2015/12/25 06:13 | 昨日の出来事から | コメント(0)
来年のエマージング マーケットは如何に?
先週号の英誌エコノミストに「Fed and emerging market」と題する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
先日、キリン ホールディングスがブラジルの現地子会社の損失(業績と為替差損)によって2015年12月期の決算が「1949年の上場以来、初めて赤字になる見通し(従来予想の580億の黒字から560億の赤字)」と発表され、驚かれた読者の方も多いと思います。 この記事に代表されるように、今年は、エマージング マーケットで大損をした企業も投資家も多かったのではないでしょうか。
そもそもエマージング マーケットには2010年から2014年にかけてアメリカの量的緩和政策によって、月平均でUSD22bnの資金がエマージング マーケットに流れ込んでいましたが、今年に入ってその資金の流入は止まり、逆に11月までの5か月の内、4か月は資金が流出し、11月単月ではUSD35bnもの資金がエマージング マーケットから流出しました。
また、BISによれば、2015年半ばのアメリカ国外における銀行以外の借入残高はUSD9.8兆ドルに上り、その主な貸し出し先は、当然のことながらエマージング マーケットの国々や企業であり、今回、Fedが政策金利を引き上げたことで、当然のことながら彼らの借り入れコストも上昇し、それが国の財政や企業業績を圧迫しています。
更に、これによってエマージング各国通貨も大きく売られ、現在の水準は2002年後半の水準にまで下落し、1990年台後半の通貨危機の水準を試そうとしています。そして、エマージング マーケットの株価指数も今年に入って15%下落し、2008年のリーマンショック以来の安値となっています。
その一方で、今回のアメリカの政策金利引き上げを既に織り込んでいて、もうこれ以上下がらないエマージング マーケットもあります。 例えば、マレーシア リンギや ロシア ルーブルは、過去2年間でそれぞれ25%と50%も下落していたために、ここにきて下げ止まり感が出ています。 こうした事からエマージング マーケットのアドバイザーJonathan Andeson氏は「2016年はエマージング マーケットが安定化に向かう年になるかどうかが大きなテーマになるであろう」と指摘しています。
また、IMFも、これまで5年間連続で低下していたエマージング各国の経済成長率は、2015年の+3.9%から2016年には+4.5%に上昇すると見込んでいます。 しかし、だからと言って、エマージング マーケットが、今後、急速に輝きを取り戻すわけではない。 むしろ、これまで激しかった景気後退が緩和される程度である。 もし、これに該当しないとすれば、それは政治家の汚職と財政規律を失って混迷しているブラジルとロシアぐらいであろう。
中国に関しては、これまでの資源価格の高騰を背景にした「黄金の成長期」は既に終わりを告げ、これまでのような経済政策(Citi BankのDavid Lubin氏によれば「壊れた成長モデル」)では、もはや中国の経済を刺激することは不可能である。何故ならば、貸し手は中国政府が抱える巨額の借金に耐えられない。 また、企業も自らの巨額の借金にこれ以上耐えられないからである。 また、輸出も景気浮揚の助けにならない。と言うのも輸出企業の多くは、鉱山商品価格に大きく依存しているからである。
その一方で、マレーシアや南アフリカのように鉱山商品に大きく依存している国でも、中国ほど大きくダメージを受けていない国もある。 しかし、こうした国々は、これまでアメリカ経済の恩恵を最も受けていない国々なのである。
英誌エコノミストは、最後に「今回のFedの政策金利引き上げは、彼らにとってはむごい冗談に聞こえたであろう。そして、今後の彼らは地面に這いつくばることになるであろう(アメリカを中心とした経済成長から取り残されるであろう)」とコメントしています。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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