2016/04/27 05:51 | 昨日の出来事から | コメント(0)
構造改革はやらない方がいい?!
先々週号の英誌エコノミストに掲題に関してIMFのレポートを交えた記事がありましたのでご紹介したいと思います。
(抄訳)
もし、ギリシャ政府の高官に、「ヨーロッパ周辺国経済を患わせているものは何か?」を尋ねたら、彼らはきっと、北ヨーロッパの政治家たちが取りつかれたように言っている財政緊縮の演説を遮るように「需要が弱いことだ」と答えるだろう。
しかし、その一方で、ドイツの政府高官に同じ質問をすれば、彼らは全く違った答えをするであろう。例えば、3月にドイツのブンデス バンクのJens Weidman社長は、新しいECBの景気刺激策の提案の中で、こうした考えに否定的な考えを示し、「(弱い需要を刺激する目先の)景気刺激策は根本的な解決策にならないし、それが喫緊に必要とされる改革に取って替わる事は出来ない」と述べています。
(経済の)構造改革は体を鍛えるエクササイズ(運動)のようなものであり、ほとんど多くの人もこうした表現を使っているし、本誌でもしばしば政府に対してそのように進言してきた。 しかし、経済が非常に弱い時に、あるいは低いインフレ率に直面しているときに、景気刺激策よりも構造改革を進めることは、非常に悩ましい問題を引き起こす。 例えば、イタリア経済は効率の悪さが問題であることに議論を投げかけるエコノミストはほとんどいない(みんなわかっている)。 また、非常に高い失業率の時に労働者を解雇し、賃金をカットすることは、その国にとって非常に危険であるあることを知らないエコノミストもほとんどいない(みんなわかっている)。
最近、IMFが最近発表した「世界の景気見通し」の中でも、このことについて章を割いて議論をしている。構造改革は、長期的な観点からその国の成長を引き上げる手助けになることが改めて認識されている。しかし、新しい企業を作り、あるいは健全な企業を育成することが困難な時、更には、労働者が瀕死の企業からより効率のいい企業に容易に移行することが困難な時、社会の生産性は著しく低下する。IMFは、先進国の企業ほど構造改革の余地があると指摘している。
また、IMFは、改革の中には、より即効性があり、あまり痛みの伴わないものもあれば、そうでないものもあることを認めている。生産市場における改革は、民営化や規制緩和、貿易の自由化、更には企業設立の容易さ、加えて投資環境の改善によって、企業間の競争が激しくなることを意味する。こうした改革は、目先的な観点からではなく長期的な観点からより多くの恩恵を受ける。しかし、こうした改革の結果は直ちには表面化してこない。例えば、エネルギーの規制緩和を例に挙げると、これによってエネルギー価格は下がるし、それが他の産業により多くの恩恵をもたらし、新しい投機機会を広げることにもつながる。しかもこうした恩恵は、たとえ弱い経済状態においても、すぐに得ることが出来る(ただし、IMFは、その国の与信市場が機能していない時、あるいは経済危機によって通常の経済状態にない時は、短期的にこうした恩恵を受けることには限界があると指摘している)。
また、労働市場においては、短期的に労働者を(構造改革によって)解雇できるかどうかは、その国の経済状況に依存するところが大きい。経済が急成長し、雇用も増大している時には、雇用も解雇も容易に出来るため、改革は簡単に出来る。 しかし、経済が弱い時には、企業は雇用よりも解雇をより優先するために、景気が一層悪化する。
(目先的な景気刺激策によって)失業を減らそうとすると、失業者は以前と同じ仕事につく傾向がる。 特に、景気の悪い時に(以前と同じタイプの雇用機会を増やすと)、新しい仕事を得るために労力を費やすことを放棄して、以前と同じ仕事に走ることになる。 しかし(同じ目先的な景気刺激策でも)、労働者に対する非効率な税金を下げる構造改革は即効性がある。特に景気の悪い時にはその効果は非常に大きい。 IMFによれば、不況期に労働者に対する税金を1%減税すれば、その改革をした年のGDPを0.7%引き上げる効果がある。 その一方で、景気のいい時に同様の事をしてもその効果はほとんどない。
IMFは、弱い経済を統括している政府は、(構造改革に伴う)短期的な悪影響を最小限にすることで変革をより有効にすることができると指摘している。(労働者に対する非効率な課税を引き下げる事によって)政府は生産市場を改革する事が出来、また、景気回復に間に合うように僅かなズレを伴って労働市場の改革も行う事が出来る。また、改革は財政刺激をも伴い(赤字財政が改善し)、そのことがより経済成長につながる。
ヨーロッパ周辺国の政府によってもたらされた多額の財政赤字は、その国の成長の見通しが長期的に明るくなければ持続維持することは出来ない。目先的な赤字国債による景気刺激策は、より多くの費用を必要とする構造改革の「薬代」に対し、僅かな「薬代」しか支払わないようなものである。 逆に、ヨーロッパの政治家が、支出を大幅に減らし、同時に構造改革を推し進めれば、選挙民の心に改革と経済の困難さを植え付けてしまう。それは、まるでヨーロッパ経済が良くなり、あるいは、ユーロがうまく生き残ることを予言できない「鏡」を見るようなものである。 (目先の景気)刺激策は、喫緊に必要とされる変革に取って替わることは出来ない。しかし、このことを完璧なまでに正しいと証明することが出来ればいいのだが(実際には非常に困難である)。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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