2019/08/30 05:45 | 昨日の出来事から | コメント(0)
ジャパニフィケーション ?!
今週号の英誌エコノミストに掲題に関する記事がありましたのでご紹介したいと思います。
1920年代に、イギリスの作家E.M Fosterが「事実の話」と「その小説の筋書き」の違いをはっきりさせた。
「王が死に、それに続いて王女も死んだ」。これは事実の話である。しかし、悲劇のセンスを必要する際には、事実に続く結末以上の筋書きが必要である。つまり「王が死に、王女は悲しみにあまり後を追って死んだ」。
投資家もしかりであり、彼らは、よりこうした筋書きを好む。長く言われて久しく、何度も人々が口にするのが「ジャパニフィケーション:Japanification: 日本風になる」。 これをFoster式に要約すれば「バブルが弾け、人々は警戒的になり、経済は停滞し、物価の下落を止めることが出来ず、金利も下げ止まらない。」となる。 その最たるものであるJapanificationは悲劇そのものであり、過剰債務を抱える経済は日本と同じ道を歩む運命にある。 そこまで酷くないが、労働市場が急速に高齢化しているドイツでも同じ運命にある。
ドイツの債券市場は、今や、永遠にスタグフレーションが続くことを織り込んだ水準で取引されている。その利回りは、オーバー ナイト金利から30年債に至るまで全てマイナス金利である。これが日本と似た道を辿っている国々を襲っている状況である。例えば、アメリカの30年債の利回りは2%である。このように、ジャパニフィケーションは狭義の定義であるが、それは広く当てはまる。政治家は経済を活気づける為の手段を失ってしまったのではないかと心配している。問題は、「現在の状況は単なる一過性の出来事なのであろうか?あるいは、どこでこの物語が終わるのであろう?」である。
日本の経験は、こうした事の全ての先頭を走ってきた。日本経済に精通したPeter Tasker氏は「1998年に10年国債の利回りが2%を割り込み、人々は思わず頭を掻きむしった」と言っている。当時、日本政府は大量の債務(赤字国債)を抱えており、長期金利が低下するのは理屈に合わないとされた。 ヘッジファンドが日本国債を空売りしては、損を繰り返した。しかし国の消費者物価は下落し続け、それに合わせて金利も低下していった。
以来、Japanificationは何度も取りざたされては否定されてきた。2002年の11月に、FRBの議長になったBen Bernankeは、日本に関するスピーチで有名な「そんなことはあり得ない」と言った。日本の失敗から導き出される教訓は、「不良債権を自ら抱え込み(国債を市場から買い上げる)、銀行を整理し、景気を上げる為の政策を使い、資産価値を下げさせない」である。2008年の危機以降、これらの教訓の幾つかが適用された。それから10年後、再び、Japanificationが戻ってきた。人々は、長期金利がこれほどまで下落することに驚き続け、それはまるでかつての日本のようである。更に、金利低下は広範囲に広がっている。例えば、オーストラリアは、若い人口が多く、4半世紀の間、リセッションに苦しんだことはなかったが、今、10年国債の利回りは1%を下回っている。
この原因は、世界のスタグフレーション懸念の再燃である。2017年に世界経済が併せて拡大したように、景気低下も同じように併せて広がっている。
Fedを含めた中央銀行は政策金利を引き下げている。しかし、そこにはより多くの課題がある。短期金利は既に低いので、中央銀行が(金融政策だけで)経済を元の水準に引き上げるには相当の疑問がある。中期的なインフレを予測するスワップ マーケットの利回りから、将来のインフレに対する悲観的な見方が見え、現在の水準は年初より低い。「Japanificationの問題は、景気に刺激を与えようとしても、金融政策は効かないという事である」とスタンダート チャータード銀行のSteve Englandeは言っている。ヨーロッパは既にここ(日本化)に到達している。
それとは別の描写がある。今日のJapanificationは、その敗北から別の道につながる。もし、金融政策が機能しなくなくなれば、そこには財政政策が常にある。もし、経済が需要不足であるならば、政府が税金を引き下げ、政府支出を増やす為に安く借りる事が容易となる(安く国債を発行することが出来る)。今の処、政治はそこまで至っていないが、債券市場のJapanificationはその方向に進むことを示唆している。 「政策シフトが起きる前に景気に対する債券価格の下落リスクをしっかり見る必要がある」とEnglande氏はいう。一度、それが起きればスタグフレーション懸念は後退する。
「スタグフレーション懸念に対する政策の対応は、かつての日本以上に過激なものになりそうである。」とTasker氏は言う。債券投資家の悩ましい処は、「これが起きるのはどのくらい先のことか?」を予想することである。財政刺激策を嫌って来た国、ドイツでは、既にこれまでの考えの見直しが起こっている。今の処、まだ、議論が起こり始めたに過ぎない。財政刺激の期待が大きくなるまで債券利回りは暫く低下するかもしれない。しかし、王女は悲しいにくれて死ぬ必要はない。喪が明ければ、彼女は幸せを再び見つけるかもしれない。物語の構想は深まるばかりである。
クロコダイル通信は2019年12月末日をもって連載終了となります。
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