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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2012/11/27 06:11  | 昨日の出来事から |  コメント(2)

最低賃金引き上げの有効性と、日本の「社会的いじめ」問題


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに「緩やかな最低賃金の引き上げは、有害以上に有益である」と題した記事がありましたのでご紹介したいと思います。

そもそも最低賃金制度を国の法律で初めて導入したのは、ニュージーランドで1894年のことでした。以降、世界各国で最低賃金政府度が導入され、アメリカでも1938年に導入されましたし、 先進国で唯一導入してこなかったドイツでさえ、遂に導入される運びになりそうです。

ちなみに、先進国の最適賃金が、その国の平均的賃金に対して最も割合が高いのがフランスで、平均的賃金に対して60%の最低賃金が義務付けされています。 ついてニュージーランドの59%、 オーストラリアは54%、イギリスで47%、カナダでは45%の最低となっています。 先進国で最低賃金の割合が低いのはアメリカと日本の39%となっています。

ところで、最低賃金制度の導入の是非を巡っては、基本的には多くの経済学者は最低賃金導入には反対で、「最低賃金の導入は、人件費を増加させる為、企業家はこのコスト増を雇用者数の削減によって調整し、更には、最低賃金に見合わない労働者のコスト増は生産性を落とし、生産効率が悪くなる」と主張してきました。 特に、1990年ごろまでは、「年齢の高い労働者に対する最低賃金は、若者に対する雇用機会を圧迫し、若者の失業が増える要因」と指摘されてきました。

その一方で、少数の経済学者は、「ある程度の独占的な市場支配力のある企業においては、最低賃金制度の導入は、雇用と賃金の両方を増やすことが出来る」可能性を指摘してきました。 寧ろ、この最低賃金の導入は、経済学者による主張というよりも政治的な要請で社会格差の是正と社会秩序の安定といった側面から最低賃金制度が導入された経緯があります。

以上のように、これまでこの問題に関しては長い論争が続いてきましたが、最近のIMFやOECDなどのシンク タンクの調査結果によれば、「平均賃金の30~40%程度の緩やかな最低賃金設定は、経済によって有害であるよりも寧ろ有益である」との見解に固まりつつあります(逆の言い方をすれば、将来的に財政危機に直面することが予想されるフランスの最低賃金が平均的賃金の60%と非常に高い水準にあることは、有害であることを暗に示唆しています)。

ところで、日本では、「我が国の最低賃金の水準が世界的に低い」といった本質的な議論が、とんでもない処に飛び火して「最低賃金が低い為に生活保護受給者所得を下回る“珍現象”」が社会問題となり、この「とばっちり」を受けて、今度は生活保護受給金削減に議論が進展し、更には、割合的には少ないにもかかわらず生活保護不正受給問題をマスコミが大きく取り上げることで社会的な感情論を巻き起こして、本来なされるべき議論が全く違う方向に歪曲させられてしまっています。 

本来、最低賃金労働者も純粋に生活保護を必要とする人も共に社会的弱者であり、何らかの助けを必要としていている人々であるにもかかわらず、(マスコミ等に煽られて)相手の不都合や一部の不正受給者をお互いに暴きあって足の引っ張り合いをしている日本の現状に対して、私は非常に大きな違和感を覚えます。
これでは、まるで「学校のいじめ問題」よろしく「社会のいじめ問題」ではありませんか?!

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2 comments on “最低賃金引き上げの有効性と、日本の「社会的いじめ」問題
  1. ペルドン より
    最低賃金制

    これは・・
    今度の選挙で・・一つの柱になる・・のでは・?

    首相が・・
    自分を政権につけた・・公約を・・公然と破棄するどころか・・
    新たな重税も課せば・・本来なされるべき議論・・当然・・消滅・・
    必然・・
    金に弱い・・マスコミも・・危うくなる・・
    木鐸・・木魚に・・変わり・・変節・・ただ・・五月蠅いばかり・・・

  2. 千林豆ゴハン。 より
    Re; 今度の選挙で・・一つの柱になる・・のでは・?

    選挙とかいろいろ忙しいんで、手短に。

    いい線、突いてますね!!!

    自由民主党公約(案)について安倍晋三色が濃すぎるという批判、世間か
    らの批判もそうですがとりわけ自由民主党内部からの、は尤もでして
    それは経済政策分野では無くて(本来、経済活動の重要な部分である)
    「社会保障」政策分野で、あまりにも安倍晋三の独り善がり色が色濃く出
    過ぎているのです。

    あれは、本来の自由民主党が掲げる党公約では、決してありません
    (説明は、追々)。

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