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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2016/03/29 05:22  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

投資家は景気の失速は覚悟するも、後退までは覚悟していない?!


おはようございます。

英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

読者の皆様もご存知のように、今年に入って世界の株式市場が大きく下落しましたが、2月以降は回復傾向にあります。今回の世界的な株価下落の大きな要因は、中国の景気の後退と、2015年12月のFRBによる政策金利の引き上げは、今後のアメリカ経済の見通しを見誤ったと市場が判断した事にあります(今後のアメリカ経済は、FRBが期待するほど成長するのではなく、寧ろ後退するとの判断でした)。

確かに、こうした懸念が完全に払拭されたわけではありません。OECDによれば、今年の世界の経済成長率は2015年の3.3%から3%程度に低下する見込みですが、景気後退(マイナス成長)に陥るほど悪くありません。 また、最近、中国政府が発表した足元の経済成長率年率は+5.4%と前年に比べて低下していますが、その一方で小売売上は前年比+10.2%と好調です。また、不動産投資も中国人民銀行が市中銀行の預金準備比率を引き下げる金融緩和を行ったことを受けて回復傾向にあります。

また、アメリカ経済も、今のところ、景気の更なる悪化の兆しはありません。確かに2月の小売売上には失望しましたが、2016年第1四半期のGDPは+0.4~0.5%(年率1.9%程度)と予想されています。 加えてヨーロッパでも、3月にECBがマイナス金利を更に引き下げる金融緩和を行い、金融面で景気を下支えする姿勢を示しました。 

しかし、問題はここからで、その後のドラギ総裁の発言では「今度更なる政策金利の引き下げは困難」との見方を示し、これまで、ユーロは他通貨対比で売られていましたが、底打ち感がでて上昇に転じています。 同様に、日本の円においても、今後、日銀による更なる政策金利の引き下げは困難との見方から、円は買われています。

このように、ここにきて中央銀行の金融政策に対する効力が弱まってきており、政策金利の引き下げが自国通貨を安くし、それによってGDPの押し上げする効果がなくなってきているのです。

また、マーケットにとって、更に悩ましい問題は企業業績が落ちてきている点です。
今年のS&P500社の企業業績は去年対比で6.2%下落すると予想されています。除くエネルギー関連企業の業績でも0.7%の下落となり、また、世界的に展開する企業でも2%の企業業績の下落が予想されています。更に、エマージング マーケットの企業業績は12%の下落が見込まれています。 加えて、設備投資を見てみますと、2015年に比べて2016年の設備投資計画は10%も下落し、その水準は2006年以来の低さに留まります。

これに追い打ちをかけるように政治的なリスクも山積です。 ヨーロッパでは、ドイツのメルケル首相率いるキリスト民主党が今年の地方選挙で苦戦しています。また、アメリカの大統領選挙では、民主党のトランプ氏が人気取り政策で躍進し、企業に対する増税と、保護貿易主義を打ち出しています。

このような問題を考えると、今後、どうやって株式市場が上昇するのか、いくら熱狂的に考えても限界があります。今年は、良くて2015年と同様か、もしくはそれよりも下落すると考えるのが妥当かもしれません。にもかかわらず、Bank of America Merrill Lynchがファンド マネージャーに向けて行ったアンケートによれば、彼らは通常のポジション以上に株式に投資していることがわかりました。 その理由としては、世界的な低金利(マイナス金利のおかげで)、他に投資するものがなく、それらに投資するとリターンがマイナスなるからです。

英誌エコノミストは、最後に「(このような状況で)、もし、世界経済が実際に景気後退に突入すれば、投資家は、保有株式をパニック売りせざるを得ない」と警告しています。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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