2016/09/28 05:20 | 昨日の出来事から | コメント(0)
流動性が枯渇している現在の世界金融市場
今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
BIS(国際決済銀行)が四半期ごとに発表している「通貨に関するレポート」によれば、「通貨のスポット市場とフォワード市場の間にかい離が生じていても、これを裁定取引によって収益機会を狙う動きがほとんどない」と指摘しています。
基本的には、スポット レートの価格とフォワード レートの価格の価格差は金利差によって裁定される。 例えば、今、ドルの1年物の金利が10%で円金利が5%であれば、スポット価格でドルを買い、これを1年保有する取引を行い、同時にドルの為替リスクをヘッジするために1年後のフォワードのドルを売る取引によってその金利差を収益にすることが出来る。 こうした裁定取引は、これによる収益機会がなくなるまで続く。
しかし、2008年のリーマン ショック以降の通貨市場ではこうした価格差(アノーマリー)が生じても、これを裁定させるような取引(アービトラージ取引)が入ってきていないのが現状である。 その理由としてBISは2つの理由を指摘している。
ます1つ目は、多くの市場参加者が、自分たちのポジションをヘッジする為に、たとえコストがかかってもヘッジする事を優先している事が考えられる(リーマン ショックの時に流動性が落ちたことによってマーケットが凍結(freeze)し、ヘッジが出来なくて大損をし、それに懲りた)。例えば、オランダの年金ファンドは、アメリカ国債を買う事を決めている。理由は、アメリカ国債が他の投資対象よりも安全だからである。しかし、彼らの負債(年金受託者に対する支払い)はユーロである為、ドルの為替リスクを排除したい。 そこで、彼らはドルを市場から借りてきて米国債を購入する。そして同時に通貨スワップ マーケットでユーロに交換することによって為替リスクを排除する。
もう一つは、国際的に活動する銀行のヘッジが考えられる。 彼らは、様々な通貨のバランス シートを保有している。 これらの通貨に均衡が取れていれば問題ないが、一般的には資産(もしくは負債)に通貨毎にポジション(exposure)が発生する。 彼らはこうしたポジションをそのまま為替リスクとして保有する事を嫌う。結果として、こうした為替リスクを排除するためにヘッジを行う。現状は、円やユーロに対してアメリカ ドルの為替リスクやポジションをヘッジ(売る)するニーズが非常に高くなっている(一方で、豪ドルに対しては逆に買いニーズが高くなっている)。
この時点で、アービトラージャー(裁定取引を行う市場参加者)は、こうした2つの通貨の金利差を利用して収益を上げようとするが、2008年以降、こうした裁定取引が機能していない。その理由としては、監督官庁が、銀行に対して裁定取引を行う際には一定の自己資本を確保する事を求めた為、銀行がこうした裁定取引を控えている事が挙げられる。このこと自体は、銀行の健全な経営の観点から望ましいことであるが、その一方で、次に金融危機が生じた際には、前回のリーマン ショック以上に急激に市場の流動性がなくなってしまう可能性が高い。
勿論、こうした事態に直面した際には、中央銀行が流動性を供給する事が期待されるが、果たして、市場が期待しているほど流動性供給に寛容であるかどうかはわからない(例えば、米議会はFRBが市場に対して流動性を供給する事に何等かの歯止めをかけようとする動きがあります)。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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