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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2016/05/11 05:41  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

どうやって繁栄を測定するか?!


おはようございます。

先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

経済学ではその国がどれだけ経済成長したかを測定する際にはGDP(国民総生産)が一般的に使われますが、これは物質的な社会福祉面しか測定できない悪い指標である。しかも、この指標は、繁栄を測定するには様々な欠陥があり、しかも近年ではその歪みがひどくなってきている。にもかかわらず、この指標を使って先進国の経済成長を測定し、その成長の低さに失望する時間帯が長く続いている。 今や、新しいアプローチを必要とする時期に来ている。

このように言うと、GDP擁護論者は、「そもそもGDPはその国の繁栄を測定するために考え出されたものでない。これは、1930年代の不況や1940年の第2次世界大戦時に、その国の生産能力を測定する事が本来の目標であった。それが、第2次世界大戦後は、この指標を税金から失業率、更にはインフレを管理する道具にまで、政治家が利用しているに過ぎない」と言う。

特に、最近では、GDPの数字の正確性が大きくかい離し始めている。 例えば、2014年ナイジェリアのGDPは84%も改訂される始末である(これは、統計能力に問題がある)。 あるいは、GDPの算出に当たっては、イギリスにおける売春婦の売り上げの規模は推測の域を出ず、一般的には男子の人口に比例して計算している、一方で、アメリカではナイトクラブのダンス バーの売り上げを代用している。これによれば、アメリカの売春婦の売り上げは、ヨーロッパのそれに比べてかなり誇張された数字となってしまう。 いずれにせよ、政治家は、こうした間違ったデータを使って政策決定をしているのである。

では、GDPの本来の計測方法に従ったとしても、第2次世界大戦後の公衆衛生の向上や寿命の延び、更には冷暖房のような生活水準の向上などの経済的価値をGDPはかなり過小評価してしまう(お金に換算できない為、計測が不可能)。とはいっても第2世界大戦後に世界経済が急成長している時には、GDPはそれなりに社会の繁栄を表す指標たりえた。 しかし、現在のように低下経済成長期に入り、更に社会で不均衡が拡大するとこの指標は行き詰る。例えば、アメリカにおける中間層の家計所得は、インフレ調整後でこの25年間殆ど変らないのである(アメリカそのものはこの25年間で大きく成長したにもかかわらず)。

更に、現代のようにサービスに占める割合が大きくなるとGDPの指標としての役割はますます立ち行かなくなる。グーグルや Facebookは無料なのでGDPの測定から除外される。あるいは、無料のデジタル サイト(地図や音楽)もGDPから除外される。 更には、オンライン ショッピングや、オンライン バンキングは消費者に恩恵を与えているが、その企業が建物などの設備投資をしない限り、これもGDPから除外される。 もはや、(GDPによる測定は機能せず)ここに至って新しく繁栄を測定する方法が必要なのである

そこで繁栄を測定する為によりよい方法としては3つ事が挙げられる。もっとも簡単な1つめの方法は、現在の生産の計測手段を改善することである。 人の力に頼らず、あるいは測定手段をあれこれ苦心する代わりに最も費用もかけずに見直す方法は、税金記録、インターネット サーチ、あるいは、クレジット カード記録など、現在、既に大量に存在しているデータに基づいて計測することである。 例えば、一部の民間企業では、独自が持つe-commerceの大量の商品価格のデータを使って独自にインフレ率を計算している。

2つ目の方法は、先進国のようにサービスの割合が大きな国では、より正確に生活水準を把握するために、更に広範囲に網羅した指標が必要である。これを「GDPプラス」と名付けていいかもしれない。 これによって、かなりの概念が変更される。 例えば、家庭の主婦のように賃金の支払われない家庭内労働、あるいは、親戚の世話や介護をする概念をこの指標に取り込むのである。 また、GDPプラスでは、サービスの質の変化を測定し、平均寿命の延びも勘案し、新商品に対する評価や選択肢の多さについても勘案する。理想的には、所得の多い層、中間層、更には、低所得層についてもそれぞれ評価できるようにする。しかしながら、現時点では、このGDPプラスは、あくまでも所得のフローの計測に留まっている(現金以外の評価については出来ていない)。

3つ目の方法は、(これまでのGDPの計測がその年ごとの資金フローから計測されているが)、新しくストックを取り上げる方法である。 例えば、10年毎に、個人の富同や公共の道路や公園も評価する。更に目に見合えない資本スキル、ブランド、科学的な見地、更にはオンラインのネット ワークも評価し、減価償却や資本消失、更には環境破壊などのコストも加味したGDPを計測する。

恐らくこうした新しい経済指標は、(1930~1940年代に)GDPが初めて導入された時と同じくらい大胆な革命を統計当局に要求するかもそれない。 しかし、この新しいアプローチは、現在のGDPの統計が、現代社会に広がっている新しい繁栄を無視し、過ちや不備だらけで謎めいていることを思えば、ずっとましである。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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