2010/08/19 05:44 | 昨日の出来事から | コメント(3)
円高、円高とおっしゃいますが、、、
残暑が厳しい折、読者の皆様におかれましては如何がお過ごしでしょうか?
先日、日本では「何十年ぶりに最高気温を更新した」との記事の横に「円が15年ぶりに対ドルで高値を更新した」と言った記事が並んでいましたが、同じ「高い」といっても、「気温が高い」のと「為替が高い」は、本質的に違います。 つまり、例えば15年ぶりに最高気温を更新したというのは、自然現象として絶対的な比較なのでこれはまぎれもなく15年ぶりに気温の高値を表していますが、 為替レートの15年ぶりの円高は、表向き(為替のスクリーン上)では確かに15年ぶりの高値に違いありませんが、実質的に本当に高いとは限りません(「 え〜っ?! なんで??」と読者の方は思われるかもしれません)。
今週の英経済雑誌エコノミストにこれに関連した記事がありましたのでご紹介したいと思います。
IMFが行った調査によれば、現在(2010年8月)の実効為替レートは、2005年の為替レートを100とした場合に102程度であり、殆ど2005年頃の水準と変わっていません(為替のスクリーン画面では1米ドル=85円台にもかかわらず!です。 尚、今回の実効為替レートの議論では100より上では円高を意味し、100を下回った時には、基準とした時期に比べて円安である事を意味しています)。
この考え方で1994年の円が80円を割れるまで急騰した時の実効為替レートを計算しますと、2005年を100とした場合と比べても150程度まで上昇し、当時は現在の水準に比べて実効為替レートでも1.5倍も円高でした。 しかし、その後は、日本の労働賃金や物価がアメリカやヨーロッパに比べてより大きく下落した為、2007年には2005年の実効為替レート100に対して82程度まで円安だったのです(当時、名目為替(表面上)のレートは1米ドル=110−120円でした)。
これを基準に議論をすれば、今の日本の輸出企業は、現在のように名目的に15年ぶりに円高になっても十分に競争力を維持できている筈です。何故ならば、この間に国内の労働賃金と物価が大幅に下がった為に(1994年に比べて3割以上も下落した為に)、 輸出企業にすれば、もし現在の賃金や物価が1994年の労働賃金や物価と変わらないとすると、現在の為替レートは1994年の1ドル=85円の水準と比べて3割以上円安の為替レートで輸出しているのと同じ効果になっているからです(名目為替にして110円台です!)。
更に言えば、過去20年間(1990年から2010年まで)の円の実効為替レートの平均値は、2005年を100とした時に110程度であり、現在の1米ドル=85円の水準である実効為替レートである102は、過去20年間の実効為替レートの平均値よりもまだ下回っているのです(つまり過去20年間の実効為替レートの平均値よりも現在は円安なのです!)。
輸出企業にとっては、現在の実効為替レートが1994年頃の1ドル=85円に比べて3割以上も円安で内心ホクホクしているにもかかわらず、最近の1米ドル=85円台を受けて「政府が輸出企業支援の為の円高対策を検討する」との記事に私は、正直、驚きました(その陰で輸出企業は笑いが止まらないのでは、、、)。
読者の皆様、このように目先の表面上の為替レートにごまかされてはいけません! そして、どうして、今、この時期に輸出企業支援の為の円高対策が必要なのでしょうか?(財務省や日銀がこんな簡単な事を知らない筈がありませんので怪しいです。 「裏に何かある」と見た方が良さそうです)。
さて、これまでお話したことを個人ベースに置き換えてみますと、どうなるでしょうか?
例えば、1994年頃に読者の皆様の給料が20万円だったとします。 その時の為替が1米ドル=85円で、ハワイ旅行が10万円だったとします。 その時は、皆様の給料の2分の1を使えばハワイ旅行に行けました。 ところが、皆様の給料が1994年以降、個人差に関係なく全ての労働者に対して一律に減らされて、今、給料が10万円になったとします。 すると今の給料の10万円で今年の為替1米ドル=85円で同じハワイ旅行10万円に行こうとすれば、なんと給料の全てをつぎ込まないと行けません! つまり、1994年には給料の半分でいけたハワイ旅行は、今や給料の全てをつぎ込まなければ行けない程、円を相対的に多く用意する必要があります(購買力の低下)。 つまり円の実効為替レートは大幅に下がっているのです!
だから、気をつけてください! 今、「円高還元!」とか、 「15年ぶりの円高だからお得!」 の言葉が巷に出回っていると思いますが、その前に自分たちの所得や物価がそれ以上に下がってしまっている事を!!
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3 comments on “円高、円高とおっしゃいますが、、、”
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小遣い増額を求める・・論拠になるが・・
減額される・・論拠にもなる・・
とかく
難しい・・・
相変わらず円高が進んでいます。
マクロなデータを要約するとおっしゃる通りになるでのでしょうが、海外生産に踏み切れない輸出企業の現実は苦しいモノです。
過去の円高対応にしても希望退職はありましたが、ボーナス減や残業規制といった一時的な施策以外では社員の人件費を下げた事はなく、非正規労働者の増加やそれなりの工夫とかなりの運で持ち堪えて来た感があります。
それでもトントンがよいところで以前の余裕はありません。
また、対策の反動で技術の伝承は危うくなっており、世界が狭くなった今見方によっては過剰品質なモノを高い人件費をかけて作っているのではというのが実感です。
昔いっぱい円を稼いで、それを今度はだらだらとコレでいいのかと思いつつ労務費と配当で浪費する。
次に日本を背負って立つ産業があれば心おきなく後進に道を譲れるのですが。
最後、よくわからないのですが実効為替レートが下がっていると言うことは鉄だ電気(石油は高騰)だの元値は上がっていると言うことでしょうか?
日本の輸出企業で原材料が国内で賄える場合は非常にレアな場合と考えられるので、そこからも厳しいのではと思うのですが。
貴重なご意見ありがとうございました。
ミクロ(あるいは個々の企業毎)では、目の前の為替が「まずありき」ですので、おっしゃることは大変よくわかります。
過去20年間に、うまく労働賃金を引き下げることが出来た企業、あるいはデフレ経済にうまく対応できた企業ばかりでないこともよくわかります。
大変勉強になりました。
ありがとうございました。