぼうな額になっている。
次に、マーケットにおいては、銀行の統廃合が必要である。確かにあまりにも大きな銀行の統合は、その銀行における市場支配力の問題を悪化させる。 しかし、余りにも小さく、また収益の少ないのも問題である。ヨーロッパの銀行の中には整理をしている銀行もある。2008年から2014年にかけてEUの銀行の支店の数は約半分になったが、それは主にスペインの銀行による支店の統廃合によるものであった。再びIMFのレポートによれば、ヨーロッパの46%の銀行は、域内の預金の5%シェアしか持っていない。しかし、ドイツ銀行を始めドイツ貯蓄銀行は、大量の個人預金を抱えている。 彼らのROEは超金融緩和のおかげで限りなくゼロに近い水準にまで低下し、このままではBIS規制やFintech(フィンテック)のライバルに対応できなくなる。
(こうした状況を踏まえてEUの)政治家が、「現在の銀行の苦境は早晩金融危機を引き起こす」という明快な真実を認識した時、ようやく銀行の苦境は回復に向かうであろう。 そのためには大胆な改革が必要である。ヨーロッパ全体に預金保証スキームを拡大する事によって銀行の統合がより容易になるであろう。イタリアやポルトガルの体力の弱い銀行には公的資金の投入も必要になるであろう。その代わりに組織のスリム化を要求する必要があるだろう。その一方で(マクロ的には)ヨーロッパ政府による財政支出をすれば、ECBによる更なる政策金利の引き下げ(マイナス金利の深堀り)の機会を断ち切るだろう。
それにしても、ヨーロッパの大手銀行が生き残る為に問題なのは、2007年の金融危機が起きてほぼ10年が経過しようとしているにもかかわらず、彼らはただ振り回されるだけで、全く何もやっていないことである。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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2 comments on “ヨーロッパの銀行の現状”
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目を向けて世界の負担を担えるように発展
させるべきでしょう 成長機会をとどめてる
中進国を沢山かかえてますから
最重要課題は、大陸でもあるオーストラリア
世界で大事変が起きた時には人類の避難場所になる
可能性があるのだから、もっとインフラ整備に
力を入れさせておいてくれないと大問題
白人だけが占拠してるのは困る
イギリス・メディアも自国の面倒を見るべきですね
それぞれ自国の発展のために知恵を絞らないとだめでしょう