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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2016/03/01 05:06  | 昨日の出来事から |  コメント(1)

金融緩和政策の限界


おはようございます。

先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

ご存知のように日銀は1月29日にそれまでの量的金融緩和から金利水準による緩和政策に転換し、それまでのゼロ金利からマイナス金利導入を決定し、2月15日からこれを実施しました。とはいっても、日本の銀行が日本銀行に預けている当座預金253兆円の内、マイナス金利を適用される当座預金は僅かに23兆円に留まり、更に0金利が適用されるのは24兆円で、残りの当座預金についてはこれまで通り0.1%の金利が適用されます(その意味では、マイナス金利そのものによる銀行のコスト負担は限定的です)。

しかし、その一方で、銀行はローン金利の引き下げ等によって、これまでの伝統的な貸し出しの利ザヤは縮小し、結果として銀行の収益が悪化することが予想され、S&Pによれば、5大銀行の収益は来年にかけては8%減少し、地方銀行では15%減少すると試算されています。

また、今回のマイナス金利導入に対する市場の影響については、為替市場では、発表された直後は円安が進みましたが、その一方で3月のECB理事会でユーロの政策金利が更に引き下げられるとの思惑から、逆に円は買われて上昇し、1月29日の時点より5.9%も円高となっています。 また、株式市場では、日経平均株価指数は発表直後に7.2%上昇しましたが、その後は逆に売られて下落し、現在は1月29日時点よりも9,6%下落した水準で取引されています。

今後の日銀の金融政策については、「日銀は、今後更に政策金利を-0.5%程度まで引き下げる」、あるいは「マイナス金利引き下げが限界に直面すれば、現在の年間80兆円の国債買い取りを100兆円まで引き上げる」と市場関係者は予想しています。

そして、今回のマイナス金利導入によって、銀行預金者の間でも様々な影響が出始めています。高齢者の中には、戦後、一時的に預金の引き出しが制限され(預金封鎖)、更に資産に課税された事(財産税)を連想する人も出始め、更には、ショッピング モールでは、銀行に預金する代わりに有利な商品券を買う動きが活発化しています。また、一部の信用金庫の中には、「今回のマイナス金利導入で動揺している預金者から預金を集める好機」と捉え、逆に預金金利を引き上げるところも出ています。

このように今回のマイナス金利導入によって様々な不確定要因が表面化し、今後、日銀は、更なるマイナス金利の引き下げには慎重にならざるを得なくなってきています。また、安倍政権も、もし、これまで頼ってきた金融緩和施政策が限界に直面するのであれば、再び財政政策が必要にならざるを得ないとの考えが出始め、既に2017年4月に10%に引き上げることが決まっている消費税を再延期することを安倍政権のアドバザーは促し始めています(当然のことながら財務省はこれに反対です)。

最後に、英誌エコノミストはこうした日銀による金融政策が限界に来つつある状況を踏まえて「マイナス金利を更に引き下げよりは、財政出動の方が人々にとって望ましい」と締めくくっています。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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One comment on “金融緩和政策の限界
  1. アソシ より
    本当の目的は別に

    「財政出動の方が・・・望ましい」
    国の債務が日本よりはるかに少ない国はそれで良い

    消費税増税前に、見込増収額と使い道を説明してた方々へ
    金融政策で実験せずに、消費税減税で実験を・・・

    景気回復で増収になった分は、確か社会福祉費に・・・

    黒田さんも2年で2%は達成できなかったけど
    「岩盤」と言われた、日本人の貯蓄依存を
    投資へ向けさせた功績だけは確保するまで・・・

    短期金利しか直接コントロール出来ない日銀が
    2倍の期間にしてイールド全体を落とした。
    経済活性化は国の財政出動ではなく
    国民の預金から投資への金の流れの変化で

    出来ないかな?

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