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2012/06/27 05:49  | 昨日の出来事から |  コメント(11)

外国から見た日本の消費税引き上げ


おはようございます。

今週号の英誌エコノミストに昨日成立した社会保障と税の一体改革法案の中の消費税引き上げに関する記事がありましたので、ご紹介したいと思います。

ご存じのように、今回の消費税の引き上げは、1989年に初めて消費税が導入され(当時は3%)、 1997年の橋本内閣の時に消費税率を5%に引き上げて以来、15年振りとなります。これまでのジンクスによれば、消費税の引き上げは、政治家にとってはタブー中のタブーとされ、今回の引き上げは前回の総選挙では消費税の引き上げを行わないことをマニフェストに掲げておきながら、それを裏切る形での消費税引き上げを決定した為に更なる物議をかもし、当の民主党は、昨日の採決結果を受けて事実上の党分裂状態に陥りました。

このように民主党の事実上の党分裂までしてようやく衆議院で可決した日本の消費税引き上げ法案ですが、それとても、法案の中に2014年の景気次第では先送りする可能性(景気弾力条項)を明記しており、この時期が選挙に重なれば、消費税の引き上げをいくらでも先送りできる仕組みになっています。 英誌エコノミストは、これを「政治家の裁量の余地を大きく残した(問題の多い)法案である」と懸念を表明しています。

更に、「仮に法案通りに消費税が2015年に10%に引き上げられても、それでもヨーロッパの消費税20%に比べればまだ半分である」と財政再建の対する取り組みが弱い事も指摘しています(ただし、これは、「日本の税制と社会保障」の内容とヨーロッパのそれらとは違うために一概には言えません)。

もう一方で、よく議論されることに、「消費税の引き上げが本当に景気を押し下げるのか?」の議論があります。 確かに1997年に消費税を引き上げた後、日本の景気は一気に冷え込み、税収は急速に減少した為、これを補い、更に景気を下支えする為に当時の小渕内閣は大量の国債を増発しました。

このことがGDP対比200%といった今の大借金財政につながりましたが、学術的には、1997年の消費税上げによる日本の景気に対するマイナス効果は、一家計あたり一か月で500円程度に過ぎず、1997年の消費税引き上げが景気の足を引っ張った確証は得られていません。 むしろ、1997年以降の景気後退は、「アジアの通貨危機」と「日本の不良債権問題が本格的に表面化こと」が最大の要因であったのというのが定説になりつつあります。

野田内閣も、こうした考えの下、今回の消費税引き上げで得られる増収分を、社会保障の安定化に振り向けるとしていますが、「(今回の消費税の引き上げだけでは)残念ながら、地獄(第2のギリシャやスペイン)に転がり落ちる可能性を止めるまでにはならない」と英誌エコノミストは締めくくっています。

幸いなことに、日本が地獄に落ちる日は、市場のコンセンサスによれば、その真偽はともかくも、あと数十年先のことのようですので、私たちは、それまでは続くであろう超円高や日本国債の超低金利をこれ幸いに、私たちの出来る範囲で「きたるべき日」に備えたほうがよさそうです。

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11 comments on “外国から見た日本の消費税引き上げ
  1. パードゥン より
    メカニズムを説明せずに、専門家の定説と逃げるのは不快です

     どの分野でも、本当に理解している人は素人向けに簡単に説明をする事もプロ向けに詳細にも説明ができるものです。できなければ実証結果がすべてです。原子力でも専門家の定説として素人に口を挟ませなかったように思います。 防波堤の高さがちょっと低かっただけだから本当は安全だったから、再開ですよね。 消費増税も本当は失敗でなかたら又、増税してみるというのですか?
     3%の消費税導入の時に、もう上げないという竹下さんの約束を引用する新聞はもはやなく、橋本政権の第1回目の消費増税の失敗が失われた日本経済の起点と思ています。 その前は今のアメリカのように復元の可能性の残っていて必死にバランスしていた時代と思います。 定説とは例えば、党によらず約束を破った訳ですから”政治家は嘘を言う職業”というように実証されたことだけに言うべきと思います。
     

  2. 前橋 より
    バードゥン 様

    いつもお世話になります。

    貴重なご意見をいただきありがとうございます。

    ただ、私の経済学の浅学さを曝け出すようで恐縮ですが、「経済政策においては、政策の中身とそのタイミングが非常に重要である」ということを大学時代に学びました。

    つまり、どんな状況でも「ある一つの政策を打ち出せば、同じ効果が得られるか?」といえば、社会学(特に経済学)では、そうではないということです。

    一般的には、消費税を引き上げることは、景気の需要を押し下げ、景気の足を引っ張ります。
    しかし、そのタイミング次第では、その足を引っ張る度合いが少なくて済むこともありますし、逆に、当初、予定した以上の景気の悪化を招くこともあります。

    こと、1997年の消費税上げに関していえば、これをマクロ分析すると、1家計当たり、月額500円の経済的なマイナス効果であったと試算されています。

    しかし、実際の1997年以降の景気後退は、それ以上の大幅な景気後退でしたので、その理由は、ほかの要因にあったということになります。英誌エコノミストはこの点を指摘しています。

    尚、消費税引き上げの経済政策と、その政策を実行する政治プロセスの正当性の問題は別で、バードゥン様もご指摘のように、今回の消費税引き上げ法案の可決は、明らかに先の総選挙で国民に約束したマニフェスト(公約)違反であることは間違いありません。

    貴重なご意見、ありがとうございました。

    前橋

  3. green より
    信用や信頼

    はじめまして
    いつも楽しく拝見しています。
    経済政策の面では確かに過去の検証からそう導き出せるかもしれませんが、国民目線では経済政策のみでは済まされないのが現実ですよね、経済政策の「中身」、「タイミング」、それと政治への「信用」、この3つが揃って成り立つ気がします。不信の前ではどんな優れた政策も無力ですからね。
    今回の民主党は森を見ているようで木しか見ていなかったことになりますね。

  4. ycom より
    初歩的な質問ですが

    >>学術的には、1997年の消費税上げによる日本の景気に対するマイナス効果は、一家計あたり一か月で500円程度に過ぎず

    今まで景気を通貨の実数で数値化したものを見たことがないので参考までに教えてください。
    当時の景気は何円で、増税後に何円に下がったのですか?
    論文でも結構ですので参照元を教えて頂けないでしょうか。

  5. 前橋 より
    ycom 様

    いつもお世話になります。

    お尋ねの件ですが、手元にそのものはないのですが、確か、日経新聞の経済教室の中で神戸大学の先生が論文を出されていました。

    また、JMMの中で慶応大学の土屋教授も同様の記述をされていたと記憶しています。

    記憶相違であればお詫びします。

    よろしくお願いします。

    前橋

  6. ycom より
    ご返事ありがとうございました

    前橋さま、
    ご提示のキーワード元にネットで開示されている情報を調べてみました。(少し長文)

    景気の数値化ではなくて 家計の消費減は500円程度 という話ですね。

    慶応大学 土居氏? ←JMMに寄稿してる人
    神戸大学の人は多分 宇南山准教授ですね。
     http://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/11e045.html

    宇南山氏は消費税の影響は1年以内に終わった、それ以降の景気減速は別要因と決め付けないですか?(実際に銀行破たんがあったんで無条件に以降の消費税の影響を切り捨ているように見えます)

    国会の公聴会での消費税論戦におもしろいのが有りました。
     増税は素晴らしい(同 土居氏) v.s.増税は馬鹿だ(藤井氏)
     土居氏は公聴会でも消費税の消費減-500円と言ってます。
     予算委員会公聴会 – 1号 平成24年03月22日
     (議事録は国会HP http://kokkai.ndl.go.jp/)

    発言だけだと分かり難いので同公聴会における藤井聡氏の反論資料
    http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/images/stories/PDF/Fujii/201201-201203/presentation/20120322councillors.pdf

    藤井氏の反論は景気への影響はボディブローのように数年におよぶ(三年殺しの必殺業だぁ)と。
    現国会議員はどちらが正しいかを日本経済で実験することに決めました。。
    でも、もし減速がつづいたら、消費税は無関係で今度はEUの信用不安のせいだとか新たなる「経済学の定説」が出てくるのでしょうね。

  7. Cilon より
    500円とはまた・・・

    あまりにも胡散臭くて面白そうなので、記事を探してみました。
    発見!

    (以下引用)

    2011/10/18付 日経新聞
    (試練の財政・金融政策)(中)消費増税、景気に影響軽微
    宇南山卓 神戸大学准教授

    消費税引き上げが消費に与える影響は、二つの側面がある(上の図を参照)。一つは異時点間の代替効果である。消費税アップによる将来の物価高が予想されれば、消費者は引き上げ前に支出を増加させ、引き上げ後の支出を減らす。いわゆる駆け込み需要と反動減だ。もう一つが所得効果であり、税率の上昇による実質可処分所得の減少を通じ消費を減少させる効果だ。この所得効果が、懸念される景気への悪影響である。
    所得効果は、概念的には、増税がアナウンスされて駆け込み需要が発生する前と、反動減が収束した後の消費の水準を比較することで計測できる。代替効果は消費のタイミングを変化させるだけで、長期的な消費水準に影響しないからだ。代替効果の発生時点(時点A)と収束時点(時点B)の特定が、推計上のポイントとなる。
    われわれの研究では、増税が確定したと人々が認識したのは、96年10月以降と仮定した。衆議院選挙で予定通りの消費税引き上げを主張する自民党が勝利した時点だ。一方で、耐久財の消費動向から、反動減は97年11月までに収束したと判断した。駆け込みで洗濯機や冷蔵庫などの耐久財を購入した場合、その反動は数年にわたり影響を及ぼす可能性がある。しかし、耐久財の消費動向をみると引き上げ後半年で96年10月の水準に戻っている。耐久財以外はより早く回復しており、12月の金融危機までに反動減はほぼ収束していた。
    総務省統計局の「家計調査」を用いて、季節性などを調整したうえで、96年第4四半期と比較した消費水準をみたのが下のグラフだ。消費税引き上げが実施された97年4月前後は、代替効果により大きく変動しているが、8月にはほぼ元の水準に戻っている。
    推計された所得効果による消費減は、1世帯・1カ月あたり562円であり、統計的に有意でなかった。97年時点の世帯数をかけて年次ベースのマクロに換算すると0.3兆円に相当する。これは、国内総生産(GDP)比で0.06%にすぎない。96年度の成長率は2.9%であったが、97年度にほぼ0%に急減速している。その変化と比較すれば、消費税が景気に与えた影響は軽微だった。

    (引用終わり)

    観察期間が増税前後わずか数カ月では不足かと。
    結局、消費増税の景気抑制効果って、アジア通貨危機とドンブリになって分からなくなっちゃったのね…

  8. 前橋 より
    ycom 様

    いつもお世話になります。

    失礼しました。 ご指摘の通り、慶応大学の土居教授のことでございます。

    また、ご指摘のように「家計の消費減の効果が500円程度」が正しい表記ですね。

    更に、いただいたコメントの最後の部分には、思わず、失笑してしまいました!
    おっしゃる通り、もし、今回の消費税の上げで景気が大きく失速すれば、時の政治家は、「それは、消費税上げのせいではなく、ヨーロッパ信用危機のせいである!」と一蹴してしまう可能性がありますね。

    そういう意味でも、私たちは、今後の政治家の動向を十分、監視する必要があります。

    あまり、僕のブログのコーナーでは政治のことは言わないように心掛けてきたのですが、それにしても、今の衆議院の民主党議員は、先の総選挙のマニフェストからして、消費税上げ法案に反対こそすれ、こともあろうか、自ら進んで消費税上げ法案を提出し、それに対して賛成票を投じる資格などは、どこをどうひっくり返しても、その正当性がないことだけは確かですね(もし、どうしてもそうしたければ、解散して新たなマニフェストを国民に示して、その信(消費税引き上げの信)を問うべきでした)。

    貴重なご意見と、ご指摘、ありがとうござました。

    前橋

  9. ペルドン より
    増税・?

    伊太利亜・・
    昨年9月に一%付加価値税を増税・・
    四月末までの1年間の徴収額・・
    2006年以降で最低・・
    アルベルト・アレジーナ教授・・
    「歳出を減らす方がはるかに良い」

    誰でも・・知っている事ですが・・・

  10. sanssouci より
    売上げは落ちました

    商売をやっていて、
    橋本内閣時の消費税増税前って景気が回復してきたなって感触でしたが、
    消費税増税で売上げの落ち込みは酷く、
    売上げが回復したのは、小渕内閣のときでした。
    その後、森内閣から小泉内閣の前半は落ち込みが酷く
    竹中・木村コンビで貸し剥しに遭いました。
    谷垣氏と民主党は米国債を買うための増税ですね。

  11. マンドラン より
    97年と現在の…

    前橋様

    日頃、自己主張を抑えて様々な経済分析を御紹介くださる姿勢に、感服しております。

    しかしながら、今回の500円云々は、少々バイアスのかかった慎重さの欠けた紹介であったように思います。

    景気は「気」の字が語るように、多分に進路的要因を含みますが、97年当時と現在では、我々国民という、一般消費者の財布の紐の締め具合が違っているように思います。
    厚生労働省の勤労統計によれば、2005年を100とした指数で、97年第1四半期は、108.8と90年以降の最高を示しています。
    それに対して、10年第2四半期は84,5に落ちています。
    (水野和夫・萱野稔人『超マクロ展望 世界経済の真実』より)
    21世紀に入って、日本の賃金(名目)は、景気の好不調に関係なく、下がり続けている事実は重いです。その重さを考慮せずに、マイナス効果は1家計あたり500円とするのは、いかがなものでしょう。
    確かに97、98年は金融メルトダウンというマイナス要因がありました。しかし、当時はまだ給料は右肩上がりでした。財布の紐の締め具合は、現在よりはるかに緩かった事実を、思い返してください。

    現実の問題として、消費税の値上がり分だけ、或いはそれ以上に、庶民の消費は減る事になる。この効果は軽く見てはならないと、私は受け止めています。
                    

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