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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2015/11/17 06:00  | 昨日の出来事から |  コメント(1)

日本的解決?!


おはようございます。

先週号の英誌エコノミストに掲題と称して、日本経済に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

(抄訳)
副題「安倍晋三氏の努力にもかかわらず、日本経済は混迷に突入しようとしている」

ノーベル経済学賞を受賞したSimon Kuznets(サイモン クズネッツ)氏が、現在の世界を4つのタイプの国に分けるとすれば、一つは先進国、もう一つは先進途上国、3つ目は(財政破綻した)アルゼンチン、そして最後が(財政が悪化しているにもかかわらず財政破綻しない)日本とするであろう。 現在、多くの先進国にとって、日本は長引く低金利と低インフレの中にあって、その財政赤字は水平線にまで広がっているように見える。 そこで多くの政府は、2012年に経済再生を打ち出して就任した安倍晋三首相が行って経済混迷の取り組みを非常に注意深く見守っている。彼のタスク(職務)は、多くの観点からみて非常に厳しい。 何が必要であるかいえば、それは単に成長だけではないが、それでも十分に早く成長することがこの巨大な公的債務を何とかすることが出来るのである。

安倍氏は、景気拡大の3本の矢、即ち財政、金融、そして構造改革を約束し、前政権の中途半場な政策以上に強力な政策を打ち出した。 そして今年の9月には、最終目標を明確にし、過去20年間に亘り殆ど変らなかった現在の日本のGDP500兆円を20%引き上げて600兆円にする事とした。

安倍氏の矢は、経済を正しい方向に向かわせ、インフレ調整前ベースで2012年以来6%の国内総生産を拡大させた。その半分は価格上昇によるものであり、失業率はそれまでの4.3%から3.4%に低下させた。しかし、この程度の成長だけでは、恐ろしいほどまでに不十分であり、景気の回復は止まり、今年の第2四半期の成長はスランプに陥った(尚、11月16日発表の第3四半期のGDPは-0.2%と2期続けてのマイナスであり、経済学的にはリセッション(景気後退)となっています)。そして、物価は再び下がり、日銀によって作成された「新しいコアインフレ指数」ですら、2%の目標水準に届かず、金融政策の正常化は果てしなく遠のいてしまっている。 更に、日銀は、10月30日の政策決定会合で、市場からの資産買い入れ増額をしなかったことで市場を失望させた。 しかし日銀は、現在も市場から年間80兆円の国債を買い続けており、今後、インフレが低下すれば、更に追加で買うかもしれない。

一方で、日本の国債はGDP対比で240%以上に上り、世界で最も高い水準であり、現在も増加し続けている。これに対し、債券市場は(金利が上昇することなく)非常に我慢強く推移し、30年債の利回りは1.36%と異常に低い水準に留まっている。この背景の一つには、驚異的な貯蓄者である日本人が多くの債券を保有していることがあり、その残りを中央銀行が保有しているからである。しかし、現在のように借金のやりたい放題の状態が永遠に続くと考えているエコノミストはほとんどいない。と言うのも、今後は、多くの日本人労働者が退職して国内貯蓄は低下し、高齢者の支出が増加するからである。 よって、緩やかな金利上昇でも、今後は破産が増加する可能性がある。

安倍氏は、早い経済成長への回帰が、財政緊縮を究極的に回避させることができると期待しているが、一方で倹約の圧力がそれを悩ましくさせている。 と言うのも、今年の日本の構造的な財政赤字はGDP対比で5%以上もあり、財政には自ずと限界があるからである。更に2014年4月に5%から8%に引き上げた消費増税後、家計支出とGDPは急落し、政府は当初予定していた2015年10月の8%から10%への消費税引き上げ時期を延期せざるを得なくなった。この経験が、消費税の緩やかな引き上げを悩ませている。2013年にアナリストが行った試算では、日本の財政を安定化させる為には全ての消費に対する30%~40%の税収が必要であり、それを消費税に換算すると消費税はなんと60%となる。別の試算では、そこまで厳しいものではないが、いずれにせよ、債務を安定化させるためには、想像を絶する厳しい手段が必要であることを示している。

いずれにせよ、現在の成長率では、大幅な税収であろうが、支出の削減であろうが、日本はリセッション(景気後退)にまっしぐらである。ましてや、より早い成長を生み出すなど無茶な命令である。(出来ることがあるとすれば)それは、供給サイドの改革を積極的にやることである。日本は、最近でこそ、(TPPなどで規制緩和を)妥協し始めているが、農業や車など、自分にとって都合のいいセクターをあまりにも守ろうとし過ぎである。そして日本における生産性の改善に対する視点が、過小評価され過ぎである。 実は日本人一人当たりの実質生産は、ドイツやオランダとさほど変わらない。だから、今後は、より多くの移民の受け入れが経済成長の助けになるのである。というのも最近の一人当たりの生産の拡大は、日本の人口減少によって相殺されているからである。 2012年における日本への移民数は、アメリカの全人口の1.6%に対して同0.3%に過ぎないにもかかわらず、安倍氏は、新しい労働者の受け入れを急ぐことに殆ど関心を示していない。

「価格が間違っている」
(こうした状況を抜け出す)唯一の方法は、高いインフレ率しかない。もし、名目経済成長率が1992年以来ずっと2%であったとすれば、現在の日本のGDPに対する財政赤字の割合はちょうど82%となり、この水準はアメリカのそれと殆ど変らない。しかし、(現在の日本においては)賃金や物価を上げるのは非常に困難であった。過去において日銀だけが国債の保有割合を23%から32%に増加させてきたが、低い失業率、円安、株価上昇にも関わらず、安倍政権時代は、インフレ率が殆どゼロ%近辺で推移したままである。 もし、マーケットが信じるならば、より大胆なインフレ ターゲット、例えば4%のインフレ ターゲットが必要かもしれない。 しかし、去年の1月に採用されたインフレ ターゲット2%達成に失敗している日銀は、より大胆な行動を起こすことなくして、より大きな約束が出来るほど市場からはもう信用されていない。

そして、今や、日本は(デフレ脱出の)選択肢すらなくなりつつある。現在のペースで日銀が市場からの国債買い入れを続ければ、2020年までには全ての国債の3分の2を保有することになり、もし、その買い入れ額が年間100兆円になれば、 2026年には日銀が殆ど全ての国債を保有することになる。 この時点で、政府は実質的にはその全ての債務を日銀自身に頼ることになる。 これは、即ち、政府が支払った金利が、日本銀行から全て通貨発行差益(seigniorage)として還流することを意味する(債務のマネタイズ(monetise:貨幣化))。

この債務のマネタイズ(monetise:貨幣化)計画は、経済学的には「狂気の沙汰: economic insanity」と定義され、正統な経済学者は、ハイパー インフレを引き起こすことは避けられないと指摘している。しかし、これまで20年以上に亘り、むなしくも日本が求めてきたインフレが、(形こそ違え)ハイパー インフレで引き起こされるなら、あるいは、財政破綻を辛抱強く待ち続けるしか他に選択肢がないのならば、この経済における「狂気の沙汰も」それほど悪いことではないように思われる。何故ならば、僅かな抵抗をし続けるよりも利点もあるからである。

と言うのも、もし、日本がこの途を辿るならば、あるいは、知らず知らずの内にこれに陥ったならば、他の国の政府が、ハッと我に返ることが想像できるからである。マネタイゼーション(monetisation)とは、経済リスクのパンドラの箱を開けることなのである。 しかし、残念なことに、最近の経験則によれば、今、日本が進んでいる途を、他の国も結局は追随しているのである。

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One comment on “日本的解決?!
  1. パードゥン より
    イギリスの始めた植民地政策の恐ろしさ

     どうやら、移民は先進国による労働力の安価化による
    搾取であり、結局、社会的なコストを増大させる事に
    なるトロイの木馬、その悪処方箋を振りまきながら
    自身はそれを知り移民を拒否する英誌エコノミストの母国
    というのはどういう国であり、文化であろうか?
    何故スコトッランドは独立したがり、アイルランドの歌は
    日本人の心に染み渡るのか

     2,3世紀も前に他国より財産、資源の搾取の限りをつくし
    現在の移民の供給元といえる崩壊していく国々をつくった
    英誌エコノミストの母国だけが中・英帝国として
    復活するという事を神は許されたもうのか?

     日本は台湾、韓国を経済自立国として残した。
    他の国々をそうすれば、日本の製品をかってくれて
    国債借金を返済できる

     

     

     

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