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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2012/01/22 10:33  | 昨日の出来事から |  コメント(3)

日本の貿易収支から見る今後の為替相場は円安?!


今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
ご存じのように、日本の貿易収支は、1963年に貿易黒字を確保して以来、過去50年間に亘り黒字を積み上げ、2007年にはGDPの5%の経常黒字を記録し、2011年でも2%の経常黒字を維持するほど、世界一の債権国となっています。 しかし、貿易収支に関しては、2011年に初めて貿易赤字に転落しました。

これは、2011年に東日本大震災があって、日本の基軸産業の輸出が大きく落ち込む一方で、原油価格の高騰と輸入が輸出ほど減少しなかった為に一時的な貿易赤字になったと捉える向きもありますが、もし、今後も、現在の円高と、海外からの需要の低迷が継続すると、日本の輸出を益々低迷させる可能性があります。

2009年頃までは、実質為替レートが円安であったために、輸出は好調でしたが、それ以降は、名目的な円高だけでなく、実質的にも7%以上の円高であり、更に高い法人税が日本企業を更に海外へと推し進めています。例えば、JPモルガンの資産によれば、2004年には日本の自動車産業の49%が海外生産に依存していましたが、2014年には、その海外依存率は76%まで上昇すると試算しています。

JP モルガンのMasaaki Kanno氏によれば、もし、このまま日本の貿易赤字が拡大すると、今のところ、外国からの利息や配当収入のお陰で経常収支は黒字ですが、その一方で、世界的な低金利傾向の中、2015年までには、日本の経常収支も赤字転落するとしています。 

これに対して、一部のエコノミストはMr Kanno氏が想定するほど日本の輸出は弱くないと異議を唱えていますが、それを持ってしても日本のこれまでの経常黒字体質は、構造的に赤字に転換していく可能性があります。 それは、本来、経常収支は、国内の貯蓄(家計、企業、国)と投資との差(Gap)で決まります。 歴史的に、日本は、これまでは貯蓄超でした(経常黒字)。 しかし、団塊世代の退職と急速な高齢化に伴って、彼らがそれまでの貯蓄を取り崩すために、益々、貯蓄率は低下していきます。

例えば、1990年代には可処分所得の14%もあった日本の貯蓄率は、ここ数年には2%程度まで急落しました。また、政府の膨大な財政赤字は、経常収支の観点からは大幅なマイナス貯蓄になります。 にもかかわらず、これまで日本が経常黒字を維持できたのでは、日本の企業が、借り入れを積極的に返済する(経常収支ではプラス)ことによって、家計部門の貯蓄の減少と政府部門の赤字を相殺してきました。

このように、結果として、高齢化と、家計部門の貯蓄の減少によって、貯蓄率は近い将来マイナスになることが予想され、また、企業も、将来的には現在ほど高い貯蓄率を維持することは考えづらい状況になってきています。 このまま、民間部門の貯蓄率が低下し、政府部門の借り入れが増え続けると、日本は将来的には、足りない資本を外国から調達しなければならなくなります(これまでの資本輸出国から資本輸入国へ転換)。

日本の経常黒字の削減に関しては、日本の国内の需要が増えることによって(内需拡大によって)、経常黒字が減少することが日本にとっても、また世界の他の国にとっても理想的ですが、今回の日本の経常黒字の減少のように、輸出が減少し、更には高いエネルギー価格によって、経常黒字が減少するのは、どこの国にとってもそのメリットはありませんし、それによってそれは日本の国力を弱めてしまいます(為替の円安要因)。

今のところ、日本国債の金利水準は、日本国債の95%が国内から調達されているために、1%程度と非常に低い水準に留まっていますが、これが、何かの理由で1%金利水準が上昇すると、政府の国債利払いコストは2倍になり、これを保有している日本の銀行や年金は、大きな損失を被ります(日本の国力を弱め、更なる円安要因)。

結論として、これらを踏まえた今後の円為替動向を考えてみますと、これまでの円高を支えてきた要因の一つである恒常的な経常黒字が、今後、近い将来に、赤字に転落し、その後も恒常的に赤字であり続ける可能性が高くなっています。 更に、日本の長期金利の僅かな上昇は(たった1%の金利上昇は)、政府の金利負担を2倍以上に増加させ、その一方で、これらを大量に保有している日本の金融機関の資本は、金利上昇によって保有価格が大幅に下落し、彼らの資本も大きく毀損してしまいます(更なる円安要因)。

今年は、これまでの円高一辺倒のシナリオから、将来的には円安に転換していく時間帯が近づきつつあるといった認識をこれまで以上に頭にしっかり入れておく必要がありそうです。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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3 comments on “日本の貿易収支から見る今後の為替相場は円安?!
  1. 匿名希望 より
    素人質問

    こんにちは

    ちょっと、素人的観点から質問です

    ・財政は関係なく、需給だけで決まる筈。少なくとも、ジャブジャブ刷り続けてるドル/ユーロと比べて、円が安くなる理由が無い

    ・日本の貿易黒字額なんぞより、最近の為替介入額の方が多いのに、それでも円高ですよね?

    ・民間(老人)が貯金を使うと、今まで死んでいた金が回り始めてGDPがUPします。インフレになり過ぎて国債利払い(日本は、主要国では対GDP比で最安ですよね?)が出来なくなるほど、消費UPするんですかね?

    ・消費税UPの話が出るたびに不思議です。税金が足りなくて消費税UPするならば、その前に国家の支出を本気で減らして下さい。日本の公務員比率が主要国と比べて低いのは知ってますが、税金が足りないと言うならば、莫大な税金で食っている公務員を減らして下さい。民間同様の徹底リストラを、何故しない?
    特に、異常に高給取りな地方公務員。仕分けの中で、地方公務員が何故出てこないのでしょうか?

  2. ベルドン より
    円安

    多くの専門家が・・
    円安なら・・
    円高に移る・・パラドックスがある・・
    仮定法・・
    便利なステロイド注射・・
    副作用が・・ニキビで済めば・・アリガタヤ・・・

  3. st より
    不安

    国債の金利の低さは異常だ、恣意だとしか思えない、経常収支の赤字が恒常的になったら、国債金利を何時までも低く抑えておけるのかどうか、結局民間が必死に努力して経常収支を黒字にしないといけないと言うことでしょう、公務員は国債を減らす為人件費を減らし不要不急の歳出カットを15兆円ぐらいはやってもらい、その上でプライマリーバランスの不足分は消費税で賄えばいい、この方法しかないのでは、公務員がやらないのであれば民間は愛想をつかし、社会は混乱する、日本の未来は公務員にかかっているんだ、しっかりしろよ。

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