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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2011/11/20 09:29  | 昨日の出来事から |  コメント(2)

ユーロは生き残るか、崩壊するか?!


先週号の英誌エコノミストでは、ユーロ危機に関する特集が14ページにわたって組まれていましたので、その主な内容をご紹介したいと思います。

(1) 過去に見る基軸通貨の危機

20世紀以降、大きな基軸通貨の危機は、今回のユーロ危機を含めて3度ありました。

一つ目は、1931年にイギリスが、それまでの金本位制を放棄した時です。 これ以降、それまでの大英帝国を支えてきたイギリスポンドは、もはや大英帝国を維持することが出来なり、イギリスは凋落の一途をたどります。

2つ目は、1971年に、アメリカがやはり金本位制を放棄したときです。 それ以降、アメリカドルは、1980年代のポール ボルカー財務長官のよる通貨信頼に向けた高金利政策を取るまで、暴落の一途を辿りました。

かつて、オーストリアの経済学者ジョセフ シュムペーター(Joseph Shumpeter)が述べたように、「その国の金融システム(通貨)は、その国の必要とするもの、現在行っているもの、あるいは現在苦しんでいるもの全てを反映している」と言いました。

今、通貨としてのユーロは、まさに彼の言葉の通り、EUの抱え込んでいる全てを表現しています。しかし、今回の通貨としてのユーロ問題は、域内の国債、株価、銀行の問題にとどまらす、EU域外のヨーロッパにもその影響が及び、更には世界全体を景気後退に追い込む危険性を孕んでいます。

また、アメリカの経済学者ミルトン フリードマン(Milton Friedman)とマーチン フェルドスタイン(Martin Feldstein)が以前から指摘しているように「ヨーロッパは、本質的には、非常に不安定である」とし、そもそもヨーロッパにおける単一通貨ユーロは、非常に不安定な通貨であることを指摘しています。

(2) 理屈上のユーロ危機の処方箋

以前にも何度も取り上げましたが、今回のユーロ通貨危機の根本的な問題は、それまで各国が保有していた自国通貨を放棄して、割高な通貨であるかつてのドイツ マルクとフランス フランを基本とした単一通貨ユーロを採用したことによって、それまでの弱い自国通貨で経済が成り立っていた南ヨーロッパの国々の国際競争力(特にドイツに対する競争力)が極端に弱くなり、その結果として経常赤字が恒常化し、それが財政赤字を膨らませたことが主たる原因です(更には、2008年のリーマン ショックによる世界同時不況が発生し、これを回避するために大量の国債を発行したことが財政悪化に拍車をかけました)。

「では、これを改善するには、どうすればいいか?」と言えば、理屈上は、自国の労働賃金を引き下げ、製品価格を下げて、その国の生産性を上げるしかありません。もし、これが出来ないのであれば、今回のギリシャのように、早晩、国家財政は行き詰まり、景気は後退し、失業率は上昇してしまいます。

また、財政赤字を減らすには、今、日本も含めて各国が取り組んでいる増税と歳出削減が必要ですが、これは、非常に厳しい政策です。 何故ならば、日本を含む西側の先進国は、今、高齢化社会になり、より少ない労働者で高齢者を養う時代にあって、更なる増税と歳出削減は、自殺行為に近いものがあります(いい例が、EUとIMFによって強制的な増税と歳出削減を実施したことで、経済が余計にガタガタになってしまったギリシャがそうです)。

経験則として、競争力を高めたいならば、生産性を上げるほうが、賃金カットより痛みは少ないといえます。 また、政府が、財政赤字を削減したいならば、歳出削減をする方が増税するよりも4倍も効果があります(つまり、1兆円の歳出削減は、4兆円の増税による財政赤字の改善に匹敵します)。 また、経済を成長させることは、増税や歳出削減よりもずっと効果があります。 しかし、信用不安が起きてしまってからでは、経済を成長させることは望み薄です。

理屈上、一番いい処方箋は、「経済改革を行いながら生産性を上げること」なのですが、誰もが「そんな事はわかっているが簡単には出来ない」と言います。 日本でもかつて小泉政権が「改革なくして成長なし」の下、様々な経済改革を行いましたが、その後は頓挫してしまいました。

そして、現在の野田政権によれば、日本の財政赤字削減の処方箋は大増税(復興増税と消費税上げ)による財政赤字削減しか念頭にないようです。  先に述べた英誌エコノミストの経験則に従えば、確かに目先的には財政赤字は改善するがその効果は限られ、むしろその副作用として、今後、日本経済はより厳しい不況に陥るしかありません。 

(3)更に悩ましい問題

現在のユーロには更に悩ましい問題を抱えています。
その一つ目は、信用不安の伝染が止まらないことです。
ユーロ危機は、ギリシャの財政に対する「信用不安」に始まり、それがPIIGSに対して「信用不安」が広まり、そして、今度は、ギリシャがデフォルトの可能性にまで追い込まれることによって、それまでの「不安」が「現実問題」となり、同様にスペインや、イタリアに対する「信用不安」も、これらの国のデフォルトが「現実性」を帯びるまで事態は深刻化しています。 

しかし、今回のユーロ危機は、そこにとどまりません。 通貨ユーロを支えていた2大国ドイツとフランスの内、フランスに対する「信用不安」が起こり、ユーロの根幹部分にまで信用不安は侵食しています。 更には、今回のユーロ危機で、EU加盟国でないヨーロッパ周辺国までその影響が及び始めています。 これまで比較的好調であったポーランドやスロバキア、更にエストニアの国々がここにきて景気の低迷と通貨安に悩まされ始めているのです。

2つ目の問題が、社会に対して不満を持つ人の受け皿となる人気主義(反EU主義:ファシズムや反イスラム主義)の台頭です。特に、最近、大きな問題になってきているのが、反イスラム運動です。 現実問題としてオランダでは、イスラム教徒の移民を制限する運動が起こっていますし、これまでイスラムの移民に対して比較的寛容であったデンマークやスエーデンにまでイスラム教徒に対する反感が高まっています。 そこへ厄介な人気取り思想「ファシズム」が台頭しています。 それは、フランス、オーストラリアのファシスト政党や、また、ドイツのネオ ナチズムに見られる運動です。 英誌エコノミストは、現在の危機的状況であるヨーロッパ社会にあって、不満を持つ人達の受け皿としてこうした動きが広がりを見せている事に強い警戒感を示しています。

(4)ユーロは生き残るか、崩壊するか

英誌エコノミストは、この命題に答える為には、次の4つの選択の中で、ユーロがどういった選択をするかで決まるとしています。

一つ目は、ヨーロッパがグロ-バリゼイエション(globalization)に対してどう向き合うか決まるとしています。 つまり「より高い経済成長を促進しなければ、財政赤字に苦しむ国が破綻から立ち直る可能性は殆どない」としています。 自国内のしがらみだらけの社会の仕組みを改革し、生産性を上げ、国際競争力をつけることが一番大事であると何度も強調しています(それは、誰もが「非常に難しい」と言うが)。

2つ目は、ヨーロッパ内で台頭している人気取り主義(反イスラムや、ファシズムの台頭)を排除できるかどうかで決まるとしています。 今、厳しい財政削減や、賃金カットに不満を持つ人々が、こうした人気取り主義に走る危険性が高まっています。また、ドイツ等の債権国内でも、ファシズム等の排他主義が台頭しています。 現在ユーロを運営しているエリートたちは、今のヨーロッパをEU(ブラッセル)の下にしっかり結束する必要があるとしています。

3つ目は、ドイツとフランスのリーダー シップ次第で決まるとしています。 今、フランスの信用が揺らぐ中、EUのリーダー シップが、ドイツ一国に集中する危険性を孕んでいる(これは不健全である)。 あるいは、逆に、フランスは、ECBの役割を自国の都合のいいように変えようとしてドイツを対立しているが、今後は、この2国間のリーダー シップとそのバランスが非常に大切であると指摘しています。

4つ目は、EU周辺のヨーロッパの動き次第で決まるとしています。 今、東ヨーロッパ諸国は、現在の西ヨーロッパ諸国の混乱を心配してその動向を見守っており、彼らの運命は、EUの運命と密接につながっています。 また、イギリスも同様で、これまでヨーロッパが市場開放と経済自由化の道を辿ってきたにもかかわらず、イギリスはEUの現在の危機的混乱に対して、うわの空(他人行儀)でとどまっていると嘆いています。

以上の4つの選択なかで、どういった選択をするかでユーロの命運は決まりそうであるが、その一方で、EUとしては、具体的に、今後、何をすべきであろうか?

それは、まず、域内の銀行の資本を増強することである。 次に、EU内で各国が発行している国債をユーロ ボンドとして一本化すべきである。そして、返済出来ない国には、発行させない仕組みにすべきであるとしています。

果たして、これが可能か? 答えとしては、理屈上は可能であるが、現実問題としては非常に多くの主権をEUに委譲する必要があり、その為には大変なプロセスを経なければいけないことも事実です。
このプロセスを容易にするために、現在の「重要事項は全ての国の合意がないと決められない仕組みから、中心的な役割をする国々のグループ合議制にしてはどうか」と提案しています。

また、根本的な問題である競争力のない国々の債務は、中長期的には「免除」するしかないのではないかとしています(債務の帳消し)。 当然のことながら、債権国の不満は十分わかるが、かといって、このままにしておけば、これらの競争力のない国々は財政破綻し、最終的にはユーロそのものが崩壊してしまう。 ユーロの崩壊は、それこそ誰の得にもならない。

最近、ユーロ危機に関する議論は、運命論的な議論がされがちである。
しかし、1970年代にインフレと通貨安に苛まれ、悲惨な10年を過ごしたアメリカが、1980年代に入ってインフレと闘ってドルの復権を果たした事を思えば、ユーロにもその可能性がある。 ヨーロッパには、創造性、イマジネーション、そしてデザイン力と製造力がある。また、科学やエンジニアリングの力もある。 そして過去において、世界を繋ぎ合せてきた実績を持っている (かつて、日本がバブル崩壊に苦しんでいるときも、英誌エコノミストは同じように慰めに近い言葉を並べていた事を思い出しますが、、、、)。

最後に、「ユーロは、今後、より統合されるのか、あるいは崩壊するのかとの問いに対しては、どちらもあり得であろう。 しかし、最もあり得るのは、その場しのぎ的に、今、イギリスがユーロから切り離されてしまったように、うまくやれるもの同士だけが一緒になり、それ以外の国は切り離され、また、「その場しのぎ」程度の改革で終わってしまうことである。 この時、ユーロの混乱は目先的には終わり、一息つくことが出来るであろう。 しかし、それは、より加速度的に更なる崩壊への道を辿り続けることになる。」と英誌エコノミストは警告しています。

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2 comments on “ユーロは生き残るか、崩壊するか?!
  1. ベルドン より
    崩壊か・・?

    ユーロを刷り始めてから・・
    十年近い・・繁栄の象徴だった・・にも関わらず・・ユーロ圏十七か国は・・崩壊の直前に立たされている・・

    血液でさえ・・四種類・・何故・・進化の過程で・・一種類にならなかったのか・・恐らく一種類では・・生存が危ぶまれる・・と自然は選択したのだろう・・

    歴史がある・・十七国の貨幣を・・一種類に・・統一してしまった・・その弊害は・・今日・・明らかになっている・・

    金貨が鳴れば・・魂は救われる・・
    と免罪符は・・売りまくられたが・・廃止されるまでに・・四十数年かかった・・ユーロが・・免罪符よりも・・寿命が短いのは・・御利益が少ない所為だろう・・

    ユーロ圏諸国は・・金融十字軍を解散し・・以前の通貨に・・戻る以外ない・・混乱は生じるにしても・・宗教改革は生まれないだろう・・

    フランスも・・イスラム教徒は・・人口の十%・・オランダの主要都市では・・十年以内に・・人口の過半数を占める・・
    十五年後には・・EU人口の二割がイスラム教徒・・という予測もある・・これは何を暗示するか・・よく分からない・・
    が・・
    公用語の一つが・・アラビア語になっても・・驚かないのは確かだ・・・

  2. st より
    大金持ちに一肌脱いでもらうのがいい

    どこの国も財政が目茶目茶なのに物価は安定している、だから問題は財政だけだ、大金持ちの持っている国債を紙切れにしてもらい、累進課税やキャピタルゲイン課税を厳しくして大金持ちに一肌脱いでもらい、その代わり労働者は賃金を下げる、こういう方法じゃ駄目なのかなあ。

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