2015/10/20 05:56 | 昨日の出来事から | コメント(1)
支配的、かつ危険な通貨
先々週号の英誌エコノミストに掲題と称して、米ドルの特集が組まれていましたのでその抄訳をご紹介したいと思います。
(抄訳)
「アメリカ経済に陰りが生じ、ドル優位性の持続維持が不可能になりつつある」
もし、覇権国が何かにつけ都合がいいとすれば、それは彼らが支配しているシステムに対して安定性を授与している事である。過去70年に亘り、米ドル(以下ドル)は、金融および通貨システムにおいて強大な力を保持してきた。(このように言うと)中国元が成長していると指摘する人もいるかもしれないが、ドルの優勢にはかなわない。支払いの手段として、店の代金から資産の保全に至るまでどの通貨もドルには対抗できない。 しかし、その一方で、ドルの支配には脆い基盤を持っており、更には、それを支えているシステム自体が持続維持不可能な状態になっている。更に、悪いことに、現在はドルに取って替わる他通貨が不在なのである。つまり、(ドル以外の)より安全な通貨への移行が極めて困難なのである。
「いつ、ドルの優位性が止まるか?」
何十年もの間、アメリカ経済の強さによって、ドルは全ての通貨の中で最高の地位を確保する事が出来た。 しかし、今週号の特集の中でもあるように、アメリカ経済の影響力と金融実態との間に亀裂が広がってきている。 現在のアメリカは世界のGDPの23%と世界の貿易の12%を占めているが、世界の生産の約60%と世界の人口のほぼ同じ割合である60%の人々が事実上ドルを利用して暮らしており、彼らの通貨はドルにリンクし、あるいは、悲しかな、否が応にもドルと共に動いているのである。 そして、国際的に活動するアメリカ企業の投資の割合は、1999年の39%から現在は24%にまで下落しているが、ウオール ストリートの影響力はこれまで以上に強大になっているのである。 というのもアメリカのファンド マネージャーは、10年前は世界のすべてのファンドの内の44%を運用していたが、現在はその55%も運用しているのである。
このようにアメリカ経済とその金融パワーのギャップの拡大は、他の国々、たとえ、その国がドルの影響下にあろうがなかろうが、様々な問題を引き起こす。 そして今や、ドルの優勢を維持する為のコストが、ドルを利用する恩恵以上になり始めているのである。
その問題の第1は、(発展途上国の)経済が(Fedの利上げなどの)悪い行動に耐えなければならないのである。最近、取り沙汰されているアメリカの政策金利引き上げの見通しによって発展途上国から資本が引き上げられ、その国の通貨や株が叩きのめされている。FRBの決定は海外にある約9兆ドルの預金や債務に影響を与え、 いくつかの国々の通貨は、ドルとリンクしているので、これらの中央銀行は、Fedの決定に合わせて自らの金融政策も行動しなければならないのである。 例えば、インドネシア、マレーシア、メキシコ、南アフリカ、更にはトルコのように、自国国債の20~50%を保有している中央銀行は、アメリカが政策金利を引き上げた際には、自国の国債も売らなければならなくなるのである。
一頃、Fedが最初に政策金利を引き上げた際には、(自国通貨が安くなるので)輸入も含めた国内需要が増加するので、資本流出の痛みは緩和されるとの議論があった。 しかし、過去、10年間において、アメリカの世界貿易に占める割合は16%から13%に下落し、また、1994年には世界の44か国が、アメリカが最大の貿易国であったが、今は32か国まで低下している。その代わりに中国が1994年の2か国から43か国まで台頭しているのである。(こうした状況下で)Fedが施した政策の一つ一つによって、そのたびに世界が激震するような今のシステムは不安定なのである。
2つ目の問題は、金融危機が生じた際には、海外で流通しているオフショア ドルのアメリカへの還流防止措置が欠如している点である。2008~2009年の世界金融危機の際、Fedは「最後の貸し手」として外国銀行や中央銀行を救済するために1兆ドルの流動性の供給を躊躇ったことがあった。 将来的に、再び同様の危機が起これば、前回以上の流動性の供給が必要となる。何故ならば、現在のオフショアのドルの残高は、2007年当時のほぼ2倍にまで膨れ上がっているからである。更に、2020年までには、その数はアメリカ国内の銀行全体と同じぐらいまで拡大する可能性がある。 しかし、その一方で、2008~2009年以来、アメリカ議会はFedの緊急貸し出しについて懸念を表明しており、将来の金融危機の際には、Fedが設定している巨額のスワップ ラインが規制当局あるいはアメリカ議会によって抵抗を受けるかもしれない。 その際、世界の国々は、アメリカの歪んだ、そして機能しない政治に世界の金融システムが振り回される状態に、一体、どれほど付き合われるのであろうか。
この疑問が、3つ目の問題にかかわっている。 今や、アメリカは自らの金融システムの影響力の強さを政治的手段として積極的に利用しようとしている。アメリカの政治家や検察当局は、ドルの支払いシステムをいかがわしい銀行や(FIFAの)汚職に手が汚れたサッカーの役員だけでなく、ロシアやイランなどの正気を逸脱した国々を支配する手段に利用している。 アメリカのライバルの国々は、こうしたアメリカの海外政策に対する身勝手さ(いい加減さ)にうんざりしている。
アメリカにすれば、「これの何が問題なのか?」と訝しる(いぶかしる)かもしれない。確かに、彼らにすれば、いかなる国の通貨もドルにリンクさせようと強要した事もなければ、海外の企業にドル建てで債券を発行するよう勧めたわけでもない。 しかし、いまや自らの力量を越えたドルの通貨として 役割は、アメリカ自身にも影響を与える。確かにドルは、彼らにとって安い調達だけに留まらず、様々な恩恵をもたらす。 しかし、準備通貨としての極端な特権が増大するにつけ、そこにコストも発生してくる。 もし、ドルの流動性危機の際に、Fedが「最後の貸し手」としての役割を果たすことに失敗すれば、海外の国や銀行の破綻は、自国経済にも跳ね返ってくるのである。そして、たとえ金融危機がなくとも、ドルの優勢性は、アメリカの政治家たちにジレンマをもたらす。例えば、もし海外の国々でドルの準備金をこのまま積み上げていけば、2030年までに海外の国や銀行がアメリカの国債市場を買い占めてしまうのである。 そこで、安全なドル優位性確保の需要にこたえる為に、アメリカ政府は、自らの債務以上の国債を発行しなければなくなる(不必要な借金をする必要が出てくる)。あるいは、海外の国や人々に国債の資産を買わせるよう仕向ける必要が出てくる。その際には、2000年代に見たような資産バブルが起こる可能性がある。
こうしたことからも、理想的には、アメリカはドル以外の他の通貨に、現在抱えているドル通貨としての重荷を負担するべきである。 しかし、ドルの覇権(優位性)はこのように不安定であるだけでなく、妥当な後継者もいないのが実情である。 かつて、金融の覇権は、アメリカが1920~1945年にかけてイギリスを追い越した時、イギリスからアメリカに移行された。 しかし、このときは、イギリスとアメリカは同盟国であったために、その移行は粛々と行われ、アメリカはなるべくして通貨の覇権を得た。即ち、当時のドルはかつてのイギリス ポンドのように、経済規模、安定した政治、そして法の支配を兼ね備えていたのである。
今日における「通貨の準備金」の観点から他の通貨と比較してみよう。ユーロは、その存続そのものに保証が得られていない(ギリシャ問題で露呈したユーロ通貨崩壊の可能性を抱えたまま)。ユーロは、域内の完全な銀行システムの統合と、域内の国債を共同で発行出来た時、準備金としての通貨の問題点が完全に払しょくされる。 人民元については、中国政府が、道路でいえば8車線のような巨大な通貨スワップのネット ワークを作ったが、現時点ではどの国もこれに参加していない。 中国が金融市場を開放するまでは、人民元は単なる1通貨に過ぎないのである。 更に、中国政府が通貨の法の支配を受け入れるまでは、どの投資家も人民元を「真に安全である」と見なさないであろう。
以上からもわかるように、世界の通貨及び金融システムは、ドルをそう簡単には手放さないであろう。 このことは、アメリカにとって、より多くの中央銀行との緊急スワップ ラインの設定などのより大きな責任を抱え込むことを意味する。 この問題に対するより現実的な解決法としては、他の国がドルの資本コントロールを自己負担することに酔て、Fedの決定から他の国々の金融システムを防護するシステムの分担が必要である。 今、ドルには仲間がいない(ドルと対等に渡り合える通貨がない)。 しかし、もはやドルを支えているシステムは、亀裂が入り、広がりつつある。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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One comment on “支配的、かつ危険な通貨”
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ユーロも元も、一度に問題を解決するのでなくて
問題がでる度に改善をして長期的には広域通貨として
強化されるのでは?
むしろ問題は、ポンドのような気がしますが
何も触れていませんか?