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2019/09/19 05:50  | 昨日の出来事から |  コメント(0)

中国で始まった不良銀行の整理


おはようございます。

先週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。

不良債権に直面している中国の銀行Hengfeng Bankは、ここ数日、重苦しさに覆われた。8月30日に行われた銀行内の共産党委員会では、文化大革命よろしく己批判の為に銀行のCEOを含むメンバーを喚問した。その中で「誰も自分達の実績を述べるものはいなかった。彼らは、自らの至らなさと問題点を述べ、まるで、ナイフを自らの身体に向けるようであった。」と後に銀行は報告している。顔を紅潮させ、汗まみれになりながら、彼らは免職された。

習近平主席の下、自己批判の復活が、彼の国家運営の中で警戒感を引き起こしている。他の銀行でも同様の事が行われ、その事は党が経済を支配している証拠となっている。しかし、Hengfeng Bankの問題は、腐敗でボロボロになったにもかかわらず、先月、政府によって救済され、ミスを犯した従業員たちは、ある意味で安堵した。このことは、政府が銀行システムにおける悪者を操ることを意味し、2010年のドッド フランクリン法(アメリカの消費者保護法)あるいはレーニン以上の強権を持つかもしれない。

問題は、中国には、非常に多くのHengfeng Bankみたいな不良銀行があるという事である。今回は、過去3か月で3番目に行われた救済であった。5月には、規制当局は、内モンゴルのBaoshang Bankを国有化した。また、国有の中国産業商業銀行(Industrial and Commercial Bank of China: ICBC)が、北東部のBank of Jinzhouをテコ入れした。8月には、上海地方を拠点とする銀行Henghengが中国国家財産基金から資本注入を受けた。

当局は、これらの問題銀行は、中国経済にとって些末なものと表現した。確かにこれらの中で最大のHengfengの資産は、2017年で最大1.4兆人民元(2100億米ドル)であり、全中国の銀行の資産の0.5%に過ぎない。規制当局は、また、即刻、毀損した資金不足を充当してきた。Baoshang銀行がインターバンク ローンで損失した最初の例となった時、中央銀行は直ちに銀行システムに資金を供給した。

にもかかわらず、多くの金融関係者は、腐敗はもっと深いのではないかと疑っている。その懸念は、2つの事に向いている。一つ目は、中小の銀行の調達コストが上昇していることである。ここ数年、彼らは、概ね大手銀行と同じ金利でお互いに資金をやり取りしてきた。しかしBaoshang救済以来、彼らの調達コストは0.5%以上上昇している。

2番目は、Jinzhouに投資して以来、ICBCの株価は10%下落し、他の銀行も同様に下落している。ICBCの監査人は「Jinzhou銀行には多くの火種が残っている」と述べている。多くの補助金が使われ、不良債権を他のバランス シートから切り離されることを銀行関係者は期待している。 しかし投資家はそのようには見てない。中国マーチャント銀行のアナリストは、「それはあたかも、ICBCが、国家の役割を担っているかの様である」と述べている。懸念は、今後、大きな銀行は何度も何度も同様の事に召集されるだろうという事である。

実に多くの銀行が支援を必要としている。中央銀行に口座のある4327の銀行の内、420行がリスクの高い銀行である。しかし乍ら、この内、地方のちっぽけな銀行は9行しかないので、大きな混乱が起きる可能性がある。このスケールを知る為に、UBSのJason Bedford氏は、大手銀行の資本、不良債権、損失引き当てを評価した。彼の試算によれば、全体で9,2兆人民元(1,3兆米ドル)が危険であり、それは、銀行全体資本の4%に上り、中国GDPの約10分の1程度になる。これは巨大な数字であるが、しかし克服できない数字ではない。

最近では、銀行の救済が様々な方法でなされている。Baoshangは不良銀行の最大手の銀行であった。Jongzhou銀行の監査人は、不正貸し出し疑惑の最中、辞職した。Hengfengの多くの役職者たちは腐敗の罪で解雇された。Bedford氏は「これほどの規模で腐敗した銀行は、他にはなさそうに見える」と述べている。

しかし、だからと言ってこれで通常に戻ったというにはほど遠い。中国の中小銀行は、過去5年間に積極的には貸し出しを増やしており、その増加幅は144%である。その一方で大手銀行の貸し出しは53%増にとどまっている。また、彼らの多くは、インターバンクの借り入れに頼っている。これの意味することは、景気が失速すれば、大手銀行は貸し出しに対するカウンターパーティ リスクを懸念し、多くの中小銀行ではその資金調達が困難に直面する。

Autonomous ResearchのCharlene Chu氏は中国の不良債権は実際のレポートよりもはるかに多いと見込んでいる。公には2%と言われているが、実際は20%程度ではないかと見ている。彼女は「今年の混乱は、将来に横たわっている大混乱の前触れに過ぎない。しかし、中国政府はそれを認める事を相当先の時間まで先送りするであろう」と述べている。6月にデフォルトがブローカー間で起こった時、規制当局者は彼らを、主に債権者である銀行との緊急会議に引っ張り出した。Chu氏は、「中国政府がこうした事を行うのは非常に稀である」と述べている。彼らは、「全ての側(債権者、債務者)に対し、今後、誰もデフォルトする者はいない」と述べた。

たとえ、中国が、デフォルトが広がらないように出来たとしても、銀行の新しく出てくるリスクは、それ自身危険なものになっていく。最近では、中小銀行が中小企業の大手の貸し出し先になっている。それは、企業の成長を前提としているが、今や、中国経済の将来の見通しは暗い。

Hengfengでは、自己批判を迫られない時は、銀行家たちが中小企業を助けるのは自らの役割であると話すのは当然である。最近のニュースでは、Hengfengの新しい女性会長は地方の食料品会社を訪れている。 彼女は、毛沢東の肖像と全く同じポーズで、天安門広場のように広がっている刈り取られた水田を眺めた。そこにはスローガンがあり「大地なる母を愛す」とある。銀行も農業と同じで、風(景気)がどっちの方向に吹いているかを知ることはいいことである(しかし、水田に立って眺めても景気の風はわからない)。

クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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