2015/10/08 05:17 | 昨日の出来事から | コメント(0)
何もしないことは、何かをするよりいいことか?!
先々週号の英誌エコノミストに サブタイトルとして「先進国をゼロ金利政策から解放されるためには、(現在の量的緩和政策で)ひたすら我慢するより、新しい政策を取る必要がある」と題した記事がありましたのでご紹介したいと思います。
(抄訳)
時として何もしないことは何かをするよりいいことがある。 FRBが9月17日に2008年以来続けてきた現在の政策金利を据え置いたことは正しい選択であった。 米インフレ率が、FRBが目標としている2%を大きく下回っている事、更には、中国経済の失速が拡大している中、(米政策金利の)引き上げは、不要なリスクがあったからである。
Fedのイエレン議長は、10月、更にはその先にかけて、今回と同様に難しい選択を迫られるであろう。その一方で、金融市場は、ゼロ金利をいつ解除しようとも、今後、数年にわたり歴史的な低金利が続くとみている。即ち、これまでの非伝統的な金融政策の時代はまだ終わらないのである。 もし、先進国の中央銀行が、彼らが渇望している(金融政策を)中立化に戻したいならば、現在の標準となっている政策手段では十分ではないかもしれない。今こそ、もっと大胆な政策を、特に、(これまでの政策であった)インフレ ターゲットの考え方について考える時が来ている。
何故ならば、現在の経済情勢は、一般的に言われているインフレと雇用の関係が壊れているように見えるからである。 経済学者は、足元的には、これら2つの関係(インフレと失業率)は反対に動くと考えている。 つまり、失業率が高ければ、物価は下がり、反対に失業率が低下すれば、賃金上昇によってインフレ率は上昇しければならない。
しかしながら、多くの先進国において、この標準的なインフレ調節機能がうまく機能していない。 2008年には経済成長率が急落し、失業率は大きく跳ねあがった。 にもかかわらずインフレ率は目標とするインフレ率を僅かに下回ったに過ぎなかった。 そして、今、失業率が著しく低下したにもかかわらず、インフレ率は奇妙なほど低いままである。これが中央銀行に不意打ちを食らわせているのである。 物価の上昇は、雇用のブームに支えられて激しくなるものであり、Fedもイングランド中銀もこれまでの過激な国債買い入れ政策をやめ、政策金利引き上げの準備に入ると考えられてきた。 しかし、彼らは、失業率が下がっても殆どインフレがゼロであることに気付くのである。 それどころか、市場金利がゼロに近い水準で推移しているために、インフレ リスクを見誤って早く金融政策を引き締めた際には、もう政策金利を引き下げる余地が殆ど残っていないのである。 以上の点から、インフレを越えた政策、そして、それに代わるターゲットNGDP(nominal GDP)を考察することが意味を持つのである。
「名目的かつ実質的な(ターゲット)」
ターゲットNGDP(インフレを考慮しない毎年の経済活動によって得られた全ての所得の合計)は、 実はそれほど過激な議論ではない。というのも1990年代にインフレ ターゲットが一般的になる前には、この考えは(経済政策の)妥当な政策選択肢の一つであったからである。 例えば、ターゲットNGDPでは(現金所得で例えると)、安い輸入は所得を増加させ、成長を押し上げる。 その一方で、物価を押し下げるが、今の中央銀行のやっていることは、これら2つのことを同時に押し下げている。また、ターゲットNGDPは、債務者の経済状態の健全性にとって現行のような「インフレかそれとも成長か」と言った政策よりもより重要である。 何故ならば、債務は「現金」と言う額面で固定されているからである(デフレ時には、「現金」で固定されている債務は、実質的に債務が増大するからである)。
一方で、批評家は「NGDPは、指標の中身の見直しについて測定が困難であり、しかも世間一般的に全く人気がない」と憂慮する(かつて、NGDPを見ながら金融政策を決定するプロセスは、市場参加者にとって非常にわかりにくかった為)。 しかし、もしNGDPが期待を裏切らないものであれば、所得の成長も裏切らない。 確かに、インフレは簡単に計測することが出来るため信頼しているが、今、中央銀行は、労働市場の殆ど霧のような数字である「ゆるみ(失業率)」も同様に信頼している。 最も大切なことは、NGDPの導入によって、中央銀行をこの壊れたインフレ計測(失業率をインフレと同様に信頼する事)によって引き越された混乱から解放する事である。 今、中央銀行がやらなければならないことは、失業率の下落に対してインフレをどう考えるかであり、市場が彼らの考えていることに対し、どう予想するかを考える事である。 NGDPのターゲットは、成長の予想(ここでは雇用)とインフレの予想を区別することを必要としない。
では、実際問題として、NGDPターゲットの意味することは何であろうか。 殆どの経済は名目所得の成長において、景気後退期前夜には大きく下落する。 2008年の金融危機以前ではアメリカでは5%のNGDPが通常であると考えられていた。 しかし、2006年以降そのペースで成長していたとすると、アメリカ経済は2008年にあるべき国民所得対比16%も下回っていた。 イギリスでも同様に15%も下回っていた。 EUや日本は更に下回っているのである。 このような実体経済の下振れが大きい程、これを早急に回復することは不可能である(これを埋めるためには、危険なほどのインフレが必要となる)。 そして、現在の足元の傾向においてすら、先進国の経済はこれを下回る傾向にある。 現在、好調なアメリカのNGDPですら2010年対比で予想される成長率を5%下回っている。 高いNGDPは、より高い生産性と、より高い、もしくは、より早いインフレ率にとって実現可能となる。 即ち、全ての先進国において、現在の金融政策ではまだ成長が足りないのである。
今後、これまでとは違った金融政策のターゲットを掲げたからと言って、中央銀行がいとも簡単にこれを達成出来るとは思わないが、もはや、現在の彼らの非伝統的な金融政策手段は既に使い果たした感がある。ヨーロッパや日本で、今もって使われている量的緩和は、もはや資産価格の上昇(バブル)を誘発し、好ましくない方向に陥ろうとしている。 また、市場金利は、通貨本来の性質を根本的に変える以外にゼロ金利を下回って金利を大きく引き下げることはできない(イギリス中銀のチーフ エコノミストは、ゼロ金利以下に金利を引き下げる為に現金を除外することを提案している)。 このように、今後、正しいターゲット(NGDP)を設定することは重要なスタートになる。 これまでのように、インフレ率がいつかは上昇することを我慢強く待つことは、もはやいいことではない(何もしないことは、いいことでない。何かをやらなければならない)。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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